修道院リヴィエール・サン・ミシェルにある地下牢の中でも、一部の者にしか知らされていない部屋が有る。
壁の窪みに誰の物とも知れぬ頭骸骨が置かれている螺旋階段を降りた先、そこには“真実を見る者”と渾名されている男が一人きりで住んでいる。
それだけでも彼の酔狂具合が解るというものだ。

 赤味を帯びた長い髪を熱帯植物の葉のように結い上げ、喉元に小さな十字架があしらわれている服を着た彼の名は、シィエン・ベルモンドという。
背が高いものの、日の光に晒された事のない色白な皮膚のせいか、どことなく華奢な印象の20代半ばの男だ。
魔女狩りの嵐がようやく収まり拷問が法で禁じられた現代に於いて、シュリウ枢機卿が公認している――つまり唯一の拷問吏である彼と訊問室の存在は、修道士達と共に僕達リシュリウ親衛隊が命がけで守っている国家機密なのだ。

 僕は殺風景な部屋の真ん中に有る、革手錠が付いた石で出来た椅子に、連れて来た囚人を拘束した。
「ベルモンドさん、彼は連続失踪事件の犯人で……アチッ!!」
罪状を読み上げて部屋の主に説明しかけたその時、僕の頭に火種が着地した。
「何するんですか! ベルモンドさん!!」
「ロラン、そんな事より報酬が先だろう」
僕に吹き付けたせいで、煙草が無くなった東洋趣味のパイプを指で摘みながら彼は言う。
「――解りましたよ!」
 渋々と、赤黒く汚れた鞘に入った短剣をポケットから取り出した。
「これはクロワ・デュ・トラオワールにほど近い裏通りで、丸1ヶ月毎日続いた、30人が犠牲になった連続通り魔に使われた物です」
彼はしげしげと渡された短剣を見る。
「この刃の曇り具合……良く見ると刃零れもあるな。柄だけでなく鞘にも血が染み込んでいる……。使った後に慌てて隠した姿が目に映るようだ。しかも絞首刑場近くで起きた殺傷事件とは、何とも喜劇的ではないか。スペェ〜るブッ!! 引き受けよう!」
凶悪犯罪に使われた武器収集を趣味とする彼は、拷問し情報を引き出す報酬としてそれを要求するのだ。
「それでは」
 咳払いを一つして、鉄格子で仕切られた部屋の外に移動した僕は、続きを読み上げる。
「事件が始まったのは4ヶ月前。被害者10人は、いずれも黒髪の若い女性です」
「旦那ァ、誤解でさァ! 俺はそんな事しちゃいませんぜ!!」
囚人は日々の労働で鍛え上げられた身体を揺らして訴える。
「我々リシュリウ親衛隊第三分隊まで駆り出され、冤罪の無いようきっちりと調べましたが被害者の行方が特定出来ていません」
「ほうほう。ではその行方とやらを吐かせれば良いのだな。……ふむ、いつもいつも刻んでばかりで飽きていたところだ」
顎に触れながら何かを考え始めたベルモンドさんに囚人は中止を求める。
「ちょッ……!! この法律に守られたフランスで、拷問なんて冗談だろ!?」
「悪いが私は冗談が通じない質でな」
どちらが悪人か解らない笑みを浮かべたベルモンドさんは、レイピアにも見える細身の両刃剣を鞘から引き抜いた。

 性別を問わない魔女狩りの犠牲者のほとんどは、極普通の人間だった。
しかし、とある貴族の落とし種をその身体に宿し、処刑される直前に彼を残した奴隷女性は、本当の魔女だったのだろう。
奇妙にも刃の片側が白く、もう一方が黒いだけでなく他の誰にも扱えないそれは、魔女の名を冠された創世の七曜剣・第一の剣『ランディ』なのだから。


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