「フレッド、ネクタイくらいちゃんと締めたら」
朝。欠伸を一噛みしながら扉を潜った大広間。だらしない俺の姿を見留めるなり不機嫌そうに近づいたのは、ナマエ・ミョウジ。麗しのレイブンクロー生だ。
カツカツとローファーの踵を鳴らして目前までやって来ると、ナマエは眉間に皺を作ったまま、俺の襟首を引っつかんだ。その勢いでつんのめりそうになるのを堪える。ああ目の前に可愛い顔。今フリーなんだっけなあ。
彼女は俺の悪戯を掻い潜った初めての女子で、そして顔面にパンチを打ち込んできた初めての女子だった。ママにはしょっちゅうされてるけど、まさか同い年の女の子に殴られるとは思っていなくて、そして俺は当時一年生だったその瞬間から、ずっとナマエに夢中なのだ。
彼女も彼女で、なんだかんだ鬱陶しがりながらも俺とは仲がいい。じゃなきゃあ朝一に世話なんて焼かないだろう。ざまあみろよ、と先月別れたと言っていた元カレに心の中で舌を出す。
ほらできた、と胸に軽いパンチをくれると、さっさと寮の長机に走って行ってしまった。襟元を触ると、きっちり整ったタイの結び目がわかった。