ナマエ・ミョウジと始めて面と向かって話すのが、こんなタイミングだなんて。僕は机の上で何度か足をぶらつかせながら、再び深い溜息をついた。

ミョウジは僕らの学年じゃある種の有名人だ。マグル出身のスリザリン生というだけなら他にもいるし、彼らは独自のコミュニティを作って自衛している。しかし、純血主義が声高に唱えられるスリザリンで、マグル贔屓を公言する者はミョウジ1人だけだった。

彼女は半純血だというが、入学前まではマグルの世界で生活しており、その美貌もあって雑誌や広告などに起用される売れっ子モデルだった。僕もロンドンの街中に貼られたポスターなんかで、何度も彼女が笑いかけているのに出会った。

その頃はまさか彼女が魔女だなんて思っていなかったけれど、いざ入学すると、むしろ彼女がモデルだということを知る者の方が少なかった。


そして入学以来、彼女の姿を街中のビルボードや駅広告で見ることはなかった。彼女は完全に魔女としてこちらの世界に身を置き、学んでいる。成績は優秀で、毎年僕とミョウジは学年の首席争いをしていた。成績表の上だけの関係が2年続いたが、その間言葉を交わすことはなかった。

彼女は純血の同寮生からも鬱陶しがられていたし、かといってマグル出身者と仲良くするでもなく、いつも他の寮の洒落た女子たちとつるんでいた。彼女たちの制服の着こなしは、同じデザインのはずなのにどこか垢抜けている。

それは男子の目からも明らかだった。とにかく、彼女はカリスマを纏っていて、高嶺の花に間違いなかった。


僕はミョウジにちょっとした憧れを抱いている。見た目が美しいのもそうだけれど、物言いや態度がはっきりしているのところが自分と違って魅力的だった。彼女は気に入らないものに面と向かって「嫌い」と言える。それはもしかすると褒められたことじゃないのかもしれないが、僕にはずばぬけて格好よく聞こえたのだった。

だから、僕が中途半端な態度で年上のレイブンクロー生相手に慌てふためいているところを目撃されたのは、少なからずショックだった。

付き合って欲しいと告白され、できるだけ傷つけないように断ろうとしたが、あんなに目の前で涙を流され手を握られては、成すすべが見つからなかった。そこにミョウジが現れミス・ベンジャミンをひと睨みして出て行くと、途端に気分を害したミス・ベンジャミンも僕を置いたまま走り去ってしまった。

そしてその扉から、どこか機嫌が良くなったミョウジが再び姿を見せ、僕に話しかけた。彼女は置き忘れた教科書を取りに来ただけの様子だったが、僕の顔を見かねたのか「別れて正解」と言った。もしかすると遠回しな励ましだったのかもしれない。

僕がまた曖昧に彼女を擁護したところで、スッパリと跳ね除けられてしまった。僕はもう言うことがなくなって、気の利かない雑談を持ちかけたが、彼女は興味なさげに去ってしまった。


彼女から見た僕は、きっと最初から最後までパッとしない印象だったろう。思わず頭を抑える。

ミョウジが近づいた時、かすかにラベンダーのような香りがした。けしてきつくて気になるようなものではなくて、ローブの端からシャボンに乗って漂うような、おだやかな香りだった。

ほどよく化粧が施された顔、銀色のカフス、すこし踵の高い靴。どれを取っても彼女らしく、そして美しく整っていた。僕もみっともない格好をしないよう気をつけてはいるけれど、ミョウジの決定的なカリスマは、やはりその格好と釣り合った中身から発生しているように思えた。


「すごいな、彼女は」


独り言はほこりっぽい教室に霧散したまま、誰からも何の返事もない。