2 五年になった。 あれからマイラとは約束した通り贈られた手紙を一週間以内に送り返していた。 ……まあ面倒だと感じるし、正直そんなに書くこともないような気がするが約束した手前守っている。女っつーもんはマメな生き物だとつくづく感じる。マイラは記憶がないせいなのか学校に通わず一日家にいるか、近場に散歩するくらいしかできないからまた特別なのかもしれないが。 「あ、またシリウスに手紙来てるよ」 大広間で朝食を摂っていると毎日の恒例行事のふくろうが一斉に手紙やプレゼントなどを届けに来た。俺の上でふくろうが口に咥えた何枚かの手紙を落とす。受け取って差出人を確認する。 一番上のこの吐き気がするような封筒や封蝋はババアからのだな。どうせ恨み辛みしか書かれてないし要らねえ。ぽい、と机に放って次の三通はラブレターらしきものだ。ハートのシールやピンクの封筒からしてほぼ間違いない。とりあえず保留だ、とババアの手紙の上に放る。そして最後のやつは花柄の封筒に『マイラより』と書かれているからわかりやすい。 ……とりあえず部屋に帰ってから読むかとローブにしまおうとした瞬間、手から封筒が消えた。 「へえ〜なになに? マイラよりだって! 彼女?」 「ジェームズ! てめっ、返せよ! てか彼女じゃねえ!」 「他のラブレターは乱雑に机に放り投げるくせにこの手紙だけは大切にしまうんだね」 「し、シリウス、最近よく手紙書いてるよね!」 「そうそう、ピーターの言う通り。なーんか怪しいと思ってたんだよ」 ピーターも気になって仕方ないというように目をキラキラさせて俺を見てくる。ジェームズは犯人を見つけた名探偵のように不敵に笑ってくる。 「だからそいつは何でもねえよ!」 「ま、それは中身を確認してから決めようか」 「おい!」 別に何も見られて困ることは書いていないだろうし、いつも通りの雑談だけだ。けれどなんとなくジェームズたちに見られるのは恥ずかしかった。飯食ってるし座ったまま取り返そうとするが、無駄に素早いジェームズから取り返せない。 くそ、もう立ち上がって無理やり奪うか。 「ジェームズ、無理矢理人の手紙見るのはやめなよ」 リーマスの制止が入ってぴたりとジェームズが止まる。 おお、流石リーマス。 「別に無理矢理見たいわけじゃないさ。けどシリウスが親友の僕に隠し事するのが気に入らないんだ」 「別に何も隠してねえよ」 「じゃあ見てもいいよね?」 「それとこれとは別じゃないかい? その女の子のプライベートなことも書いてあるかもしれないし」 リーマスがさらに止める。監督生になって変わったのかと思うくらい強気だ。こんなにジェームズに食い下がるリーマスを見るなんてあまりない。 「まあね。これがシリウスの彼女からの手紙なら僕も見ないさ。愛の言葉とか書いてあったら気まずいしね。たった一言僕に彼女だって教えてくれたら済む話なんだ。それなのに隠そうとするシリウスが悪い」 今までどんなラブレターや別れた彼女からの不幸の手紙だって見せてくれたのにさ。とジェームズがむくれたように頬を膨らます。 ……全然可愛くねえぞそれ。 「だから彼女じゃねえって! ただの知り合いだっつーの」 「じゃあ別に見られて困るものじゃないよね」 全く俺を信用していない目で見てくるジェームズ。絶対に引き下がらないという固い意志がハシバミ色から伺えた。 「……あー! わかったよ! 見ればいいだろ! どうせ大したこと書いてねえよ!」 頑固なジェームズに仕方なく俺が折れる。確かに見られて困る内容じゃない。ただ、俺にも理由はわからないが見られると少し恥ずかしかっただけだ。 「やった。じゃあ開けるね!」 リーマスが同情の視線を向けてきたが、首を振って大丈夫だと伝える。喜々として蝋封を剥がした瞬間、ジェームズの手から手紙が浮いた。 「え……」 ジェームズも俺たち全員も固まって手紙を見つめる。 手紙が俺の方を見た。 「待って、これ不味くないか」 「もしかして吠えメール?」 「え、け、けど、吠えメールって赤い封筒じゃなかった?」 よく親から吠えメールをもらっているピーターが記憶違いだと伝える。 