03 混乱の連続 「ん……?」 眩しい光で目をうっすら開けた。 見たことない天井と自分のじゃない匂いのする布団を疑問に思って起き上がった。 あれ? 何ここ。 こんな広い寝室見たことないよ。 え? ちょ、マジどこなの、ここ。 「いたっ……」 ガンガンと脳に響く痛み。 頭痛いし、吐き気する。 なにこれ、二日酔い? 昨日、いっぱい飲んだっけ? こめかみを押さえながら昨日の記憶を辿るけど、スクリュードライバーって言う生まれて始めて飲んだカクテルがすごい美味しかったところぐらいしか記憶が無い。 なんか意味も無く楽しかったような……。 あれ……? いつから記憶なくなったんだろ。 それと、ここどこ? キングサイズのベッドから降りてフローリングをぺたぺた歩いた。 この服がでかいお陰で冷たいフローリングもズボンの裾を踏んで歩くから靴下代わりになったよ。 ま、ウエストもでかいから押さえながら歩かなきゃずり落ちちゃうけど。 「って、え?」 ……でかい? なんでこんなでかい服着てんの? 私、ジーパン穿いてたよね。 なんでスウェットなわけ? ……しかもブラ、してない。 「え? え?」 うそ、ないないない。 無いよね? そんな、一夜の過ちなんて……ねえ? 私、成人したよ? もう二十四だよ? そういうことは自分でも無いように細心の注意を払ってきたじゃないか。 「うそ、うそだ。うん……何かの間違い」 とりあえず、誰かいないか確かめるためにドア押した。 すると、目の前に広がったのは真っ黒な布。 驚いて一歩下がると、布は服だということがわかった。 「おはよう」 「え、お、おはよう、ございます……」 声がする上を向くと、笑顔の猿飛佐助がいた。 朝から笑顔が眩しいです。 「ちょうど今起こしに行こうと思ってたところなんだよ」 「そ、そうですか」 ここって、猿飛佐助の部屋だったんだ。 ずっと顔を見てるのも変かなと思って下を向くと、猿飛佐助が持っていた洗濯物に目がいった。 「あ、これっ……!」 私のブラっ……! それに昨日着てた服も……! 「ああ、一応洗っておいたよ」 「え、いやなんでっ……」 「だって、昨日いっぱい汗かいたでしょ?」 「えっ……!?」 汗、いっぱい、かいた……? もしかして……やっちゃった? 一夜の過ち……犯しちゃった? 「どうかした?」 「え、や……何でもないです……」 「そう? じゃあ俺様洗濯物干してくるから」 「あ、はい」 国民的アイドルと私、やっちゃった? 猿飛佐助の家にいつの間にか泊まってるし。 ノーブラだったし。 汗いっぱいかいたらしいし。 「どうしよう……」 もしパパラッチに撮られたりしたらどうすんの? 私のせいで猿飛佐助の名に傷が作ってことだよね? みんなに嫌われるんじゃ……。 人気が落ちて、給料が減ったら、私のせい? 猿飛佐助、暢気に洗濯物干してる場合じゃないよ。 「ん……? 洗濯物……あ」 洗濯物に私の下着とか服があるじゃん。 それを見られたらやましいことはないって言い訳できなくなるんじゃ……。 もしかして、忘れてるのかも。 教えてあげないと。 急いでバルコニーに向かうと、鼻歌を歌いながら洗濯物を干している猿飛佐助がいた。 ……やっぱり、普通に干してる。 追われる身だってこと、絶対忘れてるよ。 「あ、あの」 「ん? どうかした?」 猿飛佐助は振り向かず、洗濯物を干しながら答えた。 「私なんかを家に連れ込んだり、女物の洗濯物とか普通に干してもいいんですか?」 「うん。別にいいよ。ってか、なんでそんなこと聞くの?」 「え……だって、週刊誌の人とかに撮られたら……」 「俺様、変装してたじゃん」 あの、御宅田太郎にさ。なんて振り向いてにっこり笑った。 そうだったんだ。酔ってたからか全然憶えてない。 「それに、ここ十階だし、周りにこれくらいの高さのビルもマンションも無いから下着なんて誰にも見られないよ」 「そ、そうなんですか……」 御宅田太郎に変装してたから猿飛佐助とは誰にも気付かれてないようだし。 それに、ここは高いから誰にも目につかないんだ。 確かに、ベランダの外は空だし。 他のビルは結構下に見えるし。 だから猿飛佐助の名に傷がつくことはないんだよね。 「よかった……」 「なに? 俺様のこと心配してくれてんの?」 「え、いや……その……」 心配することなんて一つもないのに、一人で焦ってたことが恥ずかしくなって、俯いた。 わたし、ただの馬鹿じゃん……! 何一人で焦ってたの。 それに私のせいで猿飛佐助の名に傷がつくなんて……自惚れすぎじゃん。 そんなことあるはず無いのに!! 私如きが国民的アイドルと週刊誌に載るなんて、一生かかっても無いよ! ああ、今すぐ消えてなくなりたい……。 猿飛佐助と目を合わせるのが恥ずかしくなって、視線を下に向けた。 「やっぱ、なまえちゃん可愛いよ」 「へっ!?」 声がしたかと思うと、頭を撫でられた。 今まで洗濯物干してたのになんで? ふと、洗濯かごに目をやると、もう空だった。 なんだ、干し終わったのか。 ……ってか、芸能人に触れられた。 そんなの一生無いと思ってたのに。 同僚の子に自慢したら、かなり怒るだろうな。 「わー……私って運いい」 撫でられたところにもう一度触れて、猿飛佐助が向かった方へ歩いた。 「なまえちゃんどうしたの? にこにこして」 「え、いや、芸能人に触れられるなんて思っても見なかったんで」 「あはー今更何言ってんの? 昨日いっぱい触れ合ったじゃん」 「……へ?」 触れ合った? 昨日? 「っ……!」 わ、忘れてた。 そういえば一夜の過ち疑惑がまだ解決してない。 「あ、あの……」 「ん? なに?」 どうすんの? 普通に聞く? 私と昨日ヤりましたかって。 ……聞けるか! もしそれで、するわけないでしょ。なんて呆れたように言われたらどうすんの。 もう私に残された道はここから飛び降りる事しかないんだけど。 けど、聞かないともやもやするし。不安だし……。 遠まわしに聞く? いや、けどどうやって遠まわしに訊けばいいのかのかわかんない。 どうすればいいの? 直接聞けないし、遠まわしにも聞けない。 分かんないんだったら、聞かなきゃ良いんだけど、大事な事だし……。 うわ、やばい。 頭の中で色々な考えが回ってる。 頭痛いし、吐き気が……。 「うぇっぷ……きぼぢわる……」 「え!? ちょ、待って……!トイレすぐそこだから耐えて!!」 「おえ……」 「ほんと耐えて!!」 猿飛佐助にトイレに連れて行かれて、猿飛佐助に背中を摩られながらこみ上げてくる熱いものを吐き出した。 (結局肝心なところが何も聞けてないよ) [戻る] ×
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