目が覚めると医務室のベッドに寝かされていて、アイスブルーが私を見ていた。 「起きたようじゃの」 「ダンブルドア、先生」 思わず起き上がる。 手足になんだか締めつけを感じられて視線をやると包帯でぐるぐる巻きにされていた。 なんだか暖かった。 包帯自身が熱を持っているようだ。 「もう少しで、両手足を切断するところじゃったよ」 「え」 「まあそれは冗談だが、凍傷にはなっておった」 校長の言葉に体が固まった。 冗談だという校長は椅子を取り出し笑いながら座った。 しかし、次に私と目を合わせたときには真剣で、私の全てを見透かそうとするような瞳だった。 気まずくて視線をシーツに下げる。 「さて、なまえ」 「……はい」 「わしに、なにか報告することはないかの?」 鋭い声だった。 マダムポンフリーが校長を呼んだと理解した。 今回の怪我は命に関わることだからと判断したんだろう。 全くいい迷惑だ。 校長が自分の髭を撫でるのが視界の端に映った。 視線を上げて、アイスブルーを見つめる。 「いいえ、何もありません」 「話すことで報復を恐れているなら心配は……」 「なにも、報告することはありません」 拳を作るとズキンと手が傷んだ。 「そうか」 今度は校長が私から視線を外した。 長く、真っ白な睫毛が頬に影を作っていた。 「では、おぬしは氷点下の湖で自ら好んで寒中水泳を行っていたということじゃな?」 少し馬鹿にしたような声色だった。 ここでこの挑発に乗ってはいけないと瞬時に判断した。 ここで乗れば校長の思うツボだ。 「はい」 「……おぬしがそう言うならそうなんじゃろう」 校長は諦めたようにもう何も聞かないと行った表情でゆっくりと立ち上がった。 悲しそうな目で私をちらりと見て校長は背中を向けようとした。 「あの」 完全に背を向けるまでに声をかけていた。 少し希望に満ちたアイスブルーが私の目を捉えた。 「質問は、あります」 「なんなりと答えよう」 なんだか、悪いことをした時に報告するみたいだった。 変な緊張感に手がじっとり濡れるのを感じた。 「私は、なぜホグワーツに入学しているんでしょうか」 「なぜ、とは」 「魔法史で習いました。世界には11もの魔法学校があると。そのことを聞いて気になって図書館で調べたんです」 私はそのことを習うまで魔法学校はホグワーツや聞いたことがあるダームストラングの二校しかないと思っていた。 ホグワーツは普通の魔術、ダームストラングは闇の魔術を教えていると思っていた。 「日本にも『マホウトコロ』という魔法の学校があるんですよね」 「さよう。日本にもある。わしの友人もそこで何人か働いておっての」 校長は目を閉じてまた自分の髭をなでた。 「どうして私はそこではなく、ホグワーツなんですか。どうして校長は私にホグワーツの入学許可証を私に送りつけたんですか」 おかしいと思ったんだ。 ホグワーツに東洋の生徒が全くいないなんて。 日系の人たちはいるが、それでもほとんどが4分の3は西洋の血だ。 日本に魔法学校があるなら、東洋の人間がここにいないのに納得できる。 マホウトコロという魔法学校が近くにあるなら、こんなイギリスまで来るわけがない。 どうして、私はマホウトコロじゃなかったんだ。 そこだったらこんな目には合わなかったのに。 ずっと、ヒーローでいられたのに。 「送り「つけた」とは、随分な言い方じゃの」 「だって! マホウトコロだったら! こんな目には合わなかった! 劣等生だなんて言われなかった!」 いじめの問題だけじゃない。 学力の問題でもだ。 日本の勉強であればもっと余裕でついていけたはずだ。 もともと私は頭が悪いわけじゃない。 英語、という壁が東洋人には高すぎたんだ。 「校長が、私に入学許可証を送りつけようとしたから、マホウトコロからの手紙が届かなかったんじゃないんですか」 冷静でいようと思っていたのに、いつの間にか声を荒らげて校長を睨んでいた。 キラキラとしたアイスブルーがすごく憎らしく映る。 7歳になる年にマホウトコロから手紙は届かなかった。 校長が圧力をかけて送らせないようにしたんじゃないのか。 「一つ間違っておるよ、なまえ」 「何がですか」 嫌に優しい声が癪に触った。 つい、厳しい口調になってしまう。 「わしが、おぬしを選んだのではない。自分の好みのものだけに入学許可証を送るなんて力はさすがのわしにもないからのう」 ほっほっ、と笑いながら校長は言う。 じゃあ、誰が私に送ったんだと訝しむ。 校長じゃないなら誰が。 「ホグワーツがおぬしを選んだんじゃよ」 (キラキラと光るアイスブルーだった) [戻る] ×
|