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30 新たな一歩

次の朝、私は深呼吸をしてテレビの電源ボタンを押した。




ああ、佐助さんのお楽しみって一体なんだろう。
……なんでだろう、いい予感がしない。




テレビでは、天気予報が流れていて、この次にエンタメニュースが流れるはず。



ああ、ほんとにこれ以上噂が大きくならないでほしい。





なんて思っていると、テレビの画面が佐助さんの話題に変わった。




『本日の各社スポーツ紙の一面はやはり、猿飛佐助さんです!』


うわ、やっぱり一面だったんだ……。
一体イベントで何言ったんだろう。



ちゃんとうまいこと言って報道陣を丸め込んでくれたよね?




不安になってリモコンを握りしめる。


すると、佐助さんが載っている新聞がテレビに映った。





「え」






各社の一面には信じ難い見出しがでかでかと載っていた。





『猿飛、認めた!』
『結婚か!?』
『猿飛「愛してます」』
『世界で一番!!』




「はああああああ!?」





何それ。
どういうこと!?




認めたって何を!?
結婚って、誰と!?
愛してますって、誰を!?





待って待って、頭ついていかない。
熱出そうなんだけど。






そんな思考回路が爆発しそうな私なんか放っておいて、テレビの内容は進んでいく。








『それでは、昨日の男性用化粧品販売イベントでの会見をご覧いただきましょう』





そうだ、これを見れば佐助さんが何を言ったか分かる。


お願い、嫌な予感は外れて!






神に願うようにしてテレビに食い入って見る。








『猿飛さん! 今日の報道はご存知ですか?』
『あーはい。やられちゃいましたね。あはは』
『というと、交際は認めるんですね?』
『もちろんです』
『彼女は好きですか?』
『あは、好きって言うより、愛してますね』



間をあけず、そう言った佐助さんに周りの報道陣が騒ぎ出す。




『では、結婚は?』
『うーん。まだ予定には無いっていうか、そんな話も出たこと無いんですけど、僕はしたいです。あは、まあ温かく見守ってくださるとありがたいです』
『時間ですので、会見を終わらせていただきます』



司会の人がそういうと、佐助さんはステージから降りようと報道陣に微笑みかけてから背を向けた。
そこでたくさんのフラッシュが焚かれ、報道陣から大量の叫びにも似た質問が投げかけられる。






『交際はいつから!?』
『どこで知り合ったんですか!?』
『ラブラブですか!?』




質問に答えることなく、佐助さんは歩いていくが、最後の質問で足を止めた。






『彼女さんは、可愛いですか!?』






振り向いて、満面の笑みで口を開いた。










「世界で一番可愛いです」











そこで会見の映像は終わり、番組のコメンテーターや司会者が映された。

何か熱く語っているようだけど、耳に入ってこない。








「な、に……これ」






力なく絨毯に座り込んだ。



こんな会見……だめに決まってるのに。



だめに決まってるのに、嬉しい。




顔が今までに無いくらい熱い。
佐助さんが、自分の人気が落ちるかもしれないって言う大きなリスクを背負ってでも、私のことを好きだって言ってくれた。





心臓が締め付けられてうまく息ができない。





ああ、こんなことは避けなきゃいけなかったはずなのに。
佐助さんの邪魔にだけはなりたくなかったのに。




今は、歓喜の情のほうが大きすぎてそんな思考は働かない。








「佐助さん……」







会いたい、声が聞きたい。








佐助さんは今、仕事中かもしれない、とか社長に怒られてるかもしれない、とか、そんなことは思い浮かばなかった。




近くにあった携帯を引っ掴んで、佐助さんに電話をかける。






何回かコールされた後、佐助さんが出た。





『もしも…………』
「っ佐助さん!!」
『うわっ、ど、どうしたの』
「テレビの! 会見!」
『あ、見てくれたんだ、どうだった? ……って、その様子だと、怒ってるよね』





佐助さんの声から覇気が無くなる。
自分で言い過ぎたと思ってるらしい。






「ちが……私、わたしっ……」





佐助さんの声を聞いて、涙が溢れてきた。




何でだろう。
何で自分が泣いてるのかわからない。






『ちょ、え!? もしかして、嫌だった!?』
「違う……なんだか、嬉しくて……」
『え……ほんと?』
「っ、私もっ……あ、愛して、ますっ!」
『……うん。俺様も愛してるよ』





佐助さんの声色が酷く優しくなって、また涙が溢れる。





ああ私、佐助さんが、本当に好きだ。





『あのね、なまえちゃん』
「っ、はい」
『俺様、会見で言ったこと、ほんとだからね』
「え?」






『なまえちゃんと結婚したい、って思ってるよ』






「っ、あ……えっと」
『あーいい、いい』





どう答えようか迷っていると、佐助さんが私の言葉を遮った。




『結婚なんて、考えたこともないでしょ?』
「……はい」
『だから、今は返事はいいよ。ゆっくり考えて』
「っ、はい」






佐助さんは優しい。

佐助さんのことは好きだ、世界で一番好き。


けど、正直結婚なんて考えたことはなかった。


考えたこともないものを即答なんてできない。





そんな私の様子を電話越しで気づいて、私に時間をくれた。
佐助さんは本当になんて優しいんだろう。






『落ち着いたら、俺様ん家越してきなよ』
「へ?」



いきなりのことで意味がわからず、聞き返してしまった。


すると、佐助さんは機嫌よさげのような声色で言った。








『まず、同棲からはじめませんか?』






いや? と聞いてくる佐助さんに今度は即答した。






「っ、はい!!」







断る理由なんてない。
仕事場に近いし、駅だって近い。



それになんていっても、佐助さんの近くに居られる。




そんな条件、飲まない人なんていない。




顔が自然に綻んでいく。





すると、佐助さんがため息をついた。







『あーもう、早くなまえちゃんに会いたい』
「わ、私も、会いたいですけど、仕方ないじゃないですか……」




たぶん騒ぎが収まるまでは絶対に会えない。
一ヶ月位かかるかもしれないけど、しょうがない。








『次ぎ会うとき、覚悟してね』





……やっぱり同棲は危ないかもしれない。



(こんな恋愛も悪くないでしょう?)
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