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27 惚れているのは私も


お泊りと仕事の用意を手に持って佐助さんのマンションで待つ。



たしかもうすぐで佐助さん来るって言ってたよね。
時計を確認してきょろきょろと周りを見回す。


まだかな、佐助さん。




そう思っていると黒塗りの車が近くに止まった。



あ、あれかも。と思えば佐助さんが後部座席から出てきた。
運転席の人に何か言ってからばたんとドアを閉めて私のほうに手を振ってきた。




「なまえちゃーん!」



大きく手を振る佐助さんが小さな子供のように見えて思わず噴出してしまった。





「っ……、佐助さんおはようございます」
「おはよ。何でそんなに笑ってんの?」
「い、いえ、なんでもないです」
「そ? じゃあ……」




佐助さんは大して気にしてないようでほっとしたと同時に視界が佐助さんでいっぱいになった。





「……っ、ちょ! なにする……!」
「あは、おはようのちゅー」
「ばっ、ばか!」




佐助さんの背中を叩いた。


こんな外でするなんて、誰かに見られたら……!
きょろきょろと周りを見渡すと、誰もいなくてほっとした。



すると、今度は右手が何かに包まれた。
驚いて見ると佐助さんの左手が私のを包んでいた。、




「あ……」
「行こ、なまえちゃん」



微笑まれて、顔に熱が集まるのを感じた。
小さく頷くと左上から小さく笑い声が聞こえた。




マンションの自動ドアを超えてエレベーターを待ってる間に、少し佐助さんの顔を覗くと、目が合った。

う、うわ、佐助さんも私のこと見てたんだ。
やばい、恥ずかしい。






「なまえちゃん、可愛いね」
「か、可愛くないです!」
「そういうところが可愛いんだってば」
「……」



何か言い返さないと、自分が可愛いって認めてるみたいになるのに言い返せない。
何を言ったらいいかわからないし、どうせ何を言ったって佐助さんに言い包められる。



口で佐助さんに敵うはずがない。




それにやっぱり好きな人に可愛いって言われて嬉しくないわけが無い。


だから、まあ、言い返さなくても良いかな、って……。





私って馬鹿だな、と思っていると品のいい音が鳴ってエレベーターの扉が開いた。
エレベーターに乗ると佐助さんはニコニコ笑って私に話しかけてきた。





「ねえねえ、一緒に料理しようよ」


俺様、彼女と一緒に料理するの夢だったんだー。っと笑った佐助さん。



「え、だめですよ。佐助さん寝てなきゃ」
「え!? 本当に俺様を看病しに来ただけ!?」
「当たり前じゃないですか」




何のために休みもらったんですか。というと、佐助さんが繋いでた手を解いて口に当てた。
絶句してるようだけど、佐助さんには大人しくしてもらわなきゃ。
ずっとベッドにいてろとは言わないけど、料理なんかしたら疲れるかもしれないし。




「えーなまえちゃん、まじめー」
「だ、だって、もし悪化したら……」
「もう治ったってばー」
「だめですって」



なんでなんでーと食い下がる佐助さんを宥めてると、エレベーターの扉が開いた。
佐助さんの背中を押してエレベーターから出た。





「はいはい、佐助さん着きましたよ」
「いいもんねーその分なまえちゃんにくっついてるしー」
「だめですよ、私仕事残ってますし」
「えー!?」



部屋の鍵を開けながら佐助さんは私のほうを向いた。




「俺様の家に仕事持ってきたの!?」
「はい。仕事休んだんですから、自分にできることしないと」





結構今忙しい時期なのに、勝手に休んじゃったんだから、仕事くらいしないと。


それに何かすること無かったら緊張してしまう。
そしたら絶対佐助さんにからかわれるし、また言い包められて好き放題されるに決まってる。
それだけは絶対に避けないと。






「やだー。いちゃいちゃしようよー!」
「ちょ、そんなこと大きな声でそんな恥ずかしいこと言わないでください!」



部屋の中に佐助さんを押し込む。
こんなのご近所さんに聞かれたら……!




「もう、佐助さんベッドで寝ててください」
「え!? そんなことするわけ無いでしょ。なまえちゃんとずっと一緒にいるってば」
「私、仕事あるんで構えないですよ?」
「えー冷たいー。まあいいや、ずっと抱きついてるし」
「え!?」




驚いた声を出すと意地悪な顔した佐助さんは振り向いた。



「仕事するのは良いけど、俺様のあぐらの上に座ってね」
「む、無理です! それに、佐助さん退屈ですよ、ただ私の椅子になるだけなのに」
「退屈かどうかわかんないよ」




何かたくらんでると、一発で分かるような顔して笑った佐助さんはお茶入れてくるからソファにでも座ってて、と言って佐助さんはキッチンに消えてった。


うーん、なんかいい予感がしないんだけど。
まあ、いっか。





そういえば、佐助さんの部屋くるの久しぶりだなあ。
相変わらず広い部屋。



前来たときは一晩の過ちを犯したかどうかですごく悩んだっけ。
ああ、懐かしいな。




そう思いながらソファには座らず机にパソコンを広げてラグマットに座った。




****





しばらくして佐助さんがマグカップを二つ手に持ってやってきた。



「あれ、ソファに座らないの?」
「あ、はい。こっちのほうが作業しやすいですし」




そっか、と佐助さんは笑ってマグカップを机に置いた。


すると浮遊感を感じた。



「へ、えっ!?」
「なまえちゃんの場所はここね」
「ちょっ、は、離して!」
「だーめ。さ、早く仕事しなよ」
「っ〜!」




佐助さんの胡坐の上に座って抱きしめられてる状態で仕事なんか集中できるか!
そうやって突っ込みたいけどそんなことしたら佐助さんに、じゃあ仕事やめなよ。って言われるに決まってる。




