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24 報われない人




あれから三日後、私の風邪はそんなにひどくなかったようですっかり良くなった。





土日祝日と休みだったからゆっくり休んだのが良かったかな。


今日から普通に仕事に行ってる。
けど、みんなの視線が痛い。



なんかじろじろ見てくるし、ひそひそと話されてる感じがする。




ああ……酔った私は一体何したんだろう。
暴れてみんなに迷惑かけたんだろうか。

こういうときに限って友達は急遽里帰りしてていないし。
最悪だ。


先輩たちに聞いても苦笑いされるか、しらばっくれんなーなんてニヤニヤいやらしい笑いをされるだけだし。



一体どういうことなのか一からしっかり教えて欲しい。




「うーん……なんでみんな教えてくれないんだろ」




もう本気でお酒なんて飲まない。
みんなに迷惑掛けたんだろうし、なんといっても、佐助さんにいいようにされるだけだし。



……思い出しただけでも、顔が熱くなる。





「はあ……」



そういえば、あれから佐助さんと連絡とって無いなあ。
仕事忙しいんだろうか。



なんて思いながら、エクセルに打ち込んでいく。

ああ、今日は残業コースかもしれない。
終わんないよ、これ。
ああ、最悪だ。

こんなことになるなら家でもやっておけばよかった。


まさかこの前提出した資料がミスだらけでやり直しになるなんて思ってなかったし。




「おいみょうじ」
「え、あ……はい」
「ついてこい」
「え、っと……はい」



いきなり石田部長に呼ばれて急いで立ち上がる。



「あー」
「呼び出されるってさ……」
「えー二人で抜けるの?」
「それってもう確実なんじゃ……」




え、あれ?
なんでひそひそ度が増してんの?



何が確実?
意味わかんない。



石田部長に呼び出されることは今までもたくさんあったじゃん。


なんで?
なんかおかしい?




心の中で首をかしげながら石田部長についていくと、あまり人気の無い廊下に着いた。



「何かミスでもありましたか?」
「いや、仕事のことじゃない」
「え?」



仕事じゃない?
うわ、これ初めてだ。

どういうこと?



「お前の彼氏芸能人らしいな」
「へえ!?」
「そんなに驚くことか? 有名なやつだろう、私が知っていてもおかしくないはずだ」
「いや、えっと……」



え、何で私が佐助さんと付き合ってるって知ってるの!?


私に彼氏がいるってことは、あの友達のせいで知ってるだろうけど、誰かとまでは会社中の誰にも知られてないよね!?
なんで、なんで石田部長が!?




「あ、あの……どうしてそれを……」
「一昨日にテレビに出てたのをたまたま見付けてな」
「そうじゃなくて、何で私が佐助さんと付き合ってるの知ってるんですか!」
「はあ? ミラー越しだが見ただろう」
「へ?」



佐助さん、私を迎えに来てくれたんだろうか。
そのときにたまたま石田部長も佐助さんを見たのかな。


うーん、わからん。





「何も覚えていないのか?」



そうだ、佐助さんとはいろいろあって、酔ってたときのこと何も教えてもらってない!
うわ、最悪だ。




「えっと、また教えてもらいます!」
「……そうか」
「…………」
「…………」





そういえばなぜか沈黙になった。

もしかして、石田部長が聞きたかったのってこれだけ!?
え、なにそれ。
どうすればいいの?


と、とりあえず帰ろう。
こんな気まずい中いてらんない。
それに、仕事終わらせないと。



「あ、あの……仕事あるん……」
「貴様は」



その場から逃げるために口実を離そうとすれば、石田部長が急に話し出した。



「貴様は、あの男といて幸せなのか」
「っええ? ……えっと、その……はい」
「そうか。ならいい」
「は、はあ……」





そういうと、石田部長は私に背を向けて歩き出した。








「邪魔する気は無い。安心しろ」








「え、今なんて?」




意味が分からなくてもう一度聞いたけど、聞こえなかったのか石田部長が振り向くことは無かった。





「石田部長の言葉って……」





自惚れだろうけど、今の言葉はまるで私のこと……。




いやいやないでしょ。
あんなこき使われてるのにそれは無い。
嫌われてるはずだ。




……けど、周りのみんなが要らないことたくさん吹き込むから、なんだかそういう方向に持っていってしまっている私もいる。




自意識過剰だ! ばか!
そんなことあるはず無い!



勘違いしてる頭を振ってオフィスに帰ろうとすれば、マナーモードになってる携帯が震えた。



こんな時間に誰だろ。
携帯を開けると、猿飛佐助と映っていた。


「え、佐助さん!?」




すぐさま通話ボタンを押す。




「もしもし!」
『やっほーなまえちゃん元気ー?』
「は、はい! おかげさまで!」
『いっぱい汗かいたのが良かったんだねー』
「え、いや……それはっ……」
『あは、そのことなんだけどさ』
「え?」



そういうと、咳き込んだ佐助さん。
あれ? そういえばなんだか声もおかしいような……。







『なまえちゃんの風邪、うつっちゃった』








あはー、と暢気に笑う声もやっぱりいつもと違って覇気が無い。





「え!? 大丈夫ですか!?」
『うーん、結構やばいんだけど、今から仕事あるんだよね』
「え、やばいのに仕事行くんですか!?」
『今日は写真撮るだけだしね』
「そんな! 寝てなきゃダメですよ!」




声だけでも辛そうなのが分かる。
そんな状態で仕事に行ったら倒れるんじゃ……。




『休めないんだよねー。だから、お願いがあるんだけど』
「お願い?」
『帰ってきたら大分疲れてると思うからさ、看病してくれない?』
「え……」
『あれ、なんか用事でもある?』
「いや、用事っていうか、その、仕事が終わらなくて……」
『あー待ってるからさ、来れない?』
「はい! 佐助さんさえ良ければ行きます!」
『ありがと。それと、添い寝してね』
「な!? そ、それは……」
『じゃ、また後でねー』
「あ、っちょ!」




ぷつん、と通話が切れた。


「そ、添い寝って……」




しなきゃいけないのかな。



ど、どうしよう。
今から緊張してきた。




熱くなった顔を手団扇で仰ぎながらルンルン気分でオフィスに帰った。



(結局頭を占めるのは貴方の言葉)
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