『あ、怪しい者ではござらぬ故、落ち着いてくだされ!』 半透明の身体。 脳内に直接響く声。 今日は不気味な赤黒い満月。 季節はお化けやらが活動的と噂の夏。 そして、不吉な十三日の金曜日。 まさかの草木も眠る丑三つ時。 これは……もう何の異論もないよ。 信じるしかない。 これは、出た……っ! 「ぎゃ、ぎゃー…………!?」 『し、静かにっ……!』 「っ……」 幽霊に口元へ手をかざされたら、声が出なくなって、指一本たりとも動かせなくなった。 できるのは瞬きぐらい。 うそっ……これが噂の金縛り……!? どうしよう……。 とり憑かれて、たたり殺されるっ……! 現実逃避のためか、脳内が私の意識を強制終了した。 ++++ 「はっ……!?」 目が開いて勢い良く起き上がった。 身体が、動く……。 それにあの幽霊もいない。 「よ、良かったぁ……」 夢だったんだ。 良く考えれば、金縛りになるのは幽霊のせいじゃないし。 確か、夢と現実の境目で、意識はあるのに現実にはありえないものが見えるんだよね。 そうか、私は疲れてたんだ。 ゲームを遅くまでするんじゃなかった。 って、え? なんで私ベッドで寝てないの? 夢の中で気絶したところで寝てるわけ? 『おぉ!目を覚まされましたか!!』 「ひっ!?」 惚けながら窓の外に目をやると、夢の中の幽霊が窓をすり抜けて入ってきた。 なにこれ!? なに食わぬ顔で入ってきたんだけど……!? しかもなんで、夢の中から出て来てんの!? もしかして……これも夢? 「そ、そっかぁ……夢かぁ……」 ほっと胸を撫で下ろす。 夢ならまだ許せる。 まぁ、覚めたときにはきっぱり忘れて欲しいけど。 『ま、待ってくだされ!夢で片付けられては困りまする!』 「はいはい。なに?」 『むう……どうすれば現実だと信じてもらえるのか……』 幽霊は腕を組んで考え込んでる。 別に夢ってことは確実なんだから、そんな考えなくても。 つーか、なんで幽霊が夢に出てるんだろ。 夢は願望の現われって言うけど、私って幽霊に会いたいの? いやいや、それはない。 私はかなりのびびりで怖がりで、幽霊とか妖怪とかの類は全然ダメって自負してるくらいだし。 怖いテレビ見たら一人で寝れないから。 『そ、そうでござる!!頬をつねってみてくだされ!』 「頬を?いいけど……」 別に痛くないだろうな。 なんて思いながら思いっきり頬をつねってみた。 「い"っ!?」 うそ……痛い……? なんで?夢じゃないの? 『分かっていただけたでございますか』 「違うよ、これは……ゆめなんだから……」 『夢の中で、夢や現実についてこんなに深く考えたことはないでございましょう。夢の中では夢の中の出来事に必死になっているのでは?』 ……そう言われてみればそうかも……。 夢とか現実とか、夢の中で考えたことない……。 なんで、それじゃあ……。 「げんじつ……?」 こくりと深く頷いた幽霊に血の気が引いた。 夢だって……ねぇ夢でしょ? こんな、幽霊なんて……。 私が霊感あるなんて……。 現実なんてありえない。 幽霊なんて、人を呪い殺すものでしょ? 現実ならば、この先に起こる私の不幸を想像して血の気が引いた。 (お願いだから、誰か夢だと言って) [戻る] ×
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