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29 ついに発覚


あれから二週間経った。




その間に佐助さんは会見を開いて病状について詳しく語った。
私の風邪がうつったとか言わないかひやひやしたけど、スポーツ紙に何も書かれていないということは大丈夫らしい。


ああ、もう寿命が縮む。




佐助さん、自分の立場を弁えないところがあるからなあ。


心配だ。
ま、いざとなったらマネージャーさんが止めてくれるか。



この二週間私はまったくいつもと変わらない。


石田部長にこき使われて、残業するかしないかの瀬戸際を彷徨ってる。





うーん、この前もしかしたら石田部長が私を……って考えてたのは本当に勘違いだった。
この前の私をぶん殴りたい。




なんて思いながらオフィスに入る。






すると、なぜかオフィスがざわざわ騒がしかった。
騒がしいのは全員ではなく、一部だけだとすぐわかった。



……あれって佐助さんのファンの同僚だ。
すごい、キャーキャー言ってる。


いつもみたいな黄色い声じゃなくて、絶望の声の気がする。


一体どうしたんだろう。




気になるけど、そんなに仲が良くないから聞きにいけない。
ああ、気になる。
けど聞けないし、しょうがない。
諦めるか。




自分のデスクにつこうとすれば腕を掴まれた。






「え……」




掴まれた方を向けば鬼の形相をした石田部長。




やばい。
本能的に何かを悟った。
握られた腕が痛い。




「来い」




引っ張られてオフィスを出た。


私、何したっけ。
そんな怒られることしたっけ。
いや、してない。
いつも心では悪態ついてるけど、表面上では完璧なはず。



お茶の味だって変わってないはず。
どんな理不尽なことも了解してる。



それなのに、何で目の前のこの人は私に怒ってるんだろう。





「これを読め」



すごい勢いでスポーツ新聞を渡された。


い、石田部長、こんなの読むんだ……。
経済新聞しか読まないと思ってた。



以外だ、と思いながら開かれた記事を読んでみる。





『猿飛佐助、熱愛発覚!

 退院後にマンション前で一般人女性と待ち合わせ。
 そのままキスをしてマンション内に消えていった。
 女性が出てきたのは夜が明けてからだった』





要約すればそんなことが書かれていた。



そして佐助さんの写真がでかでか乗っていて、隅に小さく佐助さんとモザイクがかってる一般女性がキスしてる写真が載っていた。




佐助さんのファンの同僚が絶望的な声を上げてた理由がわかった。





新聞を持っている手が震えて、握ってる拳に汗が滲んだ。





これ、


これ……。







「わたし、だ」




血の気が引いてきた。

どうしよう。
やってしまった。



そういえばあの時の佐助さん、御宅田太郎の格好じゃなかった。




……なんで、忘れてたんだろう。




あの時の自分に鉄拳を食らわせたい。







「やはり、な」
「どっ、どうしましょう! 石田部長!」
「知るか」



石田部長に聞いた私が馬鹿だった。


そりゃ私なんかにできることなんて無いだろうけど、石田部長も少しくらいは考えてくれてもいいのに。




「っ、最悪だ」




頭を抱えて蹲る。



何が佐助さんは自分の立場を弁えてない、だ。
一番立場を弁えてないのは、私だ。


本当に何やってるんだろう。



佐助さんの邪魔だけにはなりたくなかったのに。



これがきっかけで佐助さんの仕事が減ったら。
ファンが減ってしまったら。



最悪の事態を考えて、吐き気が催してきた。






佐助さんの人生を狂わせてしまったかもしれない。



やばい、泣きそう。






「もしお前の男がこのくらいで消えたら、それだけの男だということだ」
「そ、そんな楽観的に見れませんよ!」
「大体、芸能人に色恋沙汰は日常茶飯事だろう」
「そ、そうですけど……」
「多少の人気の落ちはあろうが、気にすることは無いだろう」






あまりにも淡々と言うので少し安心してしまった。


だめだ、だめだ。
芸能界は何が起こるかわからない。





後悔していると、電話が鳴った。

急いで携帯を開くと画面には猿飛佐助。
石田部長を見上げると、本当に呆れたようなため息をついた。





「朝礼までには済ませておけ」
「っ、はい。ありがとうございます」





背を向け、オフィスに去っていった石田部長を見送って、通話ボタンを押した。





「もしもし!」
『あ、なまえちゃんおはよー。新聞かテレビ見た?』
「い、今見ました!」
『あはー。やられたね』
「そ、そうですね。不覚です……それと、ごめんなさい……」




私のせいでこんな大騒ぎになるなんて……。


語尾がだんだんと小さくなっていく。
ああ、本当に泣きそうだ。

私のせいで佐助さんは事務所の社長に怒られるかも知れない。





『何で謝るのさ』
「え?」
『俺様、この報道に後悔はないよ』
「え、なんで……」





ちょっと待って。
言ってる意味がわからない。



人気が落ちるかもしれないこの報道に後悔がないだなんて。






『だっていずれは発表しようと思ってたし』
「はい?」
『あは、まあ、今日イベントあるし、多分明日の朝にはわかるんじゃない?』
「え? は、話が見えないんですけど」
『それは明日のお楽しみー』





めちゃくちゃ楽しそうな声の佐助さん。
私は状況がつかめない。



イベントがあるから明日にはわかる?

一体、何が?





「あの……」
『じゃ、社長に呼ばれてるから行ってくるねー』
「え、ちょっ…………切れた」






……明日になるまで待つしかないか。



ってか、社長に呼ばれてるって言ったよね。

絶対新聞のことだ。



佐助さん、怒られるのかな。





……ほんとに怒られないといけないのは私なのに。



佐助さんには迷惑かけてばかりだな。
申し訳なさ過ぎる。


佐助さんに関わる場所には報道陣がわんさかいるんだろうな。



ため息をついて、重い足取りでオフィスに戻った。



(どうかこれ以上騒動が大きくなりませんように)
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