BULLY | ナノ




朝五時に目が覚めた。
結局二時に寝たため、三時間しか寝ていなかったことになる。


この日はクリスマスだった。


身なりを少し整えて談話室に下りる。
誰もいないことを確認してプレゼントが置いてある場所に向かう。
この寮には私と男子生徒、それにポッターたちの6人しか残っていない。

それなのにこの談話室に置かれているプレゼントの量は50個くらいある。
あんなにクズなのに人脈はあるのか。
反吐が出る。
燃やしてやろうかと思ったけどやめた。
どんな仕返しが待ってるかわかったもんじゃない。


私の名前が書いてあるものだけをとって自室に戻る。
少ないプレゼントを開けていく。
私の分はリリーとセブルスと両親のプレゼントだけだ。
それだけで十分だ。


両親からのプレゼントはオセロだった。
リリーとセブルスと一緒にやろうと二人が帰ってきた時のことを想像してにやけた。
手紙が入っているごつい封筒はベッドサイドにおいて、次はセブルスのプレゼントを開けた。

小さな箱にはふたつ折りにされた紙切れ一枚が入っていた。
プレゼントが紙?
手紙なのかな。セブルスが手紙書くとか意外すぎる。


開けると、それはホグワーツの地図だった。
地図には禁じられた森の入口あたりにバツ印がある。
【12月25日6時15分。リリーのプレゼントも一緒に】と右上にメモ書き程度に残されていた。




どういうことなんだろう。
意味が分からず、とりあえずリリーのプレゼントを開ける。


中にはカメラが入っていた。



ますますわからない。
6時15分にそこにあるものを撮れってことなのかな。
多分そうなんだろう。
リリーのメッセージカードにはメリークリスマス以外書かれていなかった。


意味がわからないけどなんだか宝探しをするみたいで胸が踊った。



カメラについているストラップを首から下げる。
ローブを着込んでマフラーを巻いてセブルスからの地図をポケットにしまう。



まだ5時40分だけどこのまま部屋にいてられなかった。
早くそこに行きたくて部屋を出る。
早く着いても待ってればいい。


日の出はまだで薄暗いが、クリスマスに日の出を迎えるのも悪くない。




「みょうじさん」



誰もいないと思っていた談話室で声をかけられたため反射で振り向く。
ルーピンが悲しそうに立っていた。



「おはよう」
「お、おはよ」
「どこに行くの」
「べつに、どこでもいいでしょ」



なんだか気まずくて素っ気なく返す。
まあルーピンに素っ気ない以外の態度で接したことはないけど。



「外に行くんだね」



……バレてる。
まあ、ローブ来てマフラー巻いてたら誰でも気づくか。



「僕も行く。待ってて」


ルーピンが踵を返して男子寮に戻っていった。
なんで付いてくるんだ。
べつにルーピンには関係ないことなのに。
本当に彼の行動はわからない。

……本気で私と友達になろうとしてるのか。


ルーピンが防寒を完璧にして帰ってきた。
なぜかルーピンは驚いていた。



「本当に待っててくれたんだ」
「え、だって、待っててって」
「ふふ、そうだね。それじゃ行こうか」



さっきまで悲しそうな顔をしてたのに今はなんだかご機嫌だ。
本当によくわかんないなあ。


私の後ろをついてくるルーピン。
話すことは特にないため、無言だ。




「ねえ」



沈黙を破ったのはルーピンだった。



「どうして昨日来なかったの」


クリスマスパーティーのことを言っているんだろう。
私は昨日気まずすぎて行ける状態じゃなかった。
その証拠に3時間しか今日は寝ていない。
ずっとルーピンの言葉が頭の中をめぐっていた。