『おじいちゃん、もう話してもいいの?』 『ああ、自動速記羽ペンが君の言葉を書いてくれるからね』 「待て待て! ジェームズ! その手紙、閉じろ!」 「わ、わかった!」 ジェームズも慌てたように宙に浮く手紙を捕まえようとするが、手紙はひらりと躱す。俺も急いで手紙の口を閉じさせようと立ち上がるが、なんにせよ素早い。 不味い、流石に大広間でこれは公開処刑過ぎる……! ピーターが親から吠えメールを貰って顔を真っ赤にする意味がようやく分かる。 これ、何の拷問だ! 『えっと、親愛なるシリウスへ。こっちではもう雪が降ったよ。ホグワーツではどう?』 「だあああ! やめろ馬鹿! 降りてこい!」 手紙がなぜだか上に上にと上がり、大広間中でマイラの声を響かせる。全校生徒も教授たちも目を丸くしてマイラの言葉を聞いている。 『雪かきすごく大変だけど、この前シリウスの雪だるま作ったよ。一緒に写真入れておくから見てね』 大広間がざわつく。大した内容じゃないが、全校生徒の前で読まれるのは死にたくなるほど恥ずかしい。 『シリウスは友達と楽しく学校生活送ってるのかな? 私は、シリウスが居ないから一人でいること多いし、やっぱり寂しい。早く来年の夏にならないかなあっていつも思ってるよ。来年の夏もいっぱい遊ぼうね。またシリウスの学校のこと教えてね。楽しみに待ってます。マイラより』 その言葉と共に手紙はヒラヒラ俺の元へ舞い降りてきた。 「……えっと、なんかごめんね」 ジェームズが申し訳なさそうに謝る。 「し、シリウス大丈夫……?」 「大丈夫じゃねえよ……」 手紙をテーブルに放って頭を抱える。 何の羞恥プレイだこれ。全校生徒の視線が俺に刺さってることなんて見なくたってわかる。 盛大なため息が漏れた。 「ぷっ、ちょっとこれ似てないかい?」 ジェームズがなんだか急に笑い出したため、顔を上げる。リーマスに手紙の中身を渡していた。 「ふ、ふふっ……ごめ、笑っちゃ、だめなんだろうけど、ぷはっ、に、似てるかも」 リーマスが控えめに笑いだす。必死で堪えているようで、肩を震わせていた。リーマスが持っている紙を奪ってみると、それはマグルの写真で、目つきの悪い雪だるまが写っていた。さっき言ってた俺の雪だるまか。 ……俺の、雪だるま? この白くて丸いのが俺? 「似てねえよ!!」 「いや、この目つきの悪さとか口角の上がり具合とか結構似てる」 「うん、特徴、ぷっ……捉えてる、あはは」 「捉えてねえよ! あとリーマスお前笑い過ぎだ!」 ホグワーツで俺に本命ができたと噂が流れたと知ったのは、あとの話。 〈中略〉 イースター休暇が終わってすぐ、俺はマクゴナガル先生に呼び出された。要件は進路相談についてだ。 「さあブラック。その椅子にお掛けなさい」 先生に勧められて向かい合うように並べてあった椅子に腰を下ろす。 「この面接は、貴方の進路に関して話し合い、六年目七年目でどの学科を継続するか決める指導をするためのものです」 「はい」 「ブラック、貴方はホグワーツ卒業後、何がしたいですか」 いつものように真面目な表情をしたマクゴナガル先生が真剣に俺を見る。別にこれといった目標や夢はない。あのくそ家から離れられてジェームズたちと今までのように馬鹿やれたら。 けれどこの頭の固い先生にそのまま言うときっと大目玉を食らわせられる。考えて話さないとな。 「……闇払い、とか?」 家の馬鹿な両親を含め、純血思想の脳みそ腐った奴らを一掃しようと思えば、闇払いが一番だろう。闇の魔術に関わってる奴らも全員捕まえてやったらさぞかし気分がいいだろう。 我が親愛なる純血思想の親族たちや闇に陶酔しているスニベルスたちをブタ箱にぶち込んでやれる。そう思うと、闇払いという職業も悪くないような気がしてきた。 「……そうですか。闇払いは成績優秀な最高の者しか採用されない狭き門です。まあホグワーツの成績を見る限り貴方は問題ないでしょう」 資料の山から一冊取り出して開いた。どうやら闇払いの募集要項を見ているらしい。自他共に認めるくらい俺は優秀な魔法使いだ。