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17 甘い思考回路



「も、もうすぐかな……」



午後十一時、ベッドの上で正座して携帯と睨めっこ。

も、もうすぐ掛かってくるよね、佐助さんからの電話。
ああ、やばいドキドキする。
やっぱり佐助さん、怒ってんのかな……。
怒られるのかな。


……うん十中八九怒られるよね。
昼間の電話でも佐助さん、いままでで聞いたことないような声色だったし。



うわ、なんだか電話掛かってくるの嫌になってきた。



なんて思って居ると電子音が静かな部屋に鳴り響いて目の前の携帯が震えた。
もちろん、発信元は猿飛佐助。



焦りすぎて携帯を落としそうになりながらも、通話ボタンを押した。


「も、もしもし!」
『出るの早いね』
「え、っと……待ってたんで……」



うわ、声低っ。
相当怒ってるよね。

こんな状態でよく昼からの仕事できたね。




『ふーん……で、石田部長って誰』
「わ、私の直属の上司です……」



佐助さんの声に感情が篭ってない。
うわ、この声だけで殺されそうなんだけど。

……嫌だなあ。
何で彼氏と話すときにビクビクしなきゃなんないの。




『その石田部長ってなまえちゃんのこと好きなの?』
「それだけは本当にないです! 仕事とかいっぱい押し付けてくるし。いつも暴言ばっかり吐くんです」
『嫌がらせばっかされてんのに何で同僚の子は溺愛してるとか言われてんの』
「何ででしょう? 私にもよく分かりません。けど! 私と石田部長は嫌い合ってるのは確実なので!」
『……へえ』



これでも機嫌直らないの?
絶対石田部長とどうこうなるなんて天地がひっくり返ってもないのに……。

どうしたら私の言葉信じてくれるんだろ。


私が好きなのは、佐助さんだけなのに。


どうしても、佐助さんにそれが分かって欲しくて。


「佐助さん」
『なに?』
「っ、あの……その、すっ……き、です……」




せっかく勇気を出して言葉にしたのに、佐助さんからの返事がない。
何で?
こんな言葉じゃ信用に値しなかったのかな……。

どうすればいいんだろ。




「佐助、さん?」
『っ、あ……いや今の、反則、……』
「え?」
『ううん、なんでもない。ごめんね、疑って』
「っ、いえ! 信じてくれただけで嬉しいです!」


思わず叫ぶように返事してしまった。
うわ、恥ずかし。



『そっか。けど、一応石田部長と接触は出来るだけ避けてね』
「心配しても何もないですよ?」
『うん。分かってるんだけどね、やっぱり不安要素は出来るだけ取り除きたいし』
「……佐助さんがそれで安心してくれるならそれでいいですけど……」



本当に、心配するだけ時間の無駄っていうか……。
佐助さんって真正の心配性なんだなあ。



『あ、そうだ。なまえちゃんって会社の集まりに出席とかしてんの?』
「はい。出来るだけ出席するようにはしてますけど」



色々人間関係とかもあるしね。

お酒飲めないし、ほんとは全然楽しくないんだけど仕方ないよ。
これが付き合いってものだし。



『お酒とか、飲んでないよね?』
「アルコールアレルギーって嘘付いてるんで大丈夫ですよ」


始めはそれでも飲め飲めって無理矢理飲まされそうになったけど、本気で嫌がれば他の先輩が助けてくれた。


そういえば、その時助けてくれた先輩って北河先輩だったよなあ。

ああ、あの優しい先輩も転勤しちゃうのか……。
なんだか寂しくなるなあ。



『ああ、よかった。お酒飲んだ時の可愛いなまえちゃんを見られなくて』
「っ!? 私、どんな感じだったんですか!? 全然憶えてないんですって!」
『あはー、内緒』
「何でですか! モヤモヤするじゃないですか!」



ああもう、お酒飲んだ時の私ってどんな風になるんだろう。
最悪だ。なんか、佐助さんは前に甘えたって言ってたけど。

……気持ち悪。
この私が甘えたって……。
想像しただけで吐きそうなんだけど。



『そんなに知りたいなら今度二人でお酒パーティしよーよ。お酒飲んだ時のなまえちゃんをビデオカメラで撮ってあげる』
「結構です!」
『遠慮しなくていいのにー。ま、とにかく、俺様以外の前でお酒、飲まないでね』
「佐助さんの前でも飲みませんけどね」
『えーまあ、なんか飲ませる方法考えとくよー』
「考えないで下さい!」



佐助さんなら私が気付かないうちにジュースを酎ハイに換えそうだし。
うわ、佐助さんに警戒しとかなきゃ。

一般人よりも佐助さんの方が危ないって。




『照れなくてもいいのにー』
「照れてないです!」



……佐助さんはやっぱりこの自信過剰なところを直した方がいいな、うん。
対応に困る。




『やっぱなまえちゃんからかうのは直接会わないとだめだねー』
「からかうの、いい加減やめてくださいよ」
『だって、おもしろいしー』



ああもう、佐助さんに勝てない。
ふわふわしててつかみ所ないし。
暖簾に腕押しって感じ。



「面白くないです! もう、寝ますね!」
『あれ? 怒った?』
「佐助さんはからかうために彼女をつくるんですか」
『そんな訳ないじゃん。命一杯俺様の愛を注ぐためになまえちゃんは存在するんだよ』



やけに真剣な声色で言われて思わずたじろいでしまう。
くそー、佐助さんはこれで私が照れるのを計算してるんだ。

どうせもうすぐしたら、照れたー? なんて言うんだ。

そんなこと言わせないようにしなきゃ。
佐助さんの言葉を本気にしちゃだめだ。



「佐助さんが愛を注ぐとか言うと、なんか卑猥……」
『あは、よく分かったねー。なまえちゃんも成長したじゃん』
「なっ、やっぱりそういう意味で……!」
『まーしょうがないでしょー』


俺様もまだ二十六だしーと当たり前のように言う佐助さんに頬が熱くなった。

怒りと、羞恥で。



「も、もう本当に寝ます! おやすみなさい!」
『えー、もっと話してたいのに。しょうがないか、おやすみー』



佐助さんのその言葉を聞いて、電源ボタンを即行で押した。



「っ……」


二十四にもなってこんな話題で照れるな、馬鹿。
こんな調子じゃいつまでも佐助さんのぺースに飲まれたままだ。




ぺちぺちと頬を叩いてから布団にもぐりこんだ。





あ、佐助さんに今度送別会に行くって言ってなかったけど、大丈夫かな。




まあ、いっか。

どうせ協調性の皆無な石田部長はいつも通りこんな会社の集まりに来ないだろうし。
私も、お酒飲むつもりなんてないし。


なんにも心配要らないしね。



(その考えは果たして正解か)
[ 17/30 ]
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