mine | ナノ




「今日は、伊達の奴来ないな」

廊下の様子を見て慶次が毎日授業が終わってすぐに来んのにさとぽつりと呟いた。

 
「まぁ、毎日来るわけじゃないだろうし」
「なに言ってんの!? カレカノでしょーが! 毎日一緒に食べなきゃ!!」
「うっさいなー」


カレカノっていっても、強制的に頷かされたんだけど。
なんか、自信持ってカレカノって言えないよねー。



「なまえなにやってんの!?」
「なにって、弁当開いてんだけど」
「一緒に食べなきゃダメでしょーが!」
「なんで? 今日誘いに来ないじゃん」
「だったら、あんたが誘いに行きなさいよ!」
「はぁ?」


なに言ってんの。
別に私は毎日一緒に食べたいとは思わないし。
それに伊達君も毎日一緒は嫌だから今日は誘いに来ないんじゃないの?

それを私がわざわざ一年の教室まで行って誘うとか、一年生に私が伊達君にベタ惚れって勘違いされそうだし。


「ほら、行ってきなよ」


強制的に弁当を持たされて、教室を追い出された。
慶次も助けてくれたっていいのに。
にこにこ笑ってるだけで頑張れよーなんて言ってたし。


あいつ等、もし伊達君がもう弁当食べてたら私、超恥かくじゃん。
もしそうだった時は絶対に一発殴らせてもらう!




「shit! 佐助、いい加減ついてくんな!!」
「いいじゃん、俺様もそのなまえ先輩って子に会いたいしー」



え、なんか今私の名前が聞こえたんだけど。
しかも、発音のいい英語も。

そっと声のする階段を覗いてみると、踊り場で弁当を持った伊達君ともう一人の男の子が揉めていた。
なにやってんだろ?


「十分も待たせてんだ! 先になまえが弁当食ってたらどうすんだよ!!」

あ、ちゃんと私のとこ来る気だったんだ。
赤茶色の髪の子に足止めくらって、遅れてただけだったんだ。


「じゃあ俺様も連れてってよー」
「NO! テメーになんか会わせるか!」


伊達君、私の事呼び付けで呼んでる。 
ってか、私といる時と話し方が全然違うじゃん。
まぁ、年上だから一応敬ってるってことなのか?

けど、雰囲気とか性格とか別の人格みたいになってるし。
こっちが本当の伊達君なんだろうなぁ。


「ん?」
「あ」

 
赤茶色の髪の子と目が合った。
やば、これじゃぁ伊達君にばれちゃうかも。
 
そっとそのまま階段から死角になる場所に身を引っ込める。
どうか、何も気にせず口論を続けて!
私はこのまま部屋に帰って、美味しく弁当を食べるから!!



「ねー政宗、今の女の子二年生だったし、もしかしたらなまえ先輩って子じゃないの?」
「Really!?」


ああもう、ばれちゃったよ……。
ドタドタとこっちに向かう足音聞こえてるよ。


 
「あはは、伊達君」
「先輩! どうしてここに!?」
「いやーお昼一緒にどうかなと思ってさ」


弁当をぷらぷらと揺らして言えば伊達君の顔が輝いたように見えた。
やっぱり、さっき赤茶色の髪の子と喋ってる時の伊達君じゃない。

「先輩が誘いに来てくれるなんて、俺嬉しいです!」
「あはは……」


話し方の違いに苦笑いになりながらも、自然に接せるようにした。
けど、不自然だったかな……。
もっと自然に笑わないと怪しまれるよね。



「あははははっ!」

そう、こんな感じに、って……。


「え?」
「あははっ、なにその政宗の喋り方! 変だって! あー腹がよじれるかと思った」
「佐助……!」
「ま、政宗が猫かぶるくらいなんだから、これが噂のなまえ先輩かぁ〜」


なんか、じーって音が鳴りそうなぐらい見つめられてるんだけど!?
しかも距離が近い。

この佐助って呼ばれる子も格好良いから、こんなに近いと照れる……。
って、ドキドキしてる場合じゃなくて、この子の言葉。

伊達君が猫かぶってる、って言ってたよね?
やっぱりそうなんだ。
なんか、イメージと違うなーって思ってたんだよ。



「先輩!」
「え? あ、なに?」
「いつもの場所行きましょう」


手を引っ張られて階段を下りた。
なんか、伊達君怒ってるみたいだけど。

「伊達君、どうしたの?」
「先輩は俺の彼女ですよね?」
「え、まぁ一応は……」


なんか、質問を質問で返されたような。

「一応じゃなくて、彼女です!!」
「あ、ごめん。そうだよね」
「それなのに、佐助なんかに顔近づけられて、赤くなんてならないで下さい!」
 


こっちに顔を向けないで言った伊達君の表情は分からない。
けど、話し方が強くなった上にに歩幅が大きくなったから、照れながら怒っているんだろう。


「ねぇ、その言葉は本当の伊達君?」
「え?」


私の言葉が以外だったのか、伊達君の足が止まった。


「先輩? 何を言って……」
「伊達君、猫かぶるのはやめよ? 本当は伊達君ってそういう性格じゃないんでしょ」
「さ、佐助の言っていたことなら気にしないで下さい。アイツは嘘ばっかり言うんで」


笑ってるのになんで私のほうを見ないの?
 

