3年生の学年末テストが終わったとき。 今日も灌木の茂みに向かおうとセブルスと合流して芝生を歩いた。 リリーは後から来る予定だった。 私たちの特等席に近づくと二つの人影が見えた。 ポッターとブラックだと思って自然と警戒する。 けど杞憂だった。 茂みには男女が抱き合ってキスをしていた。 確かにこの場所は茂みによって死角もできるため隠れるのには最適だ。 テストが終わって思う存分愛し合っているんだろう。 「図書館にいくか」 「そうだね」 セブルスは私たちに気づかずまだキスしている二人組を蔑んだように、気まずそうにちらりと見て踵を返した。 そうか、私たちの年齢だったらもう彼氏や彼女ができてもおかしくないんだ。そこで初めて気づいた。 そのころ、毎日が地獄過ぎて、友達ですら作ることを諦めて人と関わらないようにしてきた私は恋愛なんて考えたこともなかった。 リリーやセブルスにも浮ついた話は全く聞いたことがなかったのも大きな理由かもしれない。 「あんなこと外でするべきじゃない」 セブルスは少し不機嫌だ。 私たちの特等席であんなことをしているのが許せないんだろう。 あいつらのせいで私たちが気を使わなければいけないのも納得いかないんだろう。 私も納得いかないといえば行かないが、この閉鎖的で自由が少ない学校という中で男女がイチャつくならああいった場所しかないんだろうとも思った。 「セブルスはリリーとあんなことしたいと思わないの?」 私の言葉にセブルスが固まった。 急に歩みが止まったセブルスに不審に思って顔を覗く。 その顔は驚愕に染まっていたが、ほんのり頬が赤かった。 もしかしてまたポッターたちに石になる呪いでもかけられたんじゃないかと思って辺りを見回したけど誰もいなかった。 油の切れたブリキのように私の方を向いたセブルス。 「……知って、いたのか」 「え? なにを?」 「ぼ、僕が、リリーを……」 「好きなこと?」 「く、口に出すな! 聞かれたらどうする!」 セブルスが慌てて私の口を塞いだ。 聞かれるもなにも。 セブルスのことを知っている人だったらリリーに気があるって誰でもわかるはずだ。 けどセブルスの口調だと、このことは隠していて今まで気づかれないように細心の注意を払っていたんだろう。 全く出来ていなかったけど。 慌てるセブルスが可愛い。 「リリーは気づいてないんじゃないかな」 「そ、そうか」 ホッとしたような残念そうな顔をするセブルス。 「ねえ、セブルス。リリーとの結婚式は呼んでね」 「け、結婚!?」 セブルスの土気色の顔は熟れたトマトのように真っ赤になった。 「ふたりの子供の名付け親は私ね!」 「ば、馬鹿! お、お前、子供を作るには……たくさんの、工程が……そんなことっ、できるわけ」 セブルスがブツブツと抗議しているがあまり聞き取れなかった。 いつもの鋭くはっきりとした声ではなく、弱気で恥ずかしそうな声だった。 相当照れてるんだろう。 「セブ! なまえ!」 「リリー!」 学校の方からリリーが小走りで駆け寄ってきた。 私は手を振ったが、セブルスは気まずそうにそっぽを向いた。 「まあ、どうしたのセブ。顔が真っ赤よ」 「な、なんでもない!」 決して今あったことを言う気はないのか、口を固く閉ざしてしまった。 リリーは首をかしげて私を見た。 私はおかしくて仕方なかった。 「リリーの子供の名前は私が付けるね!」 「なまえ!!」 セブルスが怒鳴るように私の名前を呼んだ。 「どうしたの急に。でもまあ、なまえだったら歓迎よ」 「やった!」 リリーはわけがわからないというような表情で、けど優しい表情だった。 「その前に相手を見つけないとね」 リリーのその言葉に今度こそセブルスの顔から湯気が出るんじゃないかと思った。 (地獄の中のオアシス) [戻る] ×
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