「ポッターたちがいるから」



全く理由は違うけど、もっともらしい理由を言う。


「そっか……それもそうだね」



ルーピンも納得したみたいだった。


「どこに行くの?」
「セブルスのプレゼントをもらいに」



薄暗い空の下ザクザクと雪を踏み分けながら私たちは歩く。
寒いけど、空には雲一つない。
今日は珍しく晴れるみたいだ。

ここでは冬はいつも雪が降っていた。
降っていなくても雲は厚く、毎日どんよりしている。
晴れの日の方が珍しい。




「驚いた。彼も残っているのかい」
「ううん。ちがうよ」



ポケットから地図を出してルーピンに見せる。
ルーピンはその地図に目を通すが、あまり意味はわからないようだ。

着いてからのお楽しみってことなんだろう。




バツ印のところについて周りを見渡すが何もない。
目の前には禁じられた森、それ以外は一面雪でなにもめぼしい物はなかった。
太陽が出てきて、雪に日光が反射して目が痛くなってきた。
日焼けしそうだ。
今日は晴れどころか快晴らしい。



去年の両親のプレゼントである懐中時計を見ると、6時14分になっていた。



もうすぐだ。
雪の中からプレゼントが出てくるんだろうか。
それとも空から降ってくるんだろうか。
森から出てくるかも知れないと思ってワクワクする。





そして長針が15を指した。




周りを見渡すが、何もなかった。



「みょうじさん、なんか雪が動いてる」
「え」


ルーピンが指をさした森の方を見る。


まだ遠くてよく見えないが、何かが所々で飛び出してるようだった。
目を凝らしてみる。
そして何かが跳ねてこちらにやって来る。


ひとつ跳ねてそれに続くようにふたつ、みっつと続々と続いた。




その様子を見て気づく。




「……バカウサギだ!」
「え、ばか……?」



絶滅危惧種で群れで暮らしていても大抵10羽くらいなのに。
今釣られて渡ろうとしているバカウサギは少なくとも50羽はいる。
こんなにいるなんて!





ぴょんと軽やかに50羽が跳ねて、助走をつけると普段は隠している羽を広げた。
白鳥のような綺麗な羽を広げて一斉に私たちの目の前で飛んだ。



一匹残らず快晴の大空に羽ばたくバカウサギ。



ずっと見たかったこのシーンを間近でしかも予想外の大群を見られて感動する。
すごい、すごい!

図鑑で見るよりも何倍も迫力があって何倍も綺麗だった。



興奮で鼻息が荒くなってしまう。



「ほんとにすごい! ルーピン見た!? バカウサギが春が来たと思って間違えて渡っちゃったんだ!」
「……そうだね。すごく愛らしかったよ」



感想を言いたくて横にいるルーピンに伝える。
ルーピンも感動したのか微笑んで私を見る。


念願が叶って、嬉しすぎる。
図鑑で見た時からずっと見たかったんだ。



それをセブルスとリリーが叶えてくれた。
どんなプレゼントよりも嬉しい。
こんな最高の贈りもの他に聞いたことがない。





「やっぱり……」



感動の余韻に浸っているとルーピンが口を開いた。



「君は幸せになる権利があるよ」




いきなり何を言うんだ。
言葉の真意がつかめなくてルーピンを見る。
ルーピンはまだ優しく微笑んでいた。



「それはおかしいよ」
「どうして?」


ルーピンに反論する。
おかしいなんてありえない、というような表情で見つめ返される。




「その言い方だったら、幸せになる権利がない人もいるみたいだよ」



人間は誰しも平等だ。
私はこの学校に来てそれをよく思う。

私は幼い頃のように自分がヒエラルキーのトップに立っているとは思わない。
けど、今のクズどもの思想のように西洋人が東洋人に優っているとは思わない。
みんな平等だ。

人間は弱い。
自分よりも弱い人間を作らないと自我が保てないから。
だから人は大勢で少数を虐げるんだ。


情けない話だ。
人間は平等なのに。




「いるよ」
「え」



「幸せになる権利がないやつは、確かにいる」




さっきまで微笑んでいたルーピンは自身の傷だらけの手をみて苦しそうだった。
まるで自分に言い聞かせるように。






ここまでが私の記憶。



(ここから私の未来が始まる)
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