「さっむっ……」 屋上に来て第一声がそれ。 まぁ、寒いのは当たり前か。 今12月だし。 街ではもう、真っ赤なおっ鼻の〜トナカイさんが〜って鳴ってるし。 地球温暖化、絶対嘘だ。 何処が温暖化してんの? あたし、既に手が真っ赤なんだけど。 もう、寒いより痛い。 フェンス越しにグラウンドを見ると、女の子が寒いとか言いながらみんなで集まって暖をといていた。 こんな寒いのに外で体育なんて、同情するよ。なんて思っていると予鈴が聞こえた。 あ、5限目もうちょっとで始まる。 今から戻るの面倒くさいな。 来たばっかりなのに……。 もう良いや、サボっちゃえ。 どうせ数学だし。 先生が授業でないと親呼び出すって言ってたけど良いや。 一応テストでは、ぎりぎり赤点取ってないから。 「お母さん、私は立派に何回も授業をサボれるようになりました」 これで、不良の仲間入りです。 なんて凍えるような寒空の下、ぽつりと呟いた声は直ぐ違う声にかき消された。 「何言ってんの。授業始まるよ」 頭上から聞こえた声の先に視線を動かすと、溜息をついて呆れた顔をする人物。 「あ、お母さん」 「誰がお母さんだっての」 「髪、オレンジに染めたんだ。歳なのに冒険するねぇ」 「これは地毛。ってか俺まだ十七だから。全然歳じゃないからね」 いい加減にしなさい。なんて、苦笑いしながら軽く私の頭を叩いた。 「いた……」 別に痛くもなんも無いけど。 佐助もそのことが分かっているのか華麗に無視された。 「また、サボるの?」 「うん」 「なんで?」 「ダルい」 そう答えると、また溜息が聞こえた。 今の溜息に、だから馬鹿なんだよなんて意味が含まれてたような気がしたんだけど。 少し、睨んだような目で佐助を見ると、ぽんと頭に手を乗せられた。 ダルくても受けるのが授業でしょ。何て軽く説教を垂れながら佐助が上着を脱いだ。 そして、ふわりと肩が少し重くなった。 「なに、これ」 かけられた上着に手を掛ける。 広がる佐助の匂いにほんの少し心拍数が上がったような気がした。 ちきしょう、なんで爽やかな匂いなんだよ。 落ち着くじゃんか、このやろー。 そう、ふて腐れながら佐助の上着で身体を覆う。 「何って、制服。寒いでしょ?」 「別に」 「身体震えてるから。変な意地張らないの」 「うるさい」 ふい、と佐助と反対の方に顔を向ける。 何でばれてるのさ。 何で気付いてくれて嬉しいなんて思ってんのさ。 とうとう動悸が激しくなってきた。 更年期障害かも。あー私も歳だな…… 「佐助は」 「ん?」 「佐助は、寒くない訳?」 「寒いよ、今にも風邪引きそう」 佐助は犬みたいに身震いして、笑った。 そんな顔で笑わないで欲しいんだけど……。 「だったら、これ……」 「だから、教室帰ろ?」 その言葉と同時に差し出された手。 あぁ、もう気に食わない。 落ち着け心臓。 熱くなるな、顔。 言い聞かせても無駄で、佐助に顔を見られないようにするためには手を取って俯くしかなかった。 繋がれた手から佐助の体温が伝わる。 やばい、嬉しい。 にやける顔を必死で抑えるけど、そんなの焼け石に水で。 「ばか」 「馬鹿はどっちだか。毎回学校中探し回って迎えに行くこっちの身にもなって欲しいよ」 「嫌なら、来なければ良いのに」 反対の気持ちを思わず口にした。 来て欲しいのに。堪らなく、嬉しいのに。 私も大概、素直じゃないな。 自分自身に呆れて苦笑いしかでてこないし。 そんな私の苦笑いではなく、右斜め上からくすりと楽しそうな笑い声が聞こえた。 「嫌なら、はじめから行ってないよ」 ……なんで、一番欲しい言葉をくれるかな。 心拍数、また上がった。 うるさいっての、心臓め。 佐助に聞こえるから。お願いだから静まってよ。 「なんで、毎回授業サボろうとしてるか、知ってる?」 「さぁ?」 わざと惚けたような声にも構わず、呟いた。 「佐助が、迎えに来てくれるから」 最高潮に激しくなった動悸とは対照に、落ち着いた佐助の声が小さな笑いの後に聞こえた。 「知ってるよ」 お迎え、待ってます (君が来るまでずっと) [戻る] ×
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