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15 惚れた男は獣でした



「なまえちゃん、好きだよ」



「なっ……!?」



その言葉に私の頭は一層混乱する。




佐助さん、微笑んでる。

何でそんな大切な事を簡単に言えるかな。
ってか、何で私のこと好きなの。


鶴姫は?
何も解決してないのにいきなり言われても困る。


また、冗談……?



「つ、るひめは……」
「そっか。あの報道の説明がまだだったね」



すっかり忘れてたよ、と佐助さんが思いだしたように言った。




「何でも訊きいていいよ」
「っ、なんで……一緒に歩いてたんですか」
「ドラマの打ち上げだよ。もう撮影が終わったからさ。写真には写ってないけど後ろには他の出演者とかいるからね」



「じゃ、じゃあ手を繋いでたのは……」
「繋いでないよ。たまたまあのアングルで見ると重なって繋いでるように見えたんじゃない?」



「へ、変装してなかったじゃないですか」
「打ち上げも仕事のうちだよ。仕事でプライベートの格好するわけないでしょ」


そこで、思い出したように佐助さんが追い討ちを掛けた。


「あ、そうだ。ちなみに鶴姫は風魔小太郎っていう好きな人が居るから」




なに、それ。
どう考えても週刊誌が全部でっち上げてるじゃん。

全く報道されてる事と違うじゃん。



……そうだ。報道なんて嘘ばっかだ。
私がそれを一番わかってたはずなのに。



……恥ずかしい。
一人で勘違いして嫉妬してヒステリックになって。




あの解説者もなんなの!
何が結婚するかもしれない、だ。

付き合ってもないのに結婚するわけにじゃん!



あのテレビの解説者に憤りを感じていると佐助さんが質問してきた。





「もう一つは訊かないの?」
「え? もう一つ……?」
「鶴姫とドラマでキスしてたじゃないですか! だっけ?」
「っ!? わ、忘れてください!」



さっき勢いで言ったけど、これは佐助さんを責められるものじゃない。
ドラマだし、仕事だし、あのキスに愛はないし。


うわ、最悪だ。


嫉妬してたのバレた……。





「ドラマ、見てくれてたんだ?」
「た、たまたまです!」
「へえ? じゃあ、たまたま俺様のキスシーン見てやきもち妬いたんだ?」
「っ! ち、ちがっ……!」



否定しても佐助さんは全く信じてない。
暗闇に目が慣れてきて、佐助さんの表情がはっきり見えるようになってきた。


ああ、意地の悪そうな顔してる。
私の反応見て楽しんでるんだろうな。



「大丈夫だよ。あれは仕事。これは……」
「んぅ……」



いきなりキスをされたと思えばすぐにリップ音を立てて離れた。



「完全にプライベートだからね」

「な、何で一旦キスを挟むんですか」
「いやーキスしたいと思ったし」
「……ばか。こんなこと、玄関でするもんじゃないです」
「あはーだね。じゃあ、ベッド行く?」
「はっ!? い、行きません!!」
「冗談だよ。まだなまえちゃんの気持ち聞かせてもらってないのにそんなことしないよ」
「っ……」




佐助さんは私の告白を待ってるんだ。
言わなきゃいけないの、いざ言おうと思うと喉が震えて声が出ない。



好き。たった二文字なのに何で緊張するんだろう。






「なまえちゃんが好きだよ。これ本音だって信じてくれる?」
「っ、は、い」
「じゃあ、なまえちゃんは?」

「……す、き……です」



振り絞って出した声はか細くて情けなかった。
しかし、佐助さんにはちゃんと届いていたのか告白した瞬間佐助さんの匂いに包まれた。



「うーんほぼなまえちゃんの気持ちには気付いてたんだけど、やっぱ直接言われるとうれしい」
「そー……ですか……」


恥ずかしくて堪らなくて佐助さんの肩に額をくっつけた。

ああ、失恋したって悩んでた数日間を返して欲しい。
こんなどんでん返しなんて聞いたことないよ。
本当にドラマみたい。



芸能人で、こんなに格好いい佐助さんが私と両想いなんて。


今でもなんか信じられない。


夢だったらどうしよう。



「佐助さん、冗談だったらぶん殴りますよ」
「なまえちゃんも冗談だったら、監禁するよ」
「はっ!? 監禁!?」
「んー俺様なまえちゃんを手放す気ないからさー。監禁しちゃうかも?」
「こ、怖っ!」
「あはー冗談だって。まあ、やっても軟禁くらいだよ」
「十分怖いですって!!」



佐助さんってドエスだとは思ってたけど、まさか鬼畜にまで達してたとは……!
えらいひと好きになっちゃった。




「冗談冗談。心配しなくてもなまえちゃんは俺様のこと大好きだもんね?」
「っ……だ、『大』はつきません!」
「あれー? ほんとに?」
「ほ、ほんとに……」
「ほんとに?」
「ほんと……ぐえっ……」



意地を張って本当に、と言おうと思えば佐助さんにうめき声が出るほど強く抱き締められた。




「っ、『大』は数えられないほどついてます」
「あは、やっぱりー。俺様、なまえちゃんのこと愛してるー」
「っ……もう、軽くて信じられないです」
「んーじゃあ、ベッドで信じさせてあげようか?」
「あ、頭の中そればっかですか!?」
「あは、もうなまえちゃんの気持ち聞いたからそういうこと普通にしようとするよ?」
「変態!」



身の危険を感じて佐助さんから離れようと肩を押した。
案外簡単に佐助さんの胸から離れられた。



早く触れられない位置に行かないと危ないと思い、立ち上がろうとすれば佐助さんに腕を掴まれた。






「これから油断してると、容赦なく襲うからね」
「なっ!?」
「精々、俺様に喰われないように気をつけて」




微笑んだ佐助さんが私の額にキスした。




(瞳の中に飢えた獣を見た気がした)
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