夢うつつ | ナノ





「送ってくれてありがとう」
「Ah,気にすんな」
「あと、忙しいのに着いて来てくれてありがとう」
「ま、俺も暇だったからな」



佐助君が用事で昨日にドタキャンしてきたから政宗君にいきなり、明日遊園地行かない? って誘ったのに。
OKと軽々しく即答してくれた。

私がそこら辺の女の子だったらベタ惚れなんだろうな、きっと。



「そうだ、なまえ」
「なに?」
「幸村によろしく伝えておいてくれ」
「え、うん?」
「See you」

よく分からなくて、曖昧な返事を返すと政宗君は笑って帰っていった。


なんなんだろ。
さっきから政宗君の言ってることがわかんない。


首を傾げて少し考えたけど、分からないから考えるのをやめた。
とりあえず幸村がちゃんと部屋に居てくれてるかだけを確認しよう。


家の中に入り、ただいまとだけ家族に伝えて二階に上がった。


「けほっ、けほっ……んー喉痛い」


やっぱり夏風邪の前兆?
けど、熱っぽくはないんだよねー。

ただ砂埃とか喉に入っただけだろうな。


喉を少し揉んで、ドアノブに手をかけた。



「幸村?」


ドアを開いて、中を覗けば真っ暗の部屋に幸村がベッドに座ってた。
言っちゃだめだろうけど、幸村の赤い指輪だけが光っててなんか不気味……。

けど、ちゃんと居たんだ。
ほっと胸を撫で下ろして、ドアを閉めて電気をつけた。



「ね、幸村。なんで先に帰ったの?」



どんよりとした幸村にできるだけ明るく話しかけた。

けど、幸村は下を向いていて、私の質問に答える気はなさそう。


……せっかく明るく話しかけたのに、無視?
そんなに怒ってるの?


分からずに、視線を床に落とした。



何がそんなに幸村を怒らせたんだろう。
考えても全然思い浮かばないし。


思い当たる節は政宗君と少し仲良くしてたって言うより、肩を抱き寄せられただけ。

そんなやきもちみたいな感情を彼女でもない私に抱くはずないでしょ。


やっぱり、幸村の意見を無視してバイキングに行ったり、観覧車に行ったりしたから?



考え込んでも、よく分からない。
幸村はそんなに心狭い子じゃないと思うんだけどなぁ。


視線を幸村に戻すと、目が合った。

やっと、答える気になったとか?
良かった。これでもやもやしてた気分から開放されるよ。


「あ、ゆき……む、ら?」


声をかけようとしたら幸村は無言で立ち上がり、私の方に歩いてきた。

「え、ちょ、なに?」


鋭い視線と威圧感を感じるんだけど!?

しかも無言でとか怖すぎる……!


無意識に後ろに下がった。


一歩前に進むたび、一歩下がることを数回繰り返すと壁に到達してしまった。


もう幸村がこっちに進んでくることしか出来なくて、私と幸村の距離はどんどん縮まっていく。

なに? なんなの!?
何も分からないのが一番困るんだけど!!
何とか言ってよ!!

相変わらず鋭い視線で私をじっと見据えてくる。
なんだか、目を逸らしちゃいけないような気がして、幸村を見上げたまま固まった。


どうすんの、どうすんの!?

そんなに広くない私の部屋だから、すぐ目の前に幸村が来た。


「な、なに……?」


声をかければ、幸村は私の身長にあわせて屈んだ。

「ちょっ……」


そんな無駄に整った顔を近づけないでよ!!
顔がそんなに近づいたら破廉恥じゃないの!?
顔の距離なんてあと十五センチ程しかないんだけど!!



『なまえ殿』
「っ、なななにっ!?」


慌てた私の返事にも幸村の顔色は変わらない。


『……政宗殿とは口付けを交わすような仲なのか』
「ま政宗君と!?」


なんで?
そんなことありえないんだけど!!


『答えてくれ』
「え?」

なんか、苦しそうに顔顰めたんだけど。
それより、口調がいつもと違うじゃん……。


『答えぬということは肯定なのだな』
「え、ちょっ……違うって! 私と政宗君はそんな仲じゃない!!」
『では、先程のあれはどう説明するのだ』
「あれ? あれって何?」


よく分からずに首を傾げると、幸村の目が見開かれた。
私、変なことでも言った?


