お風呂から上がり、部屋に入ると何かがたくさん飛んできた。 キツツキが木に穴を開けるような軽い音が部屋に鳴り響く。 あまりに急な出来事すぎて何が起きたかわからなくて固まる。 ものすごいスピードで私の近くを飛んだ物に目をやると、それはイルがいつも持ち歩いている針だった。 飛んできた方を見ると、イルが泣きながら新しい針を構えていた。 「い、イル……なにするの」 顔がひきつる。 なんで泣いてるの。 まるで昨日の夢みたいだ。 眉間にシワを寄せて私を射抜く。 「ど、して……」 たくさんの涙がイルの頬を伝う。 「なん、で、おれが」 構えていた数本の針はカーペットの上に落とされた。 獲物がなくなった手は強く拳を作られた。 嗚咽も交じるような声。 振り絞ったような苦しそうな声色は本当の気持ちなんだろう。 ……これはまた夢なのかな。 イルがこんな、声が変わってしまうほど泣くなんて想像できない。 感情が表に出ないのに。 こんな感情をむき出しにするイルなんて信じられない。 もうちょっとイルがわかりやすければなあと思っていた私の願望が夢に現れたのかな。 ……けど、こんなリアルな夢なんか見たことない。 現実なんだ。 「ころさ、なきゃ」 「かぞくのために」 「おれは、にいちゃんだから」 苦しそうに呟くイル。 私に近づいてきて手を首に巻きつけた。 ほんの少し力が込められる。 けど今までの首絞めの方が断然苦しい。 今日は全然苦しくない。 大粒の涙を流す姿に心が痛くなる。 お願いだから泣かないで。 悲しそうなイルを見るのはいやだ。 イルにはいつもみたいに飄々として欲しい。 「どうして、なまえはおれの、家族じゃないの」 「……いる」 少し首を絞める力が強まった。 「なまえが、かぞくなら、こんな想いしなくてすんだのに」 心の底からの願望を吐き出しているようだ。 イルと家族だったらこんな時もっと甘えてもらえたのかな。 私を家族だと思っていいんだよ、イル。 私はイルを助けたい。 イルの腕に手を添える。 「大丈夫、私がついてるから」 前に、言った言葉を繰り返す。 イルが息を呑む音が聞こえた。 「っ、お前が、ついてたら、なんでだいじょうぶなの……」 イルが懐かしむように、それでいてどこか自嘲気味言った。 まるで過去に言った言葉を繰り返してるみたいだ。 (こぼれた涙が私の肩を濡らした) [戻る] ×
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