肩に佐助さんの顔があって顔に熱が集まるのが分かる。


ああ、こんなバカップルみたいなこと私がするわけ無いって思ってたのに……!
いざやられてみると、満更でもない自分を早く殴りたい。




「うわー大変そうだね」




パソコンの画面を見てつぶやいた佐助さん。
まあ、大変なのには変わりないんだけど、今は佐助さんが近すぎることのほうが重大だ。



だって、佐助さんの息遣いとか聞こえるし……!




絶対私の心音も佐助さんに伝わってる。

ってか、こんな状態で仕事できるほど私の心臓は強くない。




「は、はい……あの」
「なーに?」
「もうちょっと、離れてもらえませんか」
「無理」
「な、何で即答……」
「椅子は座るためのものなのにさ、離れちゃ意味ないでしょ」
「ほ、ほんとに私の椅子になるつもりなんですか」
「もちろん」




あなたはそれで本当にいいんですか。
まあ、本人が良いならそれでいいんだろうけど。


けど、私がよくない!


緊張するし、私重いから佐助さんの足痺れるだろうし。






「早く仕事しなよ」
「っ、もう……」



こうなると佐助さんは絶対退いてくれなさそうだし、仕方なくキーボードに手を伸ばす。

思わず出そうになるため息を押し殺した。






緊張しながらもしばらくタイピングをしているといきなり佐助さんの鼻が首筋に当たった。




「っ、なっ、なに!?」
「なまえちゃん、いい匂いする」





すんすんと佐助さんが嗅いでるのが分かる。

だ、だめだこんなこと。
絶対くさい!


一応お風呂入ってきたけど、ここに来るまでに少し汗かいたりもしたし。



何より、緊張で今かなり汗が湧いてきた!






「やめてください!」
「やー」
「い、椅子はこんなことしません!!」
「俺様男だもん」
「なっ……」




都合の良いときだけ男に戻るなんてずるい。


何とかやめさせようと身をよじるとあろうことかお腹に巻きついていた佐助さんの片手が上ってきた。
もう一方の手はどんどん下がってくる。



こ、これはやばい。







「さ、佐助さん!」
「あは」
「笑い事じゃ……!」






片手は胸、もう一方は太ももを撫でる佐助さん。



今日はこんなことしに来たんじゃない!

佐助さんの息遣いも少し荒くなってる。
だめだこの人発情してる。
早くやめさせないと取り返しのつかないことになる。




「佐助さん、本当にやめっ……っひ!?」



振り向こうとすれば、佐助さんに首筋を舐められた。




「なまえちゃん……俺様」

「だっ、だめです!!」
「ってえ!」




佐助さんの腕をつねった。



可哀想かなあと思ったけど、自分の身を護るため、仕方ないよ。
佐助さんの手が緩んだ隙に腕の中を抜け出して隣に座る。





「なまえちゃん、何すんのさ!」
「すみません。けど、佐助さんが悪いんですよ」
「なんでー」


「私は今日そういうことするつもり無いんです」



はっきりと伝えると佐助さんはええーと明らかに不服そうな顔をした。




今日は看病しに来たんだ。
そういうことしちゃだめだ。





まあ、看病しに来て残ってる仕事片付けようとしてる自分が言える立場じゃないかもしれないけど。


そんなことは置いといて、佐助さんはやっぱ私の近くに居るんじゃなくて寝てるべきだ。






「ね、寝るまでそばにいてますから、寝室行きましょ! ね?」
「えー、そんなことしたら余計ムラムラしちゃう」
「なっ!? じゃ、じゃあ帰ります!」




荷物を取って立ち上がろうとすれば腕を掴まれた。




「それはだめ!! 我慢するから!」
「な、ならここにいます」
「良かった。もう焦ったよほんと」
「だって佐助さん、休む気無いんですもん」



「だって俺様、なまえちゃんがすっごい好きなんだもん」




不意打ちの言葉に思わず固まってしまって、何も言えなかった。






「好きなんだから、触りたいと思うし、ずっと一緒にいたいと思うでしょ」







佐助さんは頭の後ろで手を組んでソファに凭れた。






そんな、言葉ずるい。

真っ赤になってるだろう私の顔を見られたくなくて俯く。
ああ、顔が熱い。



こんなこと好きな人に言われて嬉しくない人がいないわけ無い。


胸が締め付けられて苦しい。
けど、嫌いじゃない甘酸っぱい締め付け。



佐助さんほど私を乱す人はそういない。






「佐助さん」





「なあ……に……」




私は好きだとかそう言うことは恥ずかしくて中々口にできない。
けど私も佐助さんが自分でもびっくりするらい好きだってことを伝えたくて、行動に表した。






佐助さんにとっても予想外だったようで、簡単に唇を奪うことができた。




唇から離れて、佐助さんのシャツを握り締める自分の手を見つめながら、勇気を出してつぶやいた。









「そ、その……やっぱり、夜なら、っ……いい、です」





「え、あ……うん、やったあ……」




佐助さんの顔を盗み見ると、私が初めて見る表情だった。




(首まで真っ赤……)
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