不気味な男 「なまえ、明日空いてる?」 「あ、はい! 空いてます!」 「じゃあ、明日の合コン来ない?」 「合コン、ですか?」 ここが私の人生で最大のターニングポイントだったかもしれない。 「じゃ、乾杯!!」 「かんぱーい!!」 グラスとグラスを当ててみんなはビールを飲み始めた。 「……うーん」 なんか、私ってすごい場違いだよね。 一緒に居る先輩達は、気合入ってて完璧だし。 私以外は全員スカートだし。 どうでもいいと思って適当に見繕ってきた私は勿論ジーパン。 つーか男性陣にイケメンが多い。 あの胡坐掻いてるポニーテールの人は間違いなくテレビで見たことある。 今、人気が鰻登りの前田慶次だよ。 バラエティとかCMとかバンバン出まくってるし。 流行り物に疎い私でも分かるから、よっぽどすごいよね。 そんな有名人と合コンできるなんて先輩のコネ、半端ない。 それに、後二人も結構いい顔してるし。 この人たちも芸能人なのかな。 合コンで四人中三人が当たりなんて珍しい。 大抵一人か二人しかいなくて、みんなで取り合っちゃうんだよねー。 わいわいと楽しそうに会話してる先輩三人とイケメン三人を観察しながらウーロン茶に口をつけた。 あー暇だなぁ。 只の人数あわせで呼ばれたし、先輩の前だし、でしゃばれないから料理を口に運んでみんなを観察する術しかない。 まあ、良いんだけどね。 好みの人なんていないし。 格好いいと思うけど、私はこの人達に釣り合うような人間じゃないってのはわかってる。 芸能人に興味ないのはそのせいかもしれないなー。 なんて思いながら、美味しそうなから揚げに箸を伸ばすと、もう一膳反対側から伸びてきた。 「え?」 「……俺様も食べていい?」 「あ、はい。私のじゃないのでどうぞ、ご自由に」 ……忘れてた。 コイツも居たじゃん! 目の前にいてたのになんで忘れるんだ! 存在感無さ過ぎじゃんこの人! 確か、御宅田太郎だっけ……? とにかく、この人は不気味。 何日も洗ってないようなベタベタした髪。 今時販売しているのかも怪しい、頬のところまであるでかい丸めがね。 目元を見せないようにしてるのか、深く被った緑色のキャップ。 何年前から着てんだよ!! ってツッコミたくななるほど色あせて縮んだ服。 苗字通り、オタクだ!! って言いたくなる格好。 苗字と見た目がこんなにもマッチしてる人は初めてみたよ。 しかも、俺様って! なに? 何のキャラ真似してんの? 一人称が俺様なんて言う人、生まれてから一度もであったこと無いよ! 人数合わせの私と、不気味なコイツを廊下側に押しやるなんて、流石先輩。 居ても邪魔にならない位置だもんね、座敷の廊下側って! けど、私には酷ですよ、先輩! 不気味で鳥肌立つ上に、こいつのキャラに笑いそうになるんですよ!? これに笑わないで何時間も耐えるなんて出来そうにありません!! 笑いそうになるのを必死で堪えてから揚げを口に入れた。 「わ、このから揚げおいしー」 「ほんとだ、美味しいね」 「そ、そーですねー……」 どうすんの!? なんか、話しかけてくるんだけど! 私どうすればいいの!? 出来れば会話をやめて一人で料理摘んでたいんですけど!! 「ねえ、君はお酒飲まないの?」 「え!? わ、私ですか!?」 まさか質問されるなんて予想してなかったから、上ずった声で聞き返すと、御宅田さんが肩を震わせていた。 「あはは、君以外に誰が居るのさ」 「あ、ははっ……そ、そうですよね!」 わ、笑った……。 案外普通に笑うんだ。 イメージで、グフフとかニヒヒとかやらしい笑いをしそうなのに。 それに、いい声してるよこの人。 声優さんみたい。 それにチラッと見ただけだから当たってるか分かんないけど、鼻筋とおってたような。 それに顎もシャープで体つきも良いかも。 ちょっと、痩せてるかなって思うだけ。 やっぱり、こういう人にも神様はいい所与えるんだ。 少しでも公平に近づけたんだね。 ま、私のタイプではないことに変わりはないけど。 「で、なんでお酒飲まないの?」 「えっと……私、酒癖悪いんですよね。あはは」 ……何言ってんだ、私! 普通に苦手ですって言えばいいのに!! 何素直に答えてんの!? 「そうなんだ、どんな風になっちゃうの?」 「いやーなんか何でも思ったこと喋っちゃうらしいんですよ」 だから何言ってんだ!! あーもう。このこと成人式の時からトラウマで内緒にしてたはずなのに……! なんでこの人にはポンポン言っちゃうんだろ。 