『か、観覧車の……!!』
「観覧車? ああ、あの政宗君がいきなり顔近づけてきたやつ?」
『え……?』
「あれ、なんだったんだろうね。キスされるかと思ったら顔近づけてきただけだったし」
『なっ……!?』


ん? 幸村の顔が真っ赤なんだけど。

もしかして、幸村のアングルでは私と政宗がキスしてるように見えたとか?
意外とそういう風に見えるかもしれない。


『っああああ!』
「ゆ、幸村?」
『そうであったのか……! 某はてっきり……!!』


大声を出したかと思うといきなり頭を抱えて蹲った。


『そ、某は……なまえ殿がっ! 政宗殿と……!』


何か幸村が言い出すと同時に、部屋に鳴り響いた電子音。

「……ちょっとごめん」

電子音にガックリと項垂れた幸村を横目に携帯を開くと、政宗君からメールだった。

「な……」

開いてみると思わず声が漏れた。


『……ん? 誰からでござるか?』
「政宗君から、これ……」


携帯を向けると幸村は音読した。


『……今度は、マジでファーストキス奪わして貰うぜ。アイラブユー。マイスウィートハニー。ディープなのを期待してるぜ…………っ!?』


最後まで読めば、幸村の許容量がオーバーしたのか放心状態になった。
心なしか、頭から煙が見える気がする。


まぁ、シャイな幸村にとってはそりゃそうなるよね。
しかも文の終わり全部に大きなハートの絵文字が二個ずつついてたし。


政宗君は前にメールしてた時に絵文字なんて一回も使わなかったから、これは冗談だろうな。
まぁ、幸村は政宗君とメールなんてしないだろうし、わかんないよね。


すごい混乱してるだろうな、なんて思ってばれないように笑えば下を向いていた幸村の目が私を見据えた。

笑ってるのばれた?


『……なまえ殿は、そのっ……! ま政宗殿ときききすは、なされるのか!?』
「私はするつもりないけど、奪われちゃうかもねー」


なんて冗談っぽく言って幸村に笑いかけた。
幸村は政宗君の破廉恥メール? を見てよっぽどショックだったのか死刑勧告された人みたいに顔が暗くなってるからね。

ってか今、幸村なんて土下座みたいに手を付いて立ってる私を見上げてるからね。
どこの女王様だよ、私は。
だから、私が幸村に酷い事してるみたいで、嫌だから前に座ったら思いのほか近かった。


どうしよ。なんか近い。
離れる事もできるけど、私から近くに座ったのに離れるって失礼だし。

向かい合って座ってるから余計に顔が近い。
離れないと、幸村が真っ赤になって破廉恥とか言いそうだし。



「あ、あはは。ちょっと近かったね」


空笑いしながら離れようと後ろに手をつけば、フリーズしてた幸村が真剣の顔になった。




『なまえ殿』
「ん? な、なに?」


返事を返した瞬間。
唇に感じたひんやりとした霊気。
目の前にはふわふわの柔らかそうな見覚えある髪。


それもすぐに感じなくなって、目の前には真っ赤になった幸村。


『っ……』
「え?」


な、に……今の……。

幸村が、私に……?


『も、もし政宗殿になまえ殿の初めてを奪われるぐらいなら、そ、某が……!』


火が出そうなぐらいの顔で私を見て、やっと何をされたか理解できた。

私、幸村にキスされた……?


「あ、えっと……」
『そ、そのっ……不快に思われたでござるか……?』


苦しそうな、悲しそうな幸村から目が離せない。


「……嫌じゃなかった」
『真でござるか……?』
「う、うん」


幽霊で感触がないとはいえ、一応ファーストキスなのに。
何でだろう……嫌じゃなかった。


『で、では……もう一度しても……?』
「え?」


上擦った声に、私は情けない返事を返してしまった。

まさかそんな言葉が来るとは予想だにしてなかったよ。
幸村からキスを迫られるなんて……。


『あ、や……嫌ならば、良いのだ! そ、そそ某が可笑しかったのだっ!!』

私から、素早く離れて目を逸らした。
サルのお尻より真っ赤な顔をして後ろを向いた。


なんか後ろ向くとき、幸村の顔が悲しそうに見えたんだけど。
まだ返事もしてないのに……。


「幸村」
『な、なんでござるか!?』
「……してもいいよ」
『なっ!? ……いい今なんとっ!?』
「もう一回してもいいよ」


そう言えば、幸村は身体をこっちに向けた。


『ままま真で!?』
「う、うん」


幸村の勢いに思わず怯んでしまう。
やっぱり断るべきだったかな……。

なんか、了承したこっちが恥ずかしくなってきた。

俯くと、肩にひんやりとした感触があった。
幸村が触れたとわかる合図に顔を上げると、幸村が私を見据えていた。


こんな雰囲気じゃ、もう断れないよ。


腹を括って、目を瞑った。


『なまえ殿……』


幸村の震えた声が聞こえてきた。



(そして唇にもう一度感じた、ひんやりとした霊気)
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