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23 昨晩が再び



「え……?」




ぬ、濡れ場って、あの濡れ場?
男女が裸で絡み合う奴だよね。




そんなのに佐助さんが?
え、ちょ……私じゃない人とするの?





「そ、そんな……」
「……うん。でね、その監督って結構そういう場面を気合入れる人で有名らしいんだ」
「じ、じゃあ……ほ、本当に……」
「いや、本番はないんだけど、それに近い事は」



やば……なんだか、くらくらしてきた。



いやいや、俳優なんだからそういうこともあるでしょ。
仕方ないじゃん。


ってか、佐助さんはそういうこと数え切れないほど経験してるんでしょ。
元カノいっぱいいてそうじゃん。



だから、それくらい大丈夫でしょ。
性行為なんて佐助さんにとっては経験しすぎて特に特別なことじゃなさそうだし。





……けど。




けど、けど。




相手の人は、大女優なんでしょ?
大女優なんて、すごく、きれいな人なんでしょ?

私なんてそんな大女優の人と比べたら、クズじゃん。
勝ち目なんてあるわけない。





そんな人と、そういう事するんだったら、佐助さんは心変わりするかもしれない。
もし、私が佐助さんだったら確実に心変わりしてる。

だって、こんな全くといっていい程可愛くない女よりも、綺麗な人の方が絶対にいい。



やだ、そんなの。
盗られたくない。





「なまえちゃん、泣かないで」
「っ、泣いてなんか……」



苦しそうな顔している佐助さんが滲んでよく見えない。

ああ、今意地張ったのは流石に無理があったなあ。
だって、もうこめかみにまで涙が伝ってる。



ああ、私のせいで佐助さんは困ってる。






「やっぱり、断るよ」
「え……?」
「なまえちゃんを泣かしてまでやる仕事じゃないし」
「け、けど……せっかくの誘いを断ったら佐助さんの仕事が減るんじゃ……」




芸能人なんて、不安定な仕事は、できるときにやっておかなきゃいけないんじゃ。
そうしないと生きて行けないよね。

だって、どれだけイケメンだって持て囃されてる人がいても、最終的には消えた、なんていう人はごまんといるし。


私のせいで佐助さんの職を奪うなんて出来ない。





「減ったとしても大丈夫だよ。他の仕事で取り返せばいいんだし」
「その映画監督って有名じゃ……」




無名の監督だったらまだ大丈夫なんだろうけど、有名な監督だったらそうもいかない。
有名な監督の誘いを断ったなんて業界で広まれば、最近売れてきたから気取ってる、なんて言われるんじゃ……。



それに、そんな有名な監督が担当する話なんだから、ベストセラーとかになってるんじゃないの?
そんなすごい題材にすごい監督が合わさった作品に佐助さんが誘われてるんだ。



こんなこと、もしかしたら一生無いかもしれない。




この映画に出たら、佐助さんはもっと有名になって、芸能界に生き残れる可能性が高くなる。
もし、佐助さんが私から離れても、それはいいことのはず。



私が、我慢すれば、佐助さんは幸せになれるんだ。







「佐助さん、その映画出てください」
「なまえちゃん、俺様の仕事は大丈夫だから。無理して嘘言わなくてもいいよ」
「嘘なんかじゃないです。こんな名誉な事受けないなんてだめですよ」



