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26 やっぱりあなたが好き




「着いたぞ、早く行け」
「ありがとうございました!」




病院の入り口に横付けしてもらって私は車を降りた。





「じゃあな」
「え、部長は行かないんですか?」



もう発車しようとしてる石田部長に思わず聞いた。



「別に貴様の彼氏の容態など興味は無い。帰って寝る」
「そ、そうですか……ここまで送っていただいて本当にありがとうございました」
「礼などいらん。さっさと行け」
「は、はい!」


睨まれて私はすぐ振り返り、入り口に向かって走った。




じゃあ、何で送ってくれたんだろう。
分からない。
私のために送ってくれたの?



これじゃ、本当に昼間の杞憂が杞憂じゃないような……。
そんな、石田部長に限って、それは無い。



ってか、そんなこと考えてる場合じゃない!
佐助さんだ!
どうせ私の自意識過剰なんだから考えても仕方ない!








頬を叩いて、病院の中に入った。




とりあえず受付に行って佐助さんの病室を聞かないと。
受付に向かおうとすれば、銀髪のがたいのいい男の人が壁に凭れていた。




「元親先輩!」



病院ということも忘れて大声で呼んだ。




「なまえ!」

「すみません、待たせてしまって……」
「いや、いい。それより行くぞ」
「はい!」




エレベーターに乗ってどんどん階が上がっていくのをランプを見て感じる。




「あ、あの、面会時間とかは大丈夫なんですか?」




腕時計を見ると、八時半を差していた。
確か面会時間って八時までじゃ……。





「あー本当はもう終わってんだけどよ、特別に許してもらった」
「え、病院で特別とかありなんですか!?」
「芸能界って恐ろしいよな」



ははっ、と先輩は乾いた声で笑った。



うわ、すごい。
たぶん佐助さんのマネージャーさんが極秘で許してもらったんだろうな……。
うーん。やっぱりお金なのか?
それともコネ?
そう思っていると、エレベーターが停まった。






重々しい扉が開いて、先輩に続いて降りた。
先輩はもう佐助さんの病室は知ってるようで、迷うそぶりも見せず廊下を進んでいく。






他の病室の名札とかを見ると、どの部屋も一人の名札しか無かった。




ってことは、個室なのか。
……そっか、佐助さんは有名人だから大人数の部屋じゃダメなんだ。
ファンとかに会ったりしたらパニックが起こるよね。



どこに入院してるかも非公開なんだろうし、もし見つかって、ツイッターにでも書き込まれたら病院にファンが溢れるだろうしね。







「なまえ、着いたぜ」
「え、あ、はい」



名札が無い部屋のドアの前で先輩は停まった。


あれ、何で名札無いんだろ。

あ、そっか。
名前があると佐助さんが居ることばれちゃうからないのか。と一人で納得した。






先輩がノックした。


あ、やば。
なんか緊張してきた。






「はーい」






中から明るい声が聞こえてドアを引いて中に入る。




「おい、大丈夫かよ」
「あはー心配かけちゃってごめんねー」
「なんだよ、元気そうだな」
「点滴も打ってもらったし、寝たからだいぶ楽になったよ」



私も佐助さんが見たくて先輩の背中か顔を出した。




「あ、なまえちゃん、来てくれたんだ」
「もう熱は下がったんですか?」
「だいぶ下がったよ」



にっこりと笑う佐助さんは少し疲れているようにも見えるけど大丈夫そうだ。
ほっと胸をなでおろした。

よかった、たいしたこと無くて。





「退院はいつなんだ?」
「明日には退院できるよ。けど、家で安静にしてろってさ」



先生に無茶して仕事するなって怒られちゃった、と笑った佐助さん。
全くその通りだ。



健康な身体あってこその仕事なんだから。
仕事行って倒れてたら何の意味もない。





「そうか、じゃあ俺は外で待ってる」
「へ、何でですか?」
「煙草すいてえし。なまえ、俺の車分かるよな?」
「あ、はい」
「じゃあ、猿飛大事にな」
「ありがとー元親」




笑って元親先輩は出ていった。



元親先輩だってもっと佐助さんと話したいことだってあるのだろうに。
なんでもう外に出るんだろう。


もしかして、先輩ってヘビースモーカー?