成績で弾かれたらこのホグワーツの誰も受からないことになるだろう。 「しかし、成績でいくらパスできたとしても今の貴方では闇払い本部での性格・適正テストで必ず不合格になるでしょうね」 「は?」 断定したマクゴナガル先生に思わず目を見張る。 必ず、不合格になる? 「一体貴方は何のために闇払いを目指すのですか」 「何のためって……死喰い人――闇の魔術を使う純血主義者をなくすために、決まって」 動揺で心臓がバクバクと暴れ出す。先生はそんな俺に気付いているのか気づいていないのかわからないが同じ姿勢を崩さない。 「ええ、そうでしょうとも。質問を変えます。貴方はどうして闇の魔術を使う純血主義者をなくしたいのですか」 「それは……」 何も答えられない。 「貴方は純血です。ならば闇の魔術を使う純血主義者、死喰い人などに襲われる心配はないでしょう。それなのになぜ、貴方は闇払いを目指すのです」 「俺が純血だから闇払いになる資格はないと……?」 「そうは言っていません」 「なら、俺が、代々スリザリン出身の純血主義者が多く揃っているブラック家に生まれたから、闇払いになる資格はないと!?」 声が無意識に荒くなる。まるで母親と俺が同類だと言われているような気分になる。 なぜそんなことを言われなければならない。 俺だって、好きでブラック家に生まれたわけじゃない。ここに来てまで、俺の体を巡るこの血が、俺の邪魔をするのか……! 「落ち着きなさい。もし、あなたが闇払いになれば、親族と争う可能性があります。それでも良いのですか」 「あんないつまでも古い思想を大事に掲げている腐った連中どもを一掃できるなら本望だな!」 親族だって、血縁者だってかまわない。あいつらはたとえ血が繋がっていても決して家族なんかじゃない。 俺はあいつらとは絶対に違う。 絶対に、違う! 唇を噛みしめてマクゴナガル先生を睨みつける。先生は冷静な態度を崩さなかった。 「闇払いという職業は辛く、過酷なものです。一族が憎いから、ある特定の人物が気に食わないからと、当てつけに目指す職業では決してありません」 「っ……」 凛とした声が鼓膜に響く。 その言葉にどきりと心臓が鷲掴みにされた気分になった。真摯に俺の目を見つめる瞳には強く俺を導こうとする意志が見られた。 俺の考えは全て見透かされているんだ。荒ぶった感情がだんだんと冷えていくのを感じた。 「ブラック、貴方の人生は貴方自身の物です。決して過去の諍いや恨みに左右されてはいけません。もう一度よくお考えなさい。貴方が本当に何をしたいか、何をすべきか。聡い貴方はきっと最良の道を自分で見つけられるでしょう」 「……」 「貴方が自分で考えて、導き出した結果、もう一度闇払いになりたいと考えるならば、その時は全力でサポートします」 厳しい言葉は俺のためだったのだとやっと気づく。幼く考えの狭い自分が恥ずかしくなった。 この人は決して出身や血筋で判断するような人じゃない。ちゃんと俺自身を見てくれている先生だ。 「……すみません、でした」 「いいえ、わかればいいのです。何か迷うことがあればいつでも来なさい」 目尻に皺を寄せて優しく微笑んだマクゴナガル先生は、まるで俺を息子と認識しているようだった。俺はちゃんとグリフィンドールであると、この先生が寮監である獅子側の人間だと証明されているような気分になった。 ああ、俺は、この先生が寮監でよかったと心の底から思った。 失礼します、と挨拶し、部屋を出る。 「俺が、本当に、したいこと」 初めて考える将来のそれは、今までのどんな問題よりも難しく感じた。 〈中略〉 「――――」 心地いい声が鼓膜を揺さぶる。 眠る前におとぎ話を聞かせてくれる、まるで物語の中の理想の母親のように。 人肌の温度が俺を安心させてくれる。俺の求める親友との刺激的な日常とはまた違った、暖かく、穏やかな時間。 水底に沈んでいた身体が浮上するような感覚に瞼をゆっくりと開ける。 「あ、やっと起きた」 「……あ?」 口の中が乾いていてガサガサな声が漏れた。目を擦り、何度か瞬きすると視界が晴れてきた。 