「佐助君だっけ? あの子が言ったからじゃなくて、私は前から思ってたんだよ。私の前での伊達君は本当の伊達君じゃないって」


伊達君は俯いた。
かわいそうだけどここで言わないといつまでも伊達君は本性を見せてくれない。
じゃないと、いつまでも伊達君を本気で好きになれない。 



「本当の伊達君を見せてくれないから、さっき彼女って聞かれたときに一応ってつけたんだよ?」


「だったら…………ですか……」
「え?」
 

「だったら、本当の俺を見せたらアンタは俺と付き合ってくれたのか!?」


大声で怒鳴るように伊達君は叫んだ。
ちょ、ここ一応まだ人前……!
なんか、周りの人達もこっち見てるし……!


「俺は本気なんだ! 初めてこんなに好きになって、初めてこんなに女を欲しいと思ったんだ!」
「な、ちょっ伊達君……!?」
「それを猫かぶって何が悪い!? 確実にアンタを手に入れるんだったらそれが一番妥当だろうが!!」


それを言った伊達君は言い放つと同時に、少し泣きそうになった。
 
え、ちょ……泣くの……?
 

「なまえが好きなんだよ……。堪らなく好きなんだ。自分の本性を隠してた事は謝る。だから、だから……」


嫌わないでくれ……ぽつりと呟いた伊達君はそのまま私の肩に額を押し付けてきた。
あ、きゅんきゅんしてきた。
こんな可愛い伊達君の一面が見られて正直嬉しい。


ちょっと待って……やばい……好きになったかも知れない。
こんなに私の事を思ってくれているなんて予想してなかったから。
嬉しい予想外で通常よりもドキドキした。

  

「嫌ってないよ」
「Really……?」
「うん」
「じゃぁ、好きか?」


ちょ、ちょっ、なんか抱きついてきたんだけど!?
今、本気で惚れそうになってるから、やめて欲しい。
それに好きになりそう、なんて正直に言えるはずが無い。


「うん、まぁ……」
「っ……俺の何が悪い?」
「えっと……」


私が少しうろたえていると、伊達君が強く抱き締めた。



「悪いところは全部直す。何でも言ってくれ」
「悪いところなんて……」


そんなところなんて無いよ。
それより、早く離れて欲しい!
心臓の音が伝わりそうなんだけど……!

今、甘い言葉とか囁かれたらやばい。


 

「I need you.だから不満なところは何でも……ってなまえ!?」

What's up!? なんて言って伊達君が心配して私の腰を支えた。

「ちょ、腰が……」

初めからやばかったのに、I need you.なんてそんな言葉言われたら腰抜けるって……! 
なんて思いながら、伊達君にしがみ付く。

気付かない事を願いながら伊達君をそっと見上げると、この前のニヒルな笑顔を浮かべていた。

気付いてるし……。


「Ha! You are very cute.」


ちゅっとおでこにキスを落とされた。

「な、な、なっ……!?」

キスなんて……!
やばいって、そんなの!
キスをされたおでこを押さえる。


……本気で惚れちゃったかも……。
私って結構惚れやすい?


「ひゅーひゅー」
「どうせなら口でやれば良いのにねー」


なんか、聞いたことある声が聞こえたんだけど!?

「慶次……!」
「佐助……」


声のする方を見れば、慶次や佐助君以外にもたくさんのギャラリーが居た。
いつの間にこんないっぱい集まってたわけ!?

 
「伊達君に夢中で気付かなかった……」
「Ah? なまえ本当か?」
「お、言うねぇ」
「ラブラブじゃん」


「え? 声に出てた!?」
「うん、ばっちりー」

佐助君がオッケーを手で作って笑っていた。

やばい、心の中で言ってたつもりなのに……!!
今のなしなし! と叫んでいると、いきなり伊達君に担がれた。


「ちょっ……」
「Ya-ha! 行くぜ、なまえ!!」
「へ!? どこに!?」
「いつものあの場所だ! 早くしねーとlunch timeが終わっちまう!」
「ぎゃーっ! ちょ、早いって!!」
「ちゃんと捕まってろよ!」


これが本当の伊達君か……。
うん。格好良いしこっちの方が伊達君のイメージに合ってる。
  

どんどん離れていく集団からお幸せにーなんて声が聞こえた。 



I NEED YOU
(まずは、名前呼びからはじめてみようかな)
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