首を傾げてると、佐助さんから笑い声が聞こえた。





「な、何ですか、いきなり」
「なまえちゃんってば鈍感」
「え?」
「元親は空気読んでくれたんだよ」




俺様たちが二人っきりになれるように。と微笑みながら言われてようやく理解した。
理解すると、顔が急に熱くなった。



どうしよう、絶対顔真っ赤だ。





「なまえちゃん可愛いー」
「そ、そんなこと無いです!」
「あは、ってかさ、もっと俺様に近づいてよ」
「は、はい」



入り口付近に立ってた私は枕元まで近づいた。



「あ、あの、ごめんなさい」
「え? 何で謝るの?」
「だって、佐助さんに病気うつしたから……」
「なに言ってんの。俺様からうつされに行ったんでしょ」
「け、けど……」



私が風邪引かなかったらこんなことが起きなかったのに。
一歩間違えたら大惨事だったかもしれない。


ああ、想像しただけでぞっとする。





「じゃあさ、なまえちゃんからちゅーしてよ」
「へ?」
「これでチャラにしよ」
「そ、そんな、無茶な」
「早く」




佐助さんが目を閉じた。


ちょ、本気で?
自分からしたことなんて無い。

まあ、口合わせるだけだからやり方はわかるけど……。




こんなの緊張するってば。





はやくはやく、と佐助さんに急かされて、決意する。







佐助さんの唇に近づいていく。



やばい。心臓暴れてる。

自分からするって半端じゃないほど緊張する。
よく佐助さんはこんなことできるよ。





重ねるだけ、重ねるだけ……!
簡単だ。



ちゅってするだけ。


したらすぐ離れればいいんだ。










緊張で震える唇を佐助さんに押し付けた。





「ん!?」



すぐ離れようとすれば、なぜか佐助さんの手がそれを許さなかった。




「ふ、……んむっ」




後頭部を押さえつけられて啄ばむようにキスをされる。





「くち、開けて」
「……ん」




ぼーっとしてきて言われたとおりに口を薄く開いた。
すると佐助さんはくすりと笑って私の唇に噛み付くようにキスをした。





「っ、んあ……ちゅ……ん……」




息がうまくできなくて、佐助さんにしがみつくように服を握った。





「なまえちゃん、可愛い……」
「あ、ちょ、まっ……どこ触って……」




胸に違和感を覚えて、佐助さんの肩を押した。




「だって、ムラムラしてきた」
「や、やめてください! まだ熱あるんじゃないんですか!?」
「もう下がったって」
「ダメですって! しかもここ病院なのに……」




身の危険を感じて佐助さんから離れた。





「えーしょうがないなあ。じゃあ、一つお願いがあるんだけど」
「な、なんでしょう?」
「明日仕事休めない?」
「え、明日ですか?」



明日は、特別な日じゃないはず。
あれ、何かあったっけ?




「実は俺様、二日休みもらっちゃったんだよねー」
「え、そうなんですか!?」



まあ、倒れたし医者にも怒られたんだから休みぐらい貰えるよね。





「でね、今日看病してもらえなかったからさ、明日今日の分してくれない?」




わがまま言ってごめんね。と眉を下げて言う佐助さん。
風邪引くと心細くなるし、人恋しくなる。


佐助さんがそう言うのも無理はないと思う。



なにより、私を必要をしてくれてるのがうれしい。




仕事まだ残ってるけど佐助さんの家でやれば良いし。
断るなんてできない。





「いいですよ」
「ほんと? やった。明日はいっぱいいちゃいちゃしようね」
「だ、だめすよ! 安静にしててください!」
「えーもう治ったって」
「だめなものはだめです!」





えー、と頬を膨らます佐助さん。


くっそう、可愛いけどだめだ。
佐助さんの体調のほうが大事だ。
ずっとNOを繰り返していると、佐助さんが思い出したように言った。






「あ、そうだなまえちゃん」
「なんですか?」
「明日、泊まりの用意も忘れずにね」
「へ?」
「どうせなら泊まってってよ」





俺様の家からのほうが会社近いんだし、別に良いよね? とにっこり輝くスマイルで聞かれ、頷いた。




(どうしよう、明日が楽しみで仕方ない)
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