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25 緊急事態



ふと時計を確認するともう七時半だった。




「うわ、もうこんな時間! 続きは佐助さん家でしよう」


佐助さんにご飯作ってあげないといけないから、スーパー寄らないと。
ご飯食べさせて、寝かせてからこの続きでもしよう。





あ、けど、添い寝……。



しなきゃいけないのかな。
どうしよう。
それじゃ仕事できないじゃん。

佐助さんが寝たら抜け出せるかな……。
けど佐助さん細いけど力は強いしなあ。
抜け出せないかも。



それに、どこにも行かないで、って言われたら離れられないし。



「ど、どうしよう」



くっそー、何でだろう顔がにやける。
だめだだめだ。ちゃんと断って仕事終わらせないと。



ってか、こんなこと考えてる場合じゃない。
佐助さんが待ってるかもしれないのに。





急いで荷物をまとめて会社を出ようとすると、携帯が震えた。

ああ、急いでる時に限って……!



携帯を開いて発信元を見れば元親先輩だった。
元親先輩から電話なんて珍しい。
何かあったんだろうかと思って出た。





「もしも……」
『おい! なまえ、ニュース見たか!?』
「え、今まで仕事しててみてないですけど」







『何やってんだよ! 猿飛が撮影中倒れたって報道されてんぞ!!』







一瞬何を言っているか分からなかった。


佐助さんが、倒れた……?



なんで、さっきは普通にしゃべってたのに。






「う、そ……」
『こんな嘘言ってどーすんだよ!』



元親先輩の怒鳴り声で血の気が引いた。


佐助さんが倒れたなんて。
信じられない。


佐助さんにもし、何かあったら……!





『俺、猿飛のマネージャーともちょっとした知り合いでよ、特別に入院先教えてもらったんだ!』
「っ、はい!」
『××って病院なんだけどよ、そこ最寄の駅から遠いからお前の会社まで迎えに行く』
「はい、ありがとうございます……!」
『四十分くらいかかるかも知れねえけどよ、待ってろ』
「分かりました!」



すぐさま会社を出るためにかばんを引っつかんだ。


ああ、元親先輩の家は会社から結構距離がある。
四十分かかるのは仕方ない。



けど、その四十分が惜しい。
早く行きたいのに。


行けないのがもどかしい。










外に出て元親先輩を待つ。
けど、まだまだ時間はある。
早く四十分経ってくれないかな。


早く佐助さんに会いたい。

貧乏ゆすりよろしく、地面につま先をとんとんとつけて携帯の時計を眺める。
すると、シルバーの車が私の前に停まった。


見たこと無い車で無視しようと思えば、助手席の窓が開いた。





「みょうじ」
「へ、い、石田部長!? ど、どうして……」
「乗れ。貴様の男の病院まで連れてってやる」
「へ、え……?」
「チッ、いいから乗れ!」




あまりの気迫に元親先輩が迎えにくるのを忘れ車に乗り込んだ。


てゆーか、何でこんなところに石田部長がいるの。
いつも定時で帰るくせに。





「どこの病院だ」
「え、ああ……えっと」



元親先輩から聞いた病院を伝えると、車が発進した。



とりあえず、元親先輩に連絡しなきゃ。
運転してるだろうから、メールで良いや。



メールで迎えはいらないから病院に向かって欲しいということを伝えると、二十秒位で返信が来た。





『わかつた』




と、メールの本文を見て思わず噴出しそうになった。
元親先輩焦ってるんだろうな、『つ』が小さくなってない。




「ニュース見たのか」
「へ、いや……先輩から連絡が来て知りました」



急に話しかけられて少しどもりながらも、答えた。


そうだ、メールよりもどうして石田部長がここにいるのかというほうが重要だ。





「あ、あの……どうして石田部長はここに?」
「……ラジオで貴様の男が倒れたと報道されたのを聞いてな。気づけばここに来ていた」
「へ? 気づけばここにいた?」
「ああ」
「なんで……」
「しらん」




しらん、って……。
ますます意味わかんない。

私が酔ってるとき、石田部長って佐助さんの顔見たんだよね。
そのとき喋ったんだろうか。


……けど、そのとき喋ったからといって病院に行くほど仲良くなる?
佐助さんって、ちょっと石田部長のこと嫌ってたよね。
それなのに一回喋っただけで仲良くなるなんてありえない。



じゃあ、何で無意識に佐助さんの彼女の私を迎えに来たんだろう。



ああ、なぞだ。




もやもやするなあ。

けど、考えても仕方ないか。



考えるのをやめると、車内に漂う気まずい沈黙がひしひしと伝わってきた。



うわ、最悪だ。
これだったら考えときゃよかった。


けれど、一度あきらめて遮断した思考は中々復活してくれない。
しかも、沈黙のほうが気になって考えてられない。





「え、っと……この車って、石田部長のイメージにぴったりですね!」
「二度も言うな」
「え? あ……そうですか」




え、言ったっけ。
覚えてないんだけど。


もしかして、私が酔ってるときに石田部長の車でも見たのかな?

それしか考えられない。
だってそんなこと言った記憶ないし。

酔ってても素面でも考えてることはやっぱり一緒なんだ。





ってか、どうしよう。
なんか余計に気まずくなった。

な、なんか他に言うことは……。




「あ、あの! この車いい匂いですね!」
「それも二度目だ」
「へ!?」



なに!?
私、石田部長の車に乗ったことあるの!?

え、うそ。なんで。


送別会のとき酔った私を佐助さんが迎えに来てくれたんじゃないの?
勝手にそうやって解釈してたんだけど違ったんだ。

どういうこと?
意味わかんない。






「貴様は男のことだけを考えてろ」



余計泣き気遣いなど無用だ。とこっちを見ずに冷たくあしらわれた。






「……はい」



冷たいけど、これが石田部長の気遣いなんだろうな。
それに甘えて私は佐助さんのことだけを考えるようにした。




(佐助さん、どうか無事でいて)
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