scandal!! | ナノ


09 お出かけしましょ



「あー休み最高……」




そう呟いて、ベッドに倒れこんだ。
この行為も今日だけでもう四回目。


あの上司から解放される週末は天国でしかないよ。




やいやい文句言う奴いないし、ベッドでゴロゴロ出来るし、恐い上司はいないし、好き勝手出来るし、理不尽なこと言われないし。
まあ、とにかく石田部長が嫌なんだけどさ。


週末が一生続けばいいのに。
明日には月曜日が廻ってくるなんて、憂鬱だ。


ううーもう五時だし、ああー月曜日になるまであと七時間。
いやだー家出るまであと十四時間じゃん。



「うーっ、仕事行きたくない」



もしかして、私うつ病?
うわー原因は絶対石田部長だよ。
裁判したら勝てるかな。



ベッドの上でゴロゴロと転がっていると、いきなり携帯の電子音が鳴り響いた。




「うわっ! び、びっくりしたー」


震えている携帯を開けると、発信元は『猿飛佐助』だった。
うわ、仕事今終わったのかな。
芸能人って深夜まで仕事が続くのかと思ってたけど意外と普通の会社と終わる時間変わんないんだ。


あ、電話に出るの忘れてた。切れちゃう切れちゃうと言いながら通話ボタンを押した。



「もしもし」
『あーなまえちゃん?』
「はい。どうかしましたか?」
『んーファーストキスのお詫びにこの前ご馳走するって言ってたでしょ? そのことでさー』
「え!? 前言ってた海鮮料理の美味しいとこですか?」
『うん、そーそー』
「いつ行きますか? 出来れば週末がいいんですけど」
『んー今日行こうよ、今日』
「は? 今日!?」
『うん』



飄々と言う猿飛佐助に怒りが湧き上がった。
何で今日なの!?
もっと前もって言っておくとかできないの!?



私、すっぴんだよ? パジャマから着替えてないよ!?

完全くつろぎモードなんだけど。色気なんて欠片も無いんだけどさ。




そのくつろぎモードからお出かけモードに変えろって!?
無茶に決まってる! 残り少ない週末をベッドの上で過ごそうって計画立てたのに!




「何でそんなに急なんですか!」



この前も今日も! と付け足す。
まさにわが道を行く人だよ。

この人、思い立ったが吉日ってタイプなんだろうな。
うわーこういう人はダイエット始めようと思ったら直ぐに始められる人だよ。


……だから猿飛佐助は痩せてるのかも。




私は、明日から始めようがずっと続くからいつまでも実行に移せないタイプだから、猿飛佐助のようなタイプが羨ましいよ。なんて思って居ると携帯の向こうでくすくすと笑い声が聞こえてきた。



「何笑ってるんですか」
『いやーなまえちゃんを怒らせるのって楽しいなって思ってさ』
「はあ!? 怒らせるのが楽しい!?」
『うん』


飄々と楽しそうに答えた猿飛佐助に呆れた。
怒らせるの楽しいって事は、怒られることが楽しいって事にもなるんじゃないの?



「もしかして……被虐性愛の方ですか」
『ちょっと、勘違いしないでよ。俺様どっちかというとSだから』
「……そうですか」
『信じてないでしょ』
「さあ」
『うわー明らか信じてない声色だよー』




あ、もしかして猿飛佐助を振り回せてる?
ちょっと、楽しいかも……。


今度は私が楽しさに笑っていると、携帯の向こうが騒がしくなった。
ん? 何かあったの?



もうちょっとだから待っててよー、え? あと三分? りょーかいりょーかい。直ぐ行くって!


