「宵闇の羽根の方はどこに居られるのでしょう?」 ほんと癇に障る。 丁度私の木の下にいる鶴姫という女を睨んだけど、当の本人は気付いていない。 同盟を組んだってだけでそんなうろちょろしないでよ。 つーか、氏政様もなんで伊予河野の周りは敵ばかりで危ないじゃろうなんて言って小田原城においてんの!? こいつ、同盟の主じゃなかったら、命令無しでも暗殺しそう……。 まぁ、忍が私情で人を殺めるなんて、ご法度だからできなさそうだけど。 忍って役職は不便だ。 なんて思いながら、私は鶴姫を監視した。 すると、とんとんといきなり肩を二回叩かれた。 「っ!?」 「…………」 「な、なんだ……小太郎か」 驚いて振り向けば小太郎がいつもの無表情で腕を組んでいた。 気配がないからいっつも驚いちゃうんだよね。 「ね、あの女むかつく。たまたま小太郎が任務でやっただけなのに、あの女は自分を助けてくれたと感じるなんて自惚れすぎ……」 もう、考えただけで胃の臓のあたりがむかむかする。 そんな自分は周りから見れば嫌な女なんだろうな。 嫉妬して、むかついて、殺せたら良いのになんて考える女は。 良い女ってのは、やっぱり鶴姫のように純白可憐な子をさすんだろう。 私の勝ち目なんて一かけらもなくて……。 みんな小太郎は心がないなんて言うけどちゃんとあるんだよ。 だから、いつか鶴姫の所に行っちゃいそうで……。 「ああ、もう最悪……」 座り込んで膝に顔を埋める。 忍じゃないよ、こんなの……。 心なんて無くさなきゃならないのに。 涙が、溢れる。 「…………」 「こた、ろ?」 無言で、頭を撫でられた。 ずっと撫でられて、顔を上げると頭を撫でてた手が離れてがちゃりと金属の音がした。 「え?」 音の方を見ると小太郎の兜が外されていた。 なんで……? 兜は外でなんか外さないのに。 ってか、部屋でも外してるとこ何回か見たことあるだけなのに。 「んっ……」 戸惑っていると、小太郎の顔が近付いて口付けをされた。 そっと重ねるだけの口付け。 あぁ、兜を外したのはこのためなんだ。 「こたろ……」 唇が離れて、名前を呼ぶといつも横一線の口が今は口角が上がっていた。 え……?笑ってる? そのまま、ちゅっと音をたてて頬に口付けされたかと思うと、兜をかぶって消えた。 その動作は流れるようで、あたしが頬への口付けに固まっている間に終わった。 私の膝の上には鶴姫の言う宵闇の羽根が一枚乗っていた。 無音の言葉 (「心配しなくてもお前から離れはしない」って言われた気がした) [戻る] ×
|