fate. | ナノ




イルミside



定食屋に行く道をなんとなく歩いて向かってみた。
いつもだったら走っていくのになんだか歩きたくなった。



こんなの時間の無駄なのに。
なんでだろう。



自分でもよく分からずに気分の赴くまま歩く。






「……」



ふと、視界の端に白い花が入った。




いつもだったら気にならないのに。


けど気になったからその花のところへ足を進めた。






たった一本だけ誰にも見つからないように木陰に咲いている花。





「……カーネーション」


だっけ。
確かそうだったと思う。
白いカーネーションってあったんだ。




植物の知識は豊富な方だ。
けどそれは毒があるかないかでしか判断していない。
命に関わる毒のある植物の知識だけに偏りがあるのかもしれない。
ちゃんと毒のない花も頭に叩き込んどかないと。
もしかしたら役に立つかも知れないし。






なんとなく、なまえの顔が浮かんだ。




真っ白なこのカーネーションを見せたいと思った。





なんでだろう。
よくわからない。




たった一本のカーネーションを切って手に取る。







さっきまでは歩きたい気分だったのに今度は走りたい気分になって木の間を縫うように走る。




まるでこの花を見つけるために歩いてたみたいだ。






定食屋が視界に入ると、近くの畑で座り込んでる女がいた。
自然と走りが速くなる。
なんでこんなに急いでるんだろう。




「よし。こんだけでいいか」




なまえは弱いから俺の気配に気づかない。
別に絶をやってるわけじゃないのに。
どちらかといえば気配を出してるのにも関わらずだ。




だからあえて小石を近くの木に当てる。


コツン、と音がしてなまえの肩が跳ねる。




「ひっ!」



こんな小さな音でそんなに驚くんだから、オレがいきなり声かけたら多分心臓止まる。
本当に面倒くさい。
わざわざ小石を投げて俺が居ることを知らせなきゃいけないし。






「驚きすぎ」
「いきなり音がしたら誰だってびっくりするし!」
「もっと気配に敏感になったら」
「私は一般人なんで結構ですー!」




舌を出して顔をくしゃくしゃにする。
不細工な顔なのになんでだろう。



……なんでだろう。






「え、どうしたの、これ」



白のカーネーションを差し出す。







なまえにこの花を贈りたいと思うんだ。






「くれるの?」
「……」



上手く言葉にできなくて受け取るまで差し出す。



腕に抱えた野菜のかごを下においてカーネーションを受け取った。







「私のためにとってきてくれたの?」
「……」





顔に近づけて眺めるなまえ。



なまえに白いカーネーションを贈ってよかったと思う。











「すっごく、嬉しい!」









一本だったカーネーションが一気に何百本も咲いたように見えた。
キラキラ輝いて眩しい。


鳩尾辺りがマグマが湧いて沸騰してるみたいだ。
熱い。
体中が熱い。




なんで。
自分の体がおかしい。



本当になまえは念能力者じゃないんだろうか。
俺になにかしらの念をかけてるとしかこの異変が説明できない。






「花、もらったら嬉しいの」
「当たり前だよ! 私案外こういうベタなこと好きなんだよね」
「……そう」
「白いカーネーションの花言葉ってなんだろうね」
「さあ。そういうの興味ない」
「はは、だろうね。ま、いっか!」







花を贈ると、なまえの喜ぶ顔が見れるんだ。



それだけで頭がいっぱいだった。



(白いカーネーション)

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お願い


白いカーネーションの意味は諸説あります。
どちらかといえば悪い意味が多いですね。
しかし、これは母親に送ったわけではないので、区別してください。

カーネーション全般の花言葉と、白いカーネーションの恋愛の方の花言葉で理解してもらえるとありがたいです。
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