なんて、猿飛佐助が誰かと会話している声が聞こえた。
もしかして、才蔵さんっていう人?
才蔵さんって多分猿飛佐助のマネージャーなんだろうな。


こんな自己中の人のマネージャーだったら苦労するんだろうね。
サボりとか普通にしそうだし。


『あ、なまえちゃん?』
「はい?」
『俺様もまだ仕事あるし、二、三時間後に迎えに行くね』




それだったら十分用意も出来るでしょ? と訊かれて思わず、はい。と答えてしまった。


あ、やば、行くって返事したことになっちゃったじゃん。
うわ、私の予定が崩れた。

ベッドの上でゴロゴロというささやかな幸せが。





『じゃ、また後でね』
「あ、は、はい」



電話が切れたことを確認して、私は携帯を閉じた。

服、選ばなきゃ。
どんな服で行こう。



合コンの時は男ウケとか狙ってなかったから普通にジーンズにTシャツだったし。
この前一緒にご飯食べた時も仕事帰りだったから服とか選ぶ暇なんて無かったし。


猿飛佐助と会う時の私って、結構ダサかった?

うわ、今更恥ずかしい。



けどまあ、今まで適当な服だったからあんまり派手な服だと気合入れすぎって思われるよね。
うん、地味な服で行こう。
どうせ、猿飛佐助も御宅田の格好で来るんだろうし。



自分だけが派手って変だしね。
それに少しでもお洒落に見せてポイント上げないといけないような人じゃないし。
別に、猿飛佐助のこと狙ってる訳じゃないし。




うん。いつも通りラフな格好で行こう。
メイクもナチュラルでいいし。




それより、何食べようかな。
海鮮料理だしなぁ。やっぱ丼物とか食べたいよね。

うーん、どうしよう。


明日からまた頑張らないといけないし、今日は高い物食べよー。


いきなり誘われてちょっとむかついたけど、ちょっと楽しみかも。


よし。まずは顔を洗いに行こう。

重たい腰を上げて洗面所に向かった。










***



思いの外早く用意っできちゃったよ。
ああ、どうしよう遠足前の子供みたいにソワソワしてる。


猿飛佐助の電話からもう二時間半経つし、もう直ぐ来るんだろうな。



早く来ないかな。お腹空いたなんて思って居ると、呼び鈴が鳴った。



はーいと言い、ドアスコープを覗くと御宅田の格好をした猿飛佐助が居た。
鞄を持って玄関を出た。




「お待たせー」
「いえ、今用意できたところなんで」
「そう? じゃあ行こっか」
「はい」


私たちは駐車場に向かうため、階段を下りた。

けど、大変な事に気付いて直ぐ足を止めた。
いきなり足を止めた私に猿飛佐助は首をかしげた。



「あの」
「なあに?」
「猿飛さんの車ってどこに止めました?」


勝手に人の駐車場に止めると、ここの人たち結構うるさいから文句言われますよ。と伝えた。

この前、隣の人の友達が勝手に人の駐車場に止めた事でかなり揉めたからね。


私の部屋まで聞こえてなぜかこっちが冷や冷やしたよ。
私、ああいう揉め事に巻き込まれたくないよ。



「んー俺様、タクシーで来たし大丈夫だよ」
「あれ? 車持ってなかったんですか?」


あ、そう言えば、今まで猿飛佐助が車に乗ってるところ見たことないよ。
なんだ、持ってなかったんだ。


「車は持ってるよ」
「へ? 持ってたんですか?」
「うん。けどさ、車種とかナンバーがバレてるからさ」
「あ、そうなんですか」


そっか、車種とかでバレちゃうから折角の変装とかも無駄になるんだよね。
うわーこういうのって、プライバシーの侵害って言うのかな。
法律とかそういうのって得意のじゃないからよく分からないけど。



「直ぐそこの道に待たせてるから早く行こ」
「えっ……あ、は、はい」


手を引っ張られて私は躓きながらも猿飛佐助の隣に並んだ。



……手、繋いでる。


猿飛佐助と繋がっている手を、視線だけ移した。

ああ、恥ずかしい。
いま絶対顔赤いよ。

手汗掻いてたらどうしよう。



(伝わる体温、高鳴る胸)
[ 9/30 ]
[*prev] [→#]
[戻る]
×