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12 気づいた気持ち



佐助さんに『佐助さん』と呼ぶよう強要されてから約二週間たった月曜日の朝。
今日の天気を確認するためにテレビをつけると、丁度エンタメニュースがやっていた。


「うわー興味ないわ。ほかのチャンネルなら天気予報やってるかな」


チャンネルを変えるためにリモコンを探す。
こういう使う時に限ってリモコン見つからないよね。
結構急いでるんだから困るんだけど。



座布団の下などを探っても見つからない。
あーもーどこにあるんだろ。


『今日のトップニュースは先日週刊誌に撮られた俳優の猿飛佐助さんと鶴姫さんです』
「……ん?」



佐助さん?
その言葉が聞こえてリモコンを探す事を止め、テレビを見た。


週刊誌に撮られたって……。
いつもあんなに完全防備でばれないようにしてるのに。
御宅田太郎に成りすましてるはずなのになんで?



週刊誌に載っている記事がテレビ画面いっぱいに写っていた。

……距離、近い。
手なんか繋いでるし。
それに御宅田太郎じゃなくて、ちゃんと猿飛佐助だ。


しかも、この鶴姫って子、この前のドラマのヒロイン役じゃ……。
この二人、付き合ってたんだ。


じゃあ、この前のキスシーンは佐助さんにとっては嬉しい事だったんだ。
台本に書いてたから仕方なく、じゃなくて喜んでたんだ。





『月九ドラマで共演している二人ですが、この写真を見ていると随分堂々としていますね』
『そうですね。このように隠れる様子も無く堂々と歩いているという事は余程二人は愛し合っているようです』
『わー美男美女カップルですね。羨ましいっ!』
『はい。もう直ぐ鶴姫さんの両親とも会うという噂も立っていますよ』
『わあ! 結婚秒読みですか!?』
『その可能性はまだ低いと思いますが、将来的にはありえそうですね』




「……へえ」


……ああ、そっか。
結婚するかもしれないんだ。
二人は愛し合ってるんだ。



……私と歩いてたのはただの友達としてだったんだ。
私なんて眼中に無かったんだ。




鶴姫は可愛いしね。
性格も悪そうに見えないし、足細いし。

完璧な子じゃん。


それに比べて私は……。

……なんて、比べる値にも及ばないよ。




やっぱり、類は友を呼ぶんだ。
可愛い子には格好いい子。ブスにはブスの子が集まるんだ。





「って、なにショック受けてんだろ」



芸能人のことなんか興味なかったじゃん。
こういう仕事してる人はホストしてるような人と一緒で信じちゃだめだって分かってたじゃん。


私なんて、芸能人なんかと釣り合わないって分かってたじゃん。
始めから諦めてたじゃん。



なのになんで傷ついてんの?





「……あー、そっか」






……私、佐助さんのこと好きになってたんだ。






ばっかみたい。
分かってたのに。
佐助さんにとって私はただの一般人としか移ってないことが。


私に良くしてくれたのは、ただエンタメに疎い私に興味を持ってくれただけ。
キスしたのはただのスキンシップ。


私にとって佐助さんの一つ一つの行動は特別な物でも、佐助さんにとっては大した事の無いもの。






「あーちきしょー……泣きそう……」



馬鹿だ、私。
気持ちに気付いたと同時に失恋なんて……。

何でもっと早く気付かなかったんだろ。


……早めに気付いたとしても可能性は皆無なんだけど。


つーか、気付くの遅すぎじゃん。
あれだけ格好よくて、冗談だとしても可愛いとか好きとか言われてたんだし。
普通の女の子なら惚れないわけないよ。

……私は普通の女の子じゃないかもしれないけど。





あーあ、合コン断っとけば佐助さんと出会わなかったのに。
断っとけば良かった。


「さい、あく……っ」



滲んでよくテレビが見えない。
くっそ、何で私が泣かなきゃいけないの。


泣くなんて何年ぶりだろ。


ああ、そういえば元親先輩のこと好きになって以来じゃん。
確かあの時も気持ちに気付いたと同時に失恋だったな。

……元親先輩、綺麗な彼女居たし。




私って、人のものが欲しくなるのかな。
好きになった人は必ず彼女居るし。


ああ、悲しいな、この失恋体質。




勝負が始まる前に勝敗がついてるって何よ。
土俵にも立てないじゃん。



あー涙止まんない。





「仕事、行かなきゃ……」




早くしないと電車に乗り遅れる。
遅刻なんかしちゃったら石田部長に殺されるし。


ああ、目赤くなってないと良いんだけどな……。



(気付いた頃にはもう遅い)
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