視界にはマイラと天井にぶら下がっているマグルの機械、電気が見えた。 「は!? ……いだっ!」 「いっ! ったぁ〜……!」 驚いて急いで起き上がると俯いていたマイラと額同士がぶつかった。ゴチン、と骨と骨がぶつかる音が響いて痛みが襲う。 「きゅ、急に起き上がらないでよ」 「悪い……」 お互い額をさすりながら話す。 「……俺、いつのまにか寝てたのか」 「うん。折角一緒に絵本読んでたのにさ、私に凭れかかって居眠りするし」 「悪い、つい」 「肩に寄りかかられて重かったから膝に移動させたよ」 だから膝枕の体勢になっていたのか……。俺が無意識に膝で寝ようと移動したんじゃなくてよかった。ホッと胸をなでおろす。 「そろそろお花に水やりする時間だから起きてくれてよかったよ」 パタリ、とプリンセスの絵本を閉じたマイラは机にそれを置いた。 この絵本はまた王子様のキスでお姫様の呪いが解けるような話だ。 ……毎度毎度このパターンでいい加減マンネリ化してきた。もっと面白いエンディングは思いつかねえもんか。同じパターン過ぎてついつい寝ちまうんだよな。 水やりをするために立ち上がったマイラに視線を移す。 俺がクリスマスに贈った、水が減らないじょうろを手に持ち、掃き出し窓から庭に出るマイラを、俺も移動して窓のサッシに座り、庭に足を投げ出してその様子を眺める。 何の歌かわからないが、鼻歌を歌いながら機嫌よく花に水をやっていくマイラをぼんやり見る。 ……花、やっぱり好きだよな。 好きじゃなきゃこんな立派なガーデニングなんかしねえか。 「なあ、花畑見つけたんだけどよ、今度行くか?」 「え? 花畑?」 花に水を上げる手を止めたマイラがきょとんと俺を見る。 「おう。学校の近くにあるの見つけてよ。まあ、明日からジェームズ達とキャンプだからそれが終わってからになるけどよ」 毎年恒例のこの行事は欠かせないイベントの一つだ。今年からはリーマスやピーターも呼ぶことになったから余計に楽しみだ。俺以外に友達がいないマイラには申し訳ない気もするがこれはどうしても行かなければならない。 「行きたい! 私いつでもいいよ!」 わあ、楽しみだなあ。とじょうろを持ったまま嬉しそうにくるりと一回転したマイラ。その拍子にスカートがふんわり持ち上がって、目の錯覚だろうけど、本当にほんの少し物語のプリンセスに一瞬だけ見えた。 「ハッ……何だそれ」 俺も絵本を読まされすぎて頭がメルヘンチックに変えられたのかもしれないと、思わず笑ってしまう。 さっき俺がぶつかったせいで額が赤くなっている記憶喪失のプリンセスの頭に、杖を使って魔法で近くに生えていたシロツメクサを編み、花の冠にして乗せた。 「わ、シリウスこんなこともできるんだね! すごい!」 にこにこと笑う、頭に花の冠を乗せたマイラは、どんな物語のプリンセスよりも華はない だろうが、俺は一番愛着が持てるような気がした。 (中略) キャンプも終わり、一度荷物を置きに家に帰る。両親や屋敷しもべとは特に会話も交わさなかった。 いつもならお前は能天気で責任感がないやら母上様からありがたいお言葉を頂けるのに、今日は廊下ですれ違っても何も言われなかった。いつもジェームズの家から帰ってきた後はジェームズの母さんとうちの母親を比べて嫌気がさしていたのに。客間に入っていく母親の背中を一瞥して訝しむ。 ……まあ、小言を言われたところでうっとおしいだけだから、何もない方がいい。 唯一レギュラスだけ「楽しかったですか」と聞いてきたため「おう」とだけ返した。 荷物を置いて、マイラの家に向かおうとすると、客間が開いた。 「やあシリウス。久しぶりだな」 「…………ああ」 中から出てきたのは母親ではなく、頬から顎にかけての一筋の傷が目立つ男だった。深い目尻の皺を寄せて深い笑みを見せてきた。 見覚えのない顔。……この家にいるってことは血の繋がりがある親戚なんだろうが、俺の記憶にはない。しかしこの俺に笑いかけてくる親戚が居るなんて珍しいことだ。そんな親戚のことは全員覚えているはずなんだが。 「ま、これからもがんばれよ。