金属同士が激しくぶつかり、甲高い音と共に火花さえ散る。今回は向こうのエージェントもなかなかに強者を揃えてぶつけてきた。私は背後で刀を振るう上司が至極楽しげな声を出しているのに半ば呆れながら、最後の一振りを見舞う。
敵の剣が私の一撃でボキリと折れた。動揺する暇も与えぬ内にその胸を蹴り倒せば、鈍い衝撃音と共に地に倒れ伏した。
私が1人相手にいくつも手数を消費している中で、仮面の上司は正に一騎当千。すっかり我々以外にはこの場に立つ者は居なくなってしまった。任務遂行だ。
「終わったな。行くぞ」
「……本部に報告は」
「あとで良い。それよりもーー」
怪しく笑う彼の顔を見て悟る。ああ、完全に今、享楽に溺れているんだこの人は。歯をむき出しにしてニッカリ笑い、酷く意地悪そうな視線でまっすぐ私を捉える。
「折角気分が良いんだ。顔を貸せ」
「5分ですよ」
「堅い女だ」
人気のない路地裏に辿り着いた途端に美しい造形の指が私の両肩を壁に縫い付ける。そのまま近づく仮面の赤色。奥にある瞳は純黒なのだが、今は狂喜でギラギラと光っている。乱暴に唇を奪われた。熱い吐息を頬に感じる。
今日はよっぽど良かったのだろう。いつも剣を持て余し、一瞬で敵を片付けては味気ないと漏らしているのだ。返り血すら興奮材料になり、今の彼は純粋な獣のように快楽を享受し、求めている。その対象になるのは、正直嫌ではない。
私は彼ーーマスクザレッドの強さと美学に心底参っている。その完全な存在に、只ひたすらに憧れ、慕い、従い、焦がれている。彼にとって私は小間使いで、丁度良い発散先なのだろうが。それで十分だ。
ワイシャツをしっかり着込んだ私の首筋に、襟を解くこともなく噛み付く赤色。ああ意地の悪い。どうせ私はあなたに従うことしかできない立場と力量しか持ち合わせないのに。
「あ、」
思わず声が出るが痛みからなのか快楽からなのかよもや解らない。ぴたりと折り重なった互いの温度がそれを有耶無耶にしている。
「……レッド様、」
「何だ?」
「レッド様になら今殺されても構わないです」
「ほう。では相思相愛だ。私もお前を殺してみたい」
ああ歪んだ親愛だ。それがたまらなく気持ちいい。「お前は私にしか殺せない」そんな最高の誉れの言葉が私を痺れさせた。