旦那の岡惚れ | ナノ




24 周りから見ればバカップル



「みょうじモンハンしようぜー」
「んーいいよ」


そう言って二人はゲーム機を取り出して、何か色々やりだした。
……そういえば、この前もそのモンハンという名が出てきたな。


俺はゲームなどやったことは数えるほどしかやったことが無いため、よく分からぬが。




それより、ここは歌う所なのであろう?
今別の女子が歌っていらっしゃるしな。

なぜ歌わずにゲームをするのだ?


佐助に取ってきてもらったジュースを飲みながら、横目で二人を確認する。




「なまえ先輩ーせっかく来たのに歌わねえのかい?」


慶次殿が小さなテレビのような物をタッチペンで触りながら俺が疑問に思っていることを聞いてくださった。
確か、あの小さなテレビで自分の歌いたい曲を送信すると、その曲が流れるらしい。



「えー私の歌声聴いたらみんな鼓膜破れるし、遠慮しとくよ」
「そんなこと無いって! 俺聴きたいし!」
「いいのいいの、私は歌うために来たわけじゃないし。前田君たちで歌いなよ」
「つれないこと言わないでくれよー」
「あはは、気が向いたら歌うよ」



そう仰ったのを最後に、姫はゲームに集中されたらしい。
すごい速さでボタンを押している。



モンハンというものは、そのように激しい物なのだろうか?
少し興味が湧いてばれないように姫の持っているゲーム機を覗いた。



……ざ、残酷なゲームなのだな。
怪物を切りつけると、血が噴き出ているのだが……。
この剣を振り回している人間を、姫が動かしているのだろうか。



「ぎゃー!! やられた!!」
「うっせーな。つーかお前弱すぎ」
「しょ、しょうがないじゃん! 毒系私苦手なんだって!」
「解毒薬飲めよ、馬鹿」
「飲む前に死んじゃうんだって!」
「じゃあ、定期的に回復薬グレートとか飲めって」
「飲む前に死ぬ!」
「なんでだよ」



……なんだこの二人の仲睦まじい光景は。
姫は伊達成実と向かい合っていらっしゃるから俺には背を向けている状態だ。


姫の背中でも視界に入るのは嬉しいのだが、やはり正面から姫を見たい。


それなのに伊達成実はせっかく姫が目の前にいらっしゃるのに姫に目もくれず、ゲーム機に集中している。
もし俺がその状態ならば、気付かれずにその綺麗なお顔を拝見するぞ!!




「もー!! 双剣切れ味落ちるの早すぎ!!」
「なら太刀とかに変えろよ。そのほうがまだマシだろ」
「嫌だ! 私は双剣命だから!!」



な、なんと! 姫は双剣を気に入っていらっしゃるのか!
俺も父上やお館様と時々稽古する時は木刀二本でやっているぞ。

……このようなところで共通点があるとは!!




「いやあー!! やられたー!!」
「ふざけんなよ、後一回やられたら終わりじゃねえか」
「ごめんってーリオレウス強いー!」
「お前、その調子だとイビルジョーは絶対無理だな」
「当たり前じゃん!! つーかあんなキモいの倒しになんかいかないから!」



……むう、専門用語がたくさん出てきてよく分からん。
なんだ?リオレ……? いびるじょー?


怪物の名前だろうか?




「んー?」
「っ!? あっ……いや、その……」



気付かぬうちに前のめりになって覗き込んでいたらしい。
俺の気配に気付かれた姫が俺のほうを向いた。


……か、顔がち、近いっ……!

思わず後退れば、政宗殿にぶつかった。


「ってーな、おい」
「も、申し訳ない……」


ひ、姫と目が合っている……。
け、怪訝な目をしていらっしゃるではないか。

くそ、なぜ俺は覗いてしまったのだ!




「真田君」
「っあっ……は、はいっ!」
「興味あるの?」
「えっ、いやその……は、はい……」


よ、よかった、お怒りではないのか。



「やってみる?」
「へ? よ、よろしいのですか?」
「うん。もう直ぐこのクエストが終わるし、待ってねー」
「は、はい!」
「おーい、俺と次行くクエストどーすんだよ」
「後ででいいじゃん」
「自分勝手な奴だな、このやろー」
「あは、ごめんってー」


……ひ、姫が伊達成実よりも俺を優先してくださっている!!
今度は俺が勝ち誇った笑みをする番だ。






姫が、クエストというものを終わられると、俺にゲーム機を貸してくださった。

「はいどーぞ」
「あ、ありがとうございます」


ど、どうすればいいのだ。
どう操作していいか、さっぱりなのだが。


「えっとねーこのキャラクターで行こっか」
「あ、はい」


姫が俺の持っているゲーム機のボタンを押してくださっている。


待て待て待て。
距離が、近い……!