出来るだけ笑顔でそういった。
私のせいで佐助さんの将来を潰すなんてありえない。


いつの間にこんなに佐助さんのこと好きになってたんだろう。
自己犠牲愛なんて私に出来たんだね。





昔は相思相愛じゃなきゃいやだし、他人の幸せのために自分が不幸になるなんてありえない。と思ってた。


だって、どれだけその人が幸せになっても自分が不幸だったら意味無い。
結局は自分が一番大事だし。





けど、今は胸を張って佐助さんのためなら私は不幸を選べる。



私が佐助さんと別れる事になって、不幸になっても、佐助さんがもっと綺麗で性格のいい人と幸せな家庭を築く事が出来るなら、私は報われる。




うん。人って変われるんだね。
大丈夫、私は一人でも生きて行ける。




けど、佐助さんに振られるまでは、付き合っててもいいよね。


本当は今すぐにでも別れた方がいいんだろうけど、これは私のわがまま。
振られるまでは佐助さんの彼女でいたい。




「なまえちゃんは、嫌じゃないの?」
「はい。仕事なんだから仕方ないですよ」
「へえ。そうなんだ」
「……はい、私全然気にしませんし」
「ふーん」




佐助さんの声がなんだか冷たくなったような気がした。
怖くなって、佐助さんの顔を見ると、無表情で怒っているようにも見える。


ほんとは嫌だけど、我慢しないと。
佐助さんのためだ。





「俺様は、なまえちゃん以外としたくないんだけどな」
「えっ……」
「なまえちゃんは俺様が他の女と何しようが気にしないんだ」




俺様は、なまえちゃんがほかの男と一緒にいるだけでも腸が煮えくり返りそうになるのに。と、頬を膨らました佐助さん。





「っ、ちがっ!」
「何が違うの。なまえちゃんが言ってることはそういう風にしか聞こえないよ」
「ほ、ほんとは……」
「ほんとは?」
「ほんとは、私だって、」




言いたいけど、この先を言ったらせっかくさっき我慢したのが無駄になってしまう。
けど、佐助さんにこんな真剣に見つめられたら言わないわけにはいかない。


それに、言ってしまって、佐助さんにこんなオファーを断って欲しいって思ってる自分もいる。
ああ、そっちの自分のほうが大きい。



やっぱり私に自己犠牲愛なんて無理なんだな。





「して、ほしくない! もし、それで佐助さんがその女の人好きになったら、って思うと……!」



なんて格好悪いんだ。
二十四にもなって感情に任せて喚いて泣くなんて。





「私なんて……敵うわけないから……」




絶対今の私の顔普段より不細工だ。
鼻水も出てるよたぶん。



余計に見せられない顔を手で隠す。






「ああもう」





佐助さんのため息が聞こえたと思ったら、包まれた。





「可愛すぎなんだけど。俺様がなまえちゃん以外を好きになる分けないでしょーが」
「あ……うっ」
「ってか、俺様、信用されてないね」
「そ、そんなことは……」
「そんなことあるよ。たかが仕事で身体をあわせたぐらいで好きになるなんてあるわけ無いでしょ」
「けど、綺麗な人だったら……」
「はあ……なまえちゃんは俺様が顔で選んでるとでも思ってるの?」
「そういうわけじゃ……けど人は見た目が八割って言うし……」




いくら顔で選んでないって言ったって綺麗な人とそんなことしたら意識するはず。



佐助さんは意地悪だけど、優しいところのほうが多いし。
女の人は十中八九惚れる。
格好いい上に気配りできて優しいなんて惚れないほうがおかしい。


その女の人が佐助さんにアタックしたら……。
佐助さんだって……。





「なまえちゃんってほんと何も分かってないね」
「え?」
「なまえちゃんの好きより俺様の好きの方が大きいよ」
「そ、そんなわけないですよ……」





私がどれだけ好きかなんて、佐助さんに分かるわけない。
そりゃ、佐助さんのほうが好きになったのは早いかもしれないけど、時間は関係ない。
どう考えても私のほうが大きい。




こんなことは佐助さんに言えないけど、佐助さんって結構軽そうだし……。
どうせたくさんの人と付き合ったことがあるんだ。



私なんて付き合ったことなんて一度も無い。
私が好きになる人って大体彼女持ちだし……。





「あーあ、俺様って可哀想。こんなにもなまえちゃんが好きなのに分かってもらえないなんて」



抱きしめる力が強くなった。


分かってもらえないって……。
こっちの台詞なのに。



私がどんな思いで、佐助さんに映画の話を受けてくださいって言ったと思ってんの。




分かってないのは佐助さんのほうだ。





「私は……佐助さんの将来を思って……!」
「俺様の将来?」
「もしこの仕事を断ったら佐助さんの仕事が無くなるかもしれないじゃないですか!」
「……うん」
「有名な監督からの誘いを断ったら、佐助さんの評判が悪くなって将来的に芸能界でやっていけなくなるんじゃないかって!」




そこまで言うと、また涙が出てきた。
ああ、くそ。
私ってこんなに涙もろかったっけ。



佐助さんが絡むと涙腺が緩んで困る。





「あは、かわいいね。なまえちゃん」
「じょ、冗談言ってる場合じゃ……」
「冗談じゃないよ。ってか、一つ位仕事断っても影響ないよ」
「え……?」
「それにそれが原因で仕事が減っても後悔なんてしない」
「そんな……」
「なまえちゃんが俺様のこと考えてくれてたことが分かっただけで満足だし」





そんな甘い考えじゃ本当に生き残れないんじゃ……。




「あ、けど、なまえちゃんが俺様がすぐ他の女に目移りする軽い男だと思われてたのにはショックだなあ」
「へっ?」
「俺様普段へらへらしてるから軽く見られがちだけど、ほんとはかなり一途なんだよねえ」
「あっ、や……」





抱きしめていた腕が離れ反抗する間もなくゆっくりと押し倒された。



な、なんで、いきなり。
意味わかんない。






「うーん。どれだけなまえちゃんのことが好きか教えてあげる」
「待って! わ、私風邪で……」
「汗かいたほうが早く治るんじゃない?」
「そんなベタな方法で治るわけないじゃないですか! ごほっ、真剣にうつりますよ!」
「あは、だからなまえちゃんの風邪なら大歓迎だって」
「ちょ、いや……!」
「俺様、以外と怒ってるんだよねえ」
「え」
「うーん。激しくなっても怒らないでね」
「そのっ……わたし、あっ……」




やばい、ほんとにどうしよう。



目、が……本気だ。





あ、これって草食動物の感じる恐怖と同じじゃない?








「あ……し、まうま……」







「ん、何か言った?」
「なんでも、っ、ないです……」
「なまえちゃん、すごい可愛い」






なんでだろう、シマウマって、前にも感じたような。






「や、あっ」




けど、そんな考えはすぐにどこかに飛んでいった。



(これがデジャヴ)
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