fate. | ナノ




イルミside



親父に呼ばれた。
多分仕事の依頼か何かだろう。
別に携帯で言ったらいいのに。いつもは携帯で簡単に済ませるのに。
今日は直接会って伝えたいって言われた。


……そんなに重要な仕事なのかな。
面倒くさいのだったら嫌だなあ。
なまえに会いにいく時間削られるし。




「親父」
「ああ、入れ」



重々しいドアを開けるとソファベッドに親父だけでなくじいちゃんも座ってた。

……珍しい。




「話ってなに」
「まあ座らんか」



じいちゃんに促されて椅子に腰掛ける。
二人の顔は真剣で、いつも仕事を頼む様子とは全く違う。
じいちゃんや親父でも手こずるような相手が依頼されたんだろうか。
これは、オレも相当な準備しないといけないな。


親父が口を開いた。




「お前を呼んだのは仕事の依頼だ」
「そんなにやばいの」
「いや、ターゲット自体は簡単だ。一般人でも余裕で殺せる」



親父のその言葉に首をかしげるしかない。
そんなに簡単な相手なのにオレ?
一般人でも大丈夫ならゾルディックの執事にでもやらせればいいのに。

なんでこんなにも重大な発表をするみたいに言うんだろう。





「そのターゲット、オレが殺せばいいの?」
「ああ」
「ふーん。じゃあそいつの情報教えてよ」



さっさと行って殺そう。
終わったらなまえの家に行ってみたらしを食べよう。
なんだか甘いものが食べたい。







「ターゲットは、なまえ」


「……は?」






親父が何を言ってるかわからなかった。
今なまえのこと考えてたし、親父に思考を読まれたのかと思った。

親父にそんな能力はないはずだし、オレも思考が読み取れるほど表情は動かない。




「住んでいる場所はパドキア共和国デントラ地区のジャポン料理店の一人娘。歳は二十歳」
「冗談やめてよ」




モロなまえの特徴を言われても困る。
なにそれ、それってなまえがターゲットみたいだよ。
なんで一般人のなまえが命狙われなきゃならないの。
そんなはずがない。
親父たちの間違いだ。




「昔、お前が殺したがっていたからな。ちょうどいいじゃろうて」
「は?」



殺したがっていた?
いつの話してるの。
そんな感情とっくの昔に……。





「そうだ。お前になまえを殺すなと命令してたが、解除してやろう」
「親父、待って……オレは」




その続きは親父の殺気によって止められた。
どうして。
なんでオレがなまえを殺さなくちゃならないんだ。
理由は?
オレがなまえを殺さないといけない理由はなに?







「なまえを使ってキルの外への興味を削がせていたがそのキルも出て行ってしまったしな」
「じ、じいちゃんは? なまえの故郷に興味もってたでしょ」
「そんなものもう飽きたわ」
「もうなまえを生かしておいて何の利益もない」




利益でなまえを生かしておいたの?
なんで?
たとえなまえが生きていたことで親父やじいちゃんに利益はなくても俺には……。
利益はなくても不利益なんてない。
なまえがただ生きていることで不利益を被るやつなんていない。
誰だ、なまえに死ねと思っているのは。
誰だ。






「依頼人は誰」
「聞いてどうする」
「殺す」




そいつさえ殺せばこの依頼はなくなる。
そうだ、そいつさえ殺せばなまえは平和に、いつも通りに暮らしていける。
オレが、このオレがなまえを守らなきゃ。




「依頼人を殺す? はっはっは、イルは面白いのう」
「オレは真剣なんだけど」
「そんなことは無理に決まっているだろう」
「なんで」
「この依頼はもう受けた。なのに殺す? お前はゾルディックの信用と価値を落とす気か」



言葉に詰まる。
そうだ、どんな任務も遂行してきたゾルディックが依頼人を殺すなんてありえないし、前例がない。
それが広まればゾルディックの誇りを汚したも同然だ。



俺たちはそんなことはしてはいけないし、できない。









「けど!」




声を荒げる。
久しぶりにこんな大声を出した。





「オレは! なまえを殺したく……」
「イルミ」



親父に遮られた。
親父からもじいちゃんからも恐ろしい程の殺気を浴びせられて背中に一筋汗が伝った。
なまえだったら確実失神してる。
運が悪かったら死ぬかも。













「あまりオレを失望させるなよ」










親父達は完全に怒っている。
反論できない。
オレは今何を言おうとした?
『殺したくない』?
ゾルディックの、オレが?





「ゾルディックが唯一殺してはいけないのはゾルディック家の人間だけだ」





わかってる、そんなことは。
それを忠実に守って今まで生きてきたんだ。

ターゲットになった他人は殺せ。
守るべきものは家族。
大事にすべきは家族。


他人には決して持ってはいけない感情だ。




なまえはゾルディックの人間じゃない。
……家族じゃない。




だから、依頼が入れば、ターゲットになれば、殺す。





なまえは他人だから殺す。
オレの私情は必要ない。







「期限は三日だ。わかったな」
「……」









「ゾルディックの名を汚すような真似はするなよ」





「…………わかってる」




……オレには感情なんていらない。
邪魔なもの。
捨てたと思っていたのに。



オレはゾルディックのために生きるんだ。
キルが当主になるんだ、キルのためにもオレがゾルデックの名を落とすわけにはいかない。
オレの意志は必要ない。



すべては家族のため。
他人はいらない。
邪魔な他人は殺せ。





家族の、ため。



(胸の痛みで死ねればよかったのに)
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