仮宿 


 小さな頃から不思議な物に魅かれる性分だった。
幽霊の正体が枯れススキだなんて、味気なさ過ぎるじゃないか。
 代々医者の家に生まれたおかげで、興味を持てる物は数多く倉に詰まっている。
 けれど一番興味が有ったのは、気紛れに家に立ち寄る蟲師達。
出来るものなら彼らと旅をしたいと願ったが、自分が子供である事を理由に断られた。
 いつだかの夏の日、蟲師が自分と同じ歳くらいの少年を一人連れていた。
奇異な外見に目を奪われたが、蟲師に向ける穏やかさと対照的に、こちらへ向ける思い詰めたような表情が気に障る。
「見習いだけど、この子も蟲師だよ」
 そう微笑んだ蟲師と父の、自分にとっては退屈な用件が済むまでの間、客間から庭へ少年を連れ出した。
「お前も、すぐ余所に行くんだろ? 今の内に面白い話を聞かせてくれよ」
少々出し渋られたが充分に興味深く、共に旅をしている気分を味わえる。
「じゃあ、オレの宝物を見せてやるよ」
 倉へと場所を換え、猿顔の干からびた小柄な人魚や、引き抜けない妖刀を自慢気に語ると少年はドン引きした。

 日本人には無い、鮮烈な緑色の目に、どんな世界が映っているのかが知りたい。
でなければ、近い世界に触れていたい。
 珍品を本格的に集め始めたのは、ただ、それだけの事。

 父が亡くなり、他の者の足が遠退いても自分の元へ、子供時代に居た蟲師達と同じく。
「化野センセ」
色鮮やかな青年になった少年は薬箱を背負い、ふらりと気紛れにやって来る。

20060129




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