もう少しで身体が密着してしまうではないか!



「始めは簡単なやつにしておこっか」
「は、はいっ……!」


姫が色々と操作してくださるのだが、俺はそれどころじゃない。
……こ、これなら、姫が操作し終わってから俺に渡してくださった方がいいのではないのか?

俺がゲーム機を持ったままで、姫がボタンを押しているのでは近すぎる!



う、嬉しいのは嬉しい。
天にも昇りそうな勢いだが、心臓が持たん!

本当に天に昇ってしまう!!



「△と○で切りつけるからね」
「は、はい!」



姫に言われた通りに動かして、怪物のところまで行く。
お、おお、すごいな最近のゲームというものは。


怪物をボタンを押して切りつける。


……やはり、血は噴き出るのだな。



「おー! 真田君上手ー!」
「そ、そうでござろうか?」
「うん、ほんとほんと。あ、倒したモンスターのとこに行って、○押してごらん?」
「分かりました!」
「それね、このモンスターから剥ぎ取った素材なんだ。それで武器とか防具をつくるんだよ」
「おお、そんな事が出来るのですか!」



姫が夢中になるのも分かるかも知れぬ。
強い怪物を倒せば強い武器や防具が作れるというのか。


俺も、夢中になってしまいそうだ。
まあ姫も夢中になってしまうものなのだから、俺も夢中になるのも頷けるしな。

姫が好きなものは俺も好きになる!



「どう? おもしろいでしょ?」
「はい!」
「じゃあ、次はもう少し強いの行ってみよっか」
「がんばります!」




姫が傍で応援してくださっているのだ。
奮って頑張らなければ!



アオアシラという怪物を倒しに行った。
初心者の俺にはまだ強く、たくさんやられた。
しかし、姫の優しい手解きに何度か挑戦してやっと倒すことが出来た。


ああ、やはり姫がいてくださると、現実でもゲームの中でも強くなれる気がする。



「やったねー真田君!」
「はい!」
「ハイタッチしよー」

掌を出されて、俺は無視してはいけないと思い、姫と手を合わせた。


「あはは、それじゃあ音鳴らないよー」
「へ!? あっ……すみません!」
「真田君はそのままね」


そう言われて、手を上げたまま待っていると、姫が手と手を音が鳴るように合わせてくださった。
姫と二度も手が触れてしまった!!

もう絶対に手を洗わぬ!



「いえーい!」
「あ、あの……! ひ……」
「ごほん、旦那」
「っ……せ、先輩のお蔭です!」


危ない危ない。
佐助がいなければ、姫と口走ってしまうところだった。



「いやいやー真田君の実力だって」
「そんなことは……!」
「真田君がモンハン持ってたら通信できるのにねー」


姫が、真田君と通信したいなー。と姫が仰られた。


……姫と通信する事が出来れば、今まで以上に交流が深まるのか?
そうだ、伊達成実のように放課後一緒に残って通信できるかも知れぬ。




「……そ、某、このモンハンを買ってもらいまする!!」
「え? ほんと?」
「は、はい! このゲームは誠におもしろい物でありますし、それに、ひ……ではなく、先輩とも通信してみたいです!!」
「あは、嬉しいこと言ってくれるねーこのやろー」
「いや、ははっ!」


姫に肘で突付かれて、俺は思わず口角が上がった。
ひ、姫に触れてもらえた……!


必ず買ってもらおう!




「さ、もう時間だし、行くか!」


慶次殿がそう言われると、みなが立ち出した。
なんだ、もう三時間も経ったのか?

夢中になりすぎて気付かなんだ。



「次はボーリングだー!」
「おー!」



ボウリングか。
よし、姫に格好いいと思われるように頑張らねば!


部屋を出て行くとき、俺は握り拳を作った。



「旦那」
「なんだ?」
「結構仲良しじゃん」
「そ、そうか?」
「そーだよ、あんなに寄り添っちゃってー」
「なっ!?」
「body touchもあったしな」
「カップルかと思ったよー」


佐助、政宗殿、慶次殿にからかわれて、顔が急激に熱くなった。
そ、そうだ、みなの前にいることを忘れていた……!


「お熱いねー」
「今は冬なのにな」
「このまま告白してもいいんじゃねえか?」





「っ! か、からかうのはよしてくだされ!!」



(だが、からかわれるのは不快ではない)
[ 26/30 ]
[*←] [→#]
[戻る]
×