「誕生日、今日になったんだね」
不貞腐れる彼女にどう言葉をかけていいかわからず、黙りこくる。それが更に気に喰わないらしい目の前の少女は、大人になりかけの瞳でじろりとこちらを睨みつけた。ダニエルたちが、出生日のわからない私のために今日という日をそれにしてくれたのが、彼女には面白くなかったのだ。と、推測する。
「機嫌治せよ、なにも君が怒る理由なんてあるかい」
溜息交じりの台詞を聞くなり、それまでデスクに腰かけていた彼女が足を踏み鳴らしてずんずんとこちらへ歩んでくるものだから、驚いて身を引いてしまった。こんなに小さくて非力ないきものに、まったく情けないことだが、自分の支配権は奪われてしまっているのだ。
彼女が言うままに身を屈め目線を同じにしてやる。眉を吊り上げていると思った彼女の顔は、こうして視点を下げてみると、困ったことに泣き出しそうな表情だったので、慌てる。
「私は、ええと、まずいことしたかね」
こういうとき、自分の声の抑揚の無さにうんざりする。ホットロッドに今ばかりは助けを乞いたい。あの軽口がここまで恋しいけれど、生憎彼はもう総司令官だった。
もう何万回も、何億回も、マグナスはまずいことを繰り返している。そう言いつつ、ことばを溢すごとに彼女の瞳に張った涙の膜が厚くなるので、いつそれが珠になって溢れてしまうかと気が気でない。
「すまない、君を傷つけたくない。頼むから、教えてくれ、どうしたらいいか」
こういうことはしょっちゅうだった。私が鈍感故に彼女を悲しませている。その度に、最終的に身の振り方を教えてくれと懇願する様はとても他人には見せられない。
「マグナス、あなた、自分の生まれたことを祝福されなきゃいけないよ。今まで何万、何億回も見送って来たんだから、そのぶん、幸せを感じなくてはいけないよ。だから私にキスさせてね、何回もキスさせて」
彼女が両手で私の頬を抱えて、金属の唇にやわらかな自身のくちびるを押し当てた。何度も何度も、小さな音を立てて、私という生命の此処に或ることを祝うので、すっかり私は愛しさに追いやられてしまった。