「ロラン……」
 ルールや手順の説明を敵側の二人から詳しく聞いたロランを、諌めるような落胆したような潜めた声で立会人仲間が呼ぶ。
「解っています。僕にだって、彼等の目的ぐらい」
ロランも小声で応じる。その目は感情を隠さず強く光っていた。

 「使用出来る物は剣のみ。他の武器の使用、戦闘不能、あるいは自ら敗北を認めた時点で終了とします! 異議有る者は一歩前に、無き者は騎士の精神を守ると誓って下さい!」
「神と人の前に!」
当事者達が異口同音で応え、それを聞いたロランは頷いて短く一言発した。
「始め!」

 レイピアとマンゴーシュの短剣で二刀流の親衛隊員に対し、エペ一本の銃士隊員は不利に思えるが、刺す事に特化したレイピアに防御と近距離攻撃しか出来ない短剣と、刺すだけでなく斬れるエペとの戦力に大きな差は無い。
 突き出されたエペの方向を短剣がそらし、レイピアの攻撃をかわして避ける。
道具は飽くまでも道具でしかなく、使う者の技量によるのだ。
 走りながら何度も打ち合い、腕力の掛かった鉄の刃と刃がガリガリと音を立てて削れる。
「やるじゃないか」
「貴様もな!」
まるで旧友のように決闘者達は互いを誉め合った。

「まだ続けるのかよ。さっさと終わらせよーぜ」
退屈になったのか、あろうことか銃士隊員側の立会人が、舌打ちして懐からマスケットを取り出した。
当然のように照準は決闘中の親衛隊員に当てられている。
「卑怯な!」
ロランは怒鳴り、その右腕に肩から体当たりした。
 銃口は決闘者達から逸れたが、火の着いた火薬は一瞬遅れて、呑気に見物していた人々へ鉛玉を送り出す。
追い払われた鳥のように、けたたましく叫びながら無関係な観客達は物陰に隠れた。

 マスケットには、銃弾が二つ入っているという。一つ目の弾は敵を倒す為に、二発目は敵の命を奪う為に。
「うおおおお!」
 ロランは声の限り叫び、こちらに銃口を向ける二人に突進した。
腕を押さえてうずくまる立会人の右肩の付け根に剣を刺して牽制し、引き抜いた勢いを利用してもう一人の脇腹を斬り裂く。
痛みで悶える手ごと銃を踏みつけて、辺りを見廻せば親衛隊員対銃士隊員の乱戦の最中だった。

 「ヤバい! 銃士隊が来るぞ!」
誰か発した声で、それぞれが慌てて武器をしまい、怪我を負った仲間を担いで逃げる。
数人の隊員を引き連れて現れたのは、少し位が上の者のようだった。
「決闘の知らせを受けて来た! 親衛隊員も居るようだな。首謀者は誰だ!」
「小隊長、畏れながら決闘ではなく合同訓練です」
「こんなに怪我人を出してどうする! 訓練なら他でやれ!」
「酔漢の喧嘩を仲裁しながらだったので」
 飄々と追及をかわす銃士隊員の声から遠ざかりながら、ロランは顔に滲み出た汗を袖で拭き取って、自らに言い聞かせる。
(僕は、これからも何度だって戦うだろうし、人を殺す事にも慣れるだろう。けれど、そうならなくては何も護れない)
土で汚れて擦り傷の出来た顔を上げ、前を見て強く決心した。
(あの御方のデュランダルになど……! 望むべくもない!)


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