mine | ナノ





「なまえ!! その卵焼きくれ!」
「え? 政宗君のお弁当にも入ってるじゃん」
「俺はなまえの作った卵焼きが食いてーんだよ」
「……別にいいけど」
「Thanks!」


嬉しそうに私の弁当から卵焼きをとって口に入れた。

……それ作ったの私じゃなくて、お母さんなんだけどな。
まあ、嬉しそうにしてるから言わなくてもいいか。


大体、私のより政宗君の卵焼きの方が断然美味しそうなんだけど。
何でわざわざ私のやつが欲しいんだか。


「なまえ、どうした?」
「ちょっと、気になることがあってさ」
「Ah? 何が気になんだ?」
「えっとね……」


卵焼きのことは別に言う必要ないし、言わないでおこう。
この際だから、今まで気になってたことを聞いちゃおうかな。


「……政宗君は、何でこの此処に入学してきたの?」
「はっ!?」
「政宗君って、野球の名門校からいくつも推薦来てたんだよね?」
「あ、ああ」


何で政宗君の目が泳いでるんだろう。
よく分かんないけど、触れないでおいた方が良いよね。


「まあ、ここも結構野球部は強いけどさ。やっぱり私立の方が強いでしょ? なのになんでわざわざ此処に来たのか不思議だったんだよね」


初めは奨学金を使っても私立にいけない位家計が貧しいのかな、なんて思ってたけど。
毎日の豪華すぎるお弁当や身なりからして、家計が苦しそうには到底見えない。

高校で野球を続ける気がないなら、こんな公立高校に入学するのは分かる。
けど、普通に野球を続けてるんだから、絶対に私立の方がいいはず。



やっぱり、私立じゃレギュラー争いが激しいから?
……いや、政宗君の実力なら絶対に一年でレギュラーを勝ち取れる。




「なんで?」


私が訊けば、目を泳がしていた政宗君が俯いた。
あれ? 訊いちゃいけない事だった?


もしかして、人に話したくないトラウマに触れちゃった?



「なまえ、気付いてなかったのか?」
「え、ええ!? あ、いや……なんかごめんね?」


やっぱり訊いちゃいけない事だったんだ。
なのに、後先考えないで何でも訊くなんて、私彼女としてじゃなくて、人としてだめだよ。


申し訳ない気持ちでいっぱいになって、もう一度謝れば政宗君が顔を上げた。



「Ah? なんで謝んだよ」
「え? だって、訊かれたくない事だったんでしょ?」
「はあ?」
「だって、目泳いでたし俯くから、どう見ても訊かれたくないんじゃないの?」
「そ、それは……そういう意味じゃねえよ」
「そうなの?」


じゃあ、何であんなにうろたえてたんだろ?
訊かれたくない訳じゃないんだったら、一体なに?


「俺は……その……」
「ん? なに?」
「俺は、なまえがここに通ってっから……」
「え?」
「なまえがここに入学することが決まったから俺もここを受験したんだ」


え、ちょっと待って?
その言い方って……。


「まるで、中学の時から私のこと好きだったようなんだけど……」
「気付いてなかったのか?」
「え、あ……本当にそうなの?」


てっきり否定するんだと思ってたのに。
まさかの肯定?


「全然気付かなかった……」
「俺は、気付いてると思ってたけどな」
「え? けど、中学の時って一回も話したことないよね?」
「そうだな」


じゃあ、気付きようがないじゃん。

分からず、首を傾げると政宗君は私が疑問に思ったことが理解できたのか、口を開いた。



「俺は、ずっとお前の事見てた」
「へっ!? ずっと!?」
「ああ。ずっとな」
「そ、そうなんだ……」


やばい、何でこんな恥ずかしいことを普通に言えるわけ!?
別に私が言ったんじゃないのに、恥ずかしくて政宗君の顔が見られないんだけど!

視線を下に落として、隣に咲いていたタンポポを採って花びらを弄った。


「見てることさえ全然気付かなかったな、お前は」
「ご、ごめんね。私って回りのことあんまり気にするタイプじゃないから……」
「知ってる」
「え?」


政宗君に弄ってたタンポポを奪われた。
いきなりの事に思わず顔をあげて政宗君を見ると、ふわりと優しい笑みを浮かべていた。


ちょ、こんな政宗君の笑顔見たことないんだけど。
いつも、勝ち誇ったような笑みしかないのに、そんな笑い方も出来たんだ……。


「だから、ああやって直接告白したんだ」
「っ……!」

I LOVE YOUなんざ、一番分かりやすいだろ? と微笑みながら、私の髪にタンポポを挿した。


「似合うな。cuteだ」

タンポポを挿した後、私の髪を撫でて政宗君の手が離れた。


どうしよう、政宗君がすごく格好いい。
なにこれ、こんな政宗君知らない。


心臓が暴れてるんだけど。
顔もなんか熱いし。


「顔が赤いな。照れてんのか?」
「ちょっ、見ないで! お願い!」


手で顔を覆って政宗君に顔を見えないようにした。


なんなの! 動悸が激しすぎる!
うそうそうそ。今の出政宗君に本格的に惚れちゃった!?


「顔隠しても耳が丸見えだ」
「っ! だから、見ないでってば!」

顔隠してるから、耳隠せないんだけど!

いっそ、顔見られないように此処から逃げてやろうかと思いかけたとき、腕を引っ張られた。


「う、わっ!」
「こうした方が手っ取り早いだろ?」


訳が分からずうろたえてると、政宗君の体温や鼓動が伝わってきた。
背中に回された政宗君の腕が強く私を締め付けて、やっと気付いた。

私、政宗君に抱き締められてる……。

「まさ、むねくん……?」

確かに、こうすれば顔は見られないけど……。
さっきよりももっと顔が赤くなったような気がする。


されるがままに抱き締められていると政宗君は自分自身を嘲るように笑った。


「中学の時は、こうやってお前に触れることなんざ、叶わねえ望みだと思ってたがな」


そう呟いた後、更に強く抱き締められた。


ああ、やばい。
なにこれ。

すごい、落ち着く。


……政宗君のこと、好きだ。


「……す、き」
「Ha! 夢みてぇだ」


嬉しそうな声が上から降ってきた。


本気で惚れさせられちゃったよ。
まさか自分がこんな早く落とされるなんて思っても見なかった。





赤い顔を、隠すようにして私は政宗君の背中に腕を回した。



I HUG YOU
(政宗君の、鼓動も早い)
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