※暗い。嘔吐表現有。


ロボット生命体がこんなに人間のように苦しんでいるのを初めてみた。

膝をついたロディマスは、ピカピカに磨き上げられた床の上にポロポロと冷却水を落としながら嗚咽している。彼らにもこんな生理現象があるとは驚いた。激しく排気する胸が上下し、体のライトが切れかけの電灯のようにジリジリと瞬きする。処理速度に体が追いついていないらしく、じわりと彼の温度が上がっているのが距離を取っている私にも判った。


「ゴホッ、……」

「ロディマス」

「ハア、ハアッ……あはは、ごめんなナマエ、みっともないとこばっか、見せて」


青い瞳は冷却水で湿り、その奥の光が曇っている。口元に伝う唾液(なのだろうか)を手の甲で拭って、ロディマスは座り込む。大きな体躯は膝を折っても私より数倍も大きいままのはずなのだが、今日の彼は随分と小さく見える。それに対して特に情を抱けないのは、やはり種族が違うからなのだろうか。わからない。

足元には咀嚼されただけの、ちっとも消化されていないパンクズが吐きだされている。ロディマスは最近、こうして人間の食物を食べてみては嘔吐して、を繰り返してばかりだ。ウルトラマグナスを筆頭に皆が怪訝な表情で注意するものの、表では気丈に振る舞う船長であるロディマスはさらっとかわしてしまう。実際問題として、機能のどこかが故障するリスクが強まるだけなのできっぱりとやめろ、と軍医は念を押している。しかしどうにも中毒になってしまっているようで、いつのまにかこういうことになっている。


「おたくと同じ物食って、同じように過ごしてみたいだけ、なんだ、けど、」


私には彼が私に憧れる意味がわからない。人間よりずっとすぐれているはずの彼が、どうしてこの種族に憧れて、近づきたいと思っているのか、まったく不明だ。だから私は彼を理解できないし、どこか怖くて関係を作ることができなかった。


「無理だよ、だってロディマスは人間じゃないもの」


現に簡単に言ってしまえる。彼がどんな気持ちで聞いているのかは想像しかできないきっと傷ついているのだろうとぼんやり思う。それすら承知の上で、無感情に、気遣いもなく、通達できてしまうから、よっぽど私は酷いのかもしれない。そんな人間の小娘相手に、ロディマスはいつも飽きもせず、笑って見せるから、ほんとうに、できた人格だと思う。そう思考しているけれど、他人事だ。


「わかってるって……

俺がナマエと出身も種族も性別の概念も年齢も価値観も機能も思考も違うってことも、おたくが俺のことなんとも思ってないことも、こんなことしても無駄だってことも、俺の自己満足だってことも、ぜんぶわかってるんだよ……。

でもこんなバカみたいなことする以外に、どうすればいいのか判らない。どうやって現実から目を逸らせばいいのか……。もういやだ、ぜんぶ忘れたいと思っちまう……」


忘れてもだれも困らないよ、とはとうとう言えなかった。ただ目の前で膝に顔を埋めてぽろぽろ泣く、何万年も生きた金属の塊を見上げていた。