「ラチェットは雪みたいだねえ」
真っ白でつめたい機体が心地よい彼は、雪に例えるのがいちばんしっくりくる。小さい頃、大雪の日には、一面白銀に覆われた公園で夜になるまで遊んだっけ。そういう思い出があるから雪は好きだ。
今年もたくさん雪が降って、家の周りはまた真っ白だ。
手袋をしていない手でひと掬いして、やわやわ握る。生垣の小さな葉っぱをいちまい、取って、ふたつに割って、その雪玉にくっつけてあげる。雪うさぎ。
手が冷たさで、すぐに赤くなってしまったけれど、かわいくできあがってしまった雪うさぎの置き場に迷う。そのへんに置いてしまうと、朝にはまた新雪に埋もれてしまうから、かわいそうだ。
「うさぎを昔、飼っていたんだよ。白くてふわふわで、あまり遊んでくれない子。ラチェット、あの子の双子じゃあないよね?」
「ばか言うなよ」
私が雪で遊んでいるうしろでは、救急車が一台、私が家に入るのを見届けようと待っている。ライトをカチカチさせて「はやくしろ風邪ひくぞ」と急かしていなければ、雪に紛れてしまって見えなくなりそうだ。
そんな彼に近づいて、人気がないのをいいことに、トランスフォームして、とせがむと、しばらく考えたあとに結局変形してくれたから、やっぱりラチェットは私を甘やかしている。
「これ、あげるね」
変形したラチェットのつまさきに、小さな小さな雪像を置いた。
ラチェットが何か言う前に、おやすみ、と残して家の中に入った。年甲斐もなく、いたずらしてしまった。それがおもしろくて高い笑い声が出そうになるのを抑えながら、部屋がある二階への階段を駆け上がる。
出窓から玄関をのぞくと、思った通り足に小さな白い点をくっつけたラチェットが、おろおろと行き場をなくしていたから、ついに声を出して笑ってしまった。
足をうごかしてしまったら、うさぎが壊れちゃうものね。優しいラチェット。
最後には、指先で拾い上げて、助手席にひょいと入れたまま救急車になって帰って行った。ラチェットと、こんな夜にドライブできるなんて幸運なうさぎだ。
バイバイ、また明日、基地の冷凍庫で会おうね。