B short | ナノ





私に出来る最大のお洒落をしてあの方を待つ。
早くお会いしたい。
 
あの方にお会いするのはもういつぶりだろう。
前にお会いした時は桜が舞っていた。
今は、蝉が鳴くような季節。


もう結構経ってる……。


それだけお会いしてないと分かれば余計に待ち遠しくなる。

そんな事を思いながら三日月を見上げた。
すると、一つの影がこちらに近付いてきた。

 

「Hey,待たせたな」
「っ! 政宗様っ!」
「Long time no see.良い子にしてたか、なまえ?」
「は、はいっ!」
 

編み笠を取った政宗様に近付いた。
久しぶりの政宗様の香り。
心臓が緊張で暴れてるけど、どうしてだろう、この香りに落ち着いてる自分も居る。


「お会いしとうございました……!」
「あぁ、俺もだ」

政宗様に抱き締められて、私達の距離は一寸もない。
政宗様の低い体温が心地よくて思わず胸に額を寄せた。

真夏なのに、抱きついていても不快じゃない。
それは、政宗様の体温が低いってこともあるけど、それほど政宗様に恋していることにもなる。


「相変わらず、なまえは熱いな」
「政宗様はいつも冷とうございます」
「俺は体温低いからな。まぁなまえの体温が心地良いのもそれが原因だろうな」


私が政宗様の体温が心地良いと考えていた時に政宗様が私の体温を心地良いと考えて下さったなんて。
同じ思考だったなんて、嬉しい。



「政宗様……お慕いしております」
「Me too.なまえ、愛してる」


顎を掴まれて、政宗様と視線が絡み合う。
引き寄せられるように、唇が重なった。


「んっ……っ、は……ん」

甘く痺れるような深い口付け。
どうしよう、切なくなる。

こんな忘れられないような口付けをして、また文が来るのをひたすら待っていなくてはならないなんて……。
 
苦しい。
本当はいつ来るか分からない文を待つなんて、したくない。
けど、政宗様は天下をお取りになられる器の方。
ただのしがない町娘がなにかできるはずがない。
できるのは、気の遠くなる時間を待つだけ。


「っ……はぁっ……」
「そんな顔するんじゃねぇ」
「政宗様……なまえはっ……!」

私の望みなんか言えない。
文を待つのが苦しくて寂しいなんて。
政宗様も忙しいのに。


「次の戦が終われば、また会いに来る」
「っ……戦ですか……」
「あぁ。奥州を完全に俺のものにする」


そう言った政宗様は不敵に笑った。
絶対勝てると、自信に満ち溢れていた目をしていた。


けど、私は心配と不安でどうにかなりそう。
政宗様はお強いから、そんなことはありえないだろうけど、もしもの事があるかもしれない。
そう思うと、今にも胸が張り裂けそうになる。



「生きて、生きて帰ってきて……っ!」
 
涙で前が滲んで政宗様が良く見えない。
焼き付けとかないといけないのに……。
 
再び政宗様の胸に顔を寄せた。


「Of course.お前を置いて逝けるか」
「本当ですか……?」
「あぁ、死ぬときはなまえの腕の中だ」
「政宗様……」


「お前の体温を感じながらじゃねぇと死ぬに死にきれねぇ。だから俺は必ず帰ってくる」
「約束、してください……」
「あぁ、約束する。だからお前は信じて待ってろ」


「っ……はい……」



不安になろうが、寂しくなろうが、苦しくなろうが、悲しくなろうが……私には『待つ』としか選択肢はないのですね。

選択肢が一つしかならないのならば、私はそれを全うするまでです。


あなたが望むなら
(幾千でも幾万でも信じて待ちましょう)
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