なんか、催眠術かけられてんの? あーやだ、こういうタイプって黒魔術とかにも手出してそう……。 「へぇ。なんか見てみたいかも」 「え!? だ、駄目です!」 「えーみたいのにー」 「む、無理です! みんなドン引きするし!」 顔の前で手を横に振れば、御宅田さんの口角が上がった。 「じゃあ、みんなが居なかったらいいんだよね?」 「え? そういうわけじゃ……」 「ちょっと待ってて」 そう言って、御宅田さんは前田慶次の方へ行って、何か話してた。 「そーかい、そーかい!! そう言うことなら構わないよ!」 「ん、また今度」 嬉しそうに大声で笑う前田慶次は御宅田さんに手を振った。 もう出来上がってるよ、あの人。 「じゃあ、行こうか」 「え、や……その……!」 戸惑ってると、手を引かれた。 どうしよう、なんかやばい? パンプスに足を通しながら振り返った。 先輩に助けを求めるように視線を送るけど、先輩は芸能人組に夢中でこっちなんて見やしない。 どうしよう、どうしよう。 私、お持ち帰りされちゃう!? 歩き始めた御宅田さんの背中を見ながら不安が最高潮に届きそうになった。 こんな会って間もない不気味な人に、色々されるなんて……。 イヤァ―――――!! 死ぬ死ぬ! 舌噛んじゃう!! 店を出たところで、私は立ち止まった。 「どうしたの?」 「や、あの……! ど、どこへ向かおうとしてるんですか!?」 「どこって、あそこ」 指差す方向に顔を向けると、ネオンが周りより一際光っているビルだった。 「なっ……!? らぶ、ほっ……!?」 やば、一瞬目眩した。 ありえない。 まさか……。 「ぷ、あははっ! 違う違う、ラブホじゃなくてその三軒隣のバーだから」 「え? バー?」 言われたとおり、三軒隣に目をやるとKEN'S BARと書かれている看板が目に入った。 な、なんだ。 そっちか……。 ほっと胸を撫で下ろすと御宅田さんはまだ肩を震わせていた。 「ちょ、いつまで笑ってんですか」 「あは、ごめんごめん。百面相がおもしろかった……!」 「し、失礼ですよ!!」 私の顔が変って言いたいのか!! 変だとしても、あんたの身なりよりはマシだ!! 毎日お風呂入ってるし、身だしなみにはちゃんと気をつけてるっての!! あんたみたいにだらしなくない!! 「そういう意味で言ったんじゃないよ」 「じゃあ、どういう意味ですか」 「表情がころころ変わるから、可愛いなって」 「え!?」 何を言ってんだこの人!! 歩き出した背中に付いて行きながらそう思う。 つーか、こんな不気味な人に少しときめいた私はもっと何やってんだ! 外見と性格のギャップで驚いただけなんだ。 それに無駄に声も良いからだ。 ないないない。 私は、母親譲りで無駄に面食いなんだから。 まあ、外見ははっきり言ってブスだけど中身は悪くないと思うし。 もう少しちゃんとしてたら、お友達位にはになれるかな。 なんて思っていると、バーの扉が開いた。 「おや、ひさしぶりですね」 「旦那、久しぶりー。かすがは?」 「つるぎはかいだしで、でておりますよ」 「ふーん。で、いつもの席って空いてる?」 「ええ。あいていますよ」 「ん、わかった。じゃあ行こう」 また手を引かれた。 ここ、音楽はも照明も落ち着く。 こんなところあるなんて知らなかった。 まあ、家からも会社からも距離あるし当然だけど。 キョロキョロと店内を見回しながら御宅田さんに引かれていつもの席とやらに案内された。 「ちょっと、トイレ行って来るからここで待ってて」 「え、あっ……はい」 店の一番端の人目につかなさそうな席。 普通にソファーが半円に並べられてて真ん中にテーブルがある。 けど、なるべく他の客と距離をとるためなのか、周りはレースのカーテンで覆われてる。 なんか、病院みたい。 安らぎの場所だから他人と接するっていうストレスを無くすようにしてるのかな。 多分そうなんだろうな。 だって、カーテンは席全体を隠せるぐらいあるし。 御宅田さん、意外にセンスいいんだ。 なんて思ってると、人が入ってきた。 「おまたせー」 「あ、はい」 この声は、御宅田さんだ。 後ろにある観葉植物にやっていた目を御宅田さんにやった。 「え?」 誰、この人。 入ってきた人はにこりと笑って、カーテンを完全に閉めた。 (見知らぬ絶世の美男子) [戻る] ×
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