よろしく頼むぜ長男」 「はあ……」 ぽん、と俺の肩に軽く手を置いた男はそのまま客間の扉を閉めて中に入った。 「あいつ、だれ」 後ろにいたレギュラスに話しかけると驚いた顔をした。 「面識があるようでしたけど、違うんですか?」 「ああ。初めて見た」 「シャウラ・ブラック、母さんの又従弟らしいですよ」 「らしいって、お前も知らねえの?」 「ええ。先程お話しした時に、向こうも僕に初めましてだな、と言ってたので僕は初対面でしょう」 「ふーん。じゃあ俺が生まれたときに一度うちに来たのか」 「そうでしょうね。兄さんは長男ですし」 ……ブラックの本家の長男である俺が生まれたときは遠い親戚も集まっていておかしくはない。その時に会ったのだろう。生まれたての俺は全くそんなこと記憶にはないが。 「ま、どうでもいいがな」 玄関に向かって歩き出す。 「兄さん、今帰ったばかりなのにもう出かけるんですか」 「ああ。お前もたまには遊びに出かけたらどうだ」 振り返ってそう言うと、レギュラスはあからさまに顔を顰めた。母親の言いなりであるレギュラスは、友人関係どころか話をしてもいい相手も母親に決められている。そんなこいつに一緒に遊びに出かける友人はいない。なにもかも母親や、一族に縛られたこいつは一人で決めることすらできない。 「じゃあな。夕飯もいらねえよ」 「……はい」 せめて、「兄さんのせいで僕はこんな風になった」とか言い返せばいいのに。臆病で引っ込み思案なレギュラスは言わない。 ……まあ、実際そんなこと思っていないのかもしれないがな。もっと人のせいにして、自分の好きなように振舞って楽になればいいのにと思うが、言ってはやらない。こいつの人生はこいつ自身で決めることだ。こいつが自ら一族の言いなりになる人生を選んでいるのだから、俺には何も言うことはない。 ……もし、お前が、本気で自由になりたいと思っているのなら。 そう考えた所で頭を振ってそんな考えを振り払い、家を出る。 そんなありもしない未来のことを考えても仕方がない。レギュラスが決めることを俺が想像しても意味がない。 マイラの家までの行きなれた道のりをゆっくり歩いた。 (中略) 「この部屋ってどこにあるんだろう。シリウスは知らないの?」 「知らねえな。詳しく調べようと思ったことねえし。大体いつも行くところはリビング、図書室、風呂場、寝室くらいだしな」 マイラの家はそこまで大きくないため全ての部屋に入ったことはあるが、中を調べたことはない。どこかに隠し扉があるのかもしれないが、今のところめぼしい場所はわからない。物置の部屋とかもあったからそこに隠し扉とかあるかもしれねえな。一回探して見るかと考えているとジェームズが俺をガン見していた。 「なんだよ」 「ねえ、風呂場と寝室いつも行くってさあ……やっぱり君たちってやることヤっ……」 「てねーよ!? ばっ、ちげーよ、マイラのやつよくリビングで寝落ちするから運んでるだけで……」 「運んでそのまま寝込みを……」 「襲わねーよ! 付き合ってねーのにそんなことするわけねえだろ!」 「ふーん。へえ〜。付き合ってない子とはしないんだ〜。僕がホグワーツの廊下で見たのは幻覚だったのかなあ」 「ぐっ……あれは、向こうから、だから仕方なく……」 思春期であんな閉鎖的な場所に閉じ込められたら仕方ない。しかも向こうの方から誘ってきたんだ。キスくらいしても仕方ない……はずだ。 「マイラー! 聞いて! シリウスったら付き合ってないのに!」 「ああああ! バカ! ジェームズやめろ!」 いきなりジェームズが走り出して図書室を出た。 大声を上げるジェームズを追いかける。 事実だが、マイラには聞かれたくない。あいつはプリンセスの絵本を今でも読み続けて王子様に憧れるような女だ。 もし俺が一時だとは言え、遊んでたことがバレたらどんな目で見られるか……! 「マイラ! 聞い……て」 リビングについた瞬間ジェームズの勢いが失速した。 [戻る] ×
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