キルアたちにイルが今日帰ってくると伝えるともう台風のように逃げていった。 一体、どれだけイルが怖いんだか。 そして、夜、風呂上がりに自分の部屋に行くとイルがベッドに座ってた。 この頃はイルが窓から入ってよく寝ているため窓の鍵を開ける癖がついてしまった。 まあ、イルだったらこちょこちょと針でやればすぐに入れるんだろうけど。 「おかえり」 「……ただいま」 なんだかイルが落ち込んでる気がする。 ……家に帰ってキルアが出て行ったこと聞いたのかな。 「キルがさ」 「出て行ったんでしょ?」 被せて言うとイルの目が見開かれた。 イルの横に座る。 「知ってたの」 「今日来たよ。お友達と一緒に」 イルの舌打ちが聞こえた。 オレの大切なキルを……! って思ってるんだろうなあ。 イルは本当にキルアのこと大好きだなあ。 ま、私もキルアのこと大好きだし、似たようなものなのかな。 「なんで、止めなかったの」 「え」 「キルのお姉ちゃんなんでしょ」 「……え?」 その言葉にイルの方に顔を向けると、イルはごく自然に、当たり前だというような雰囲気で思わず固まる。 え、イル今なんて言った? 私がキルアのお姉ちゃん? いいの? 私がキルアのお姉ちゃんって名乗っても。 あんだけ昔怒ったのに? イルのせいでそれからキルアのこと弟発言するの控えてたのに。 「自分で言ったことなのに忘れたの」 「い、いや、覚えてるけど……」 「じゃあ何、その顔」 「キルアのお姉ちゃんって言っていいの」 「自分で言い出したんでしょ」 「けど、イルはそう言うと私を殺すくらい怒るでしょ」 真っ黒の瞳は何を考えてるかわからない。 けど、私の言葉で少し動揺したようだ。 なんでだろ。 昔は問答無用で首絞めたくせに。 「……殺さないよ」 小さく、か細い声で言った。 となりの私でも聞き落としてしまいそうな声。 「ゼノさんの命令だから?」 「違う。オレが、殺したくないから」 イルが拳を強く握った。 ……殺したくないって。 キルア、やっぱり君のお兄さんは改心したと思うよ。 そんなに邪険にすることないんじゃないかな。 今では他人の私にもこんなに優しくなったよ。 「そっか。じゃあ私はイルの妹になるね」 「え」 「だってそうでしょ? キルアのお姉ちゃんだったらイルの妹だよ」 「……そうだね。オレの妹か」 なんだか変な感じする。 イルの妹だなんて。 そういえば私小さい時はお兄ちゃんが欲しいってお母さんにわがまま言ってたなあ。 酷なおねだりしたな。 申し訳ない。 「イルミお兄ちゃん」 なんとなくノリで言ってみた。 イルの眉間にはしわが寄って、私はなんか小っ恥ずかしくて顔が熱くなった。 あれ、なんだろこれ。 「変」 「私も思った」 「なまえが俺のことお兄ちゃんって……」 「違和感ありまくりだよね」 全然しっくりこない。 違和感しかなくて、私だけでなくイルも気に入らなかったみたいだ。 「なまえは妹って感じじゃない」 「私もイルはお兄ちゃんって感じじゃない」 けど、年齢的にはイルは私より上だから、イルがお兄ちゃんで私が妹になる。 それは変わらない。 じゃあ逆だったら? イルが弟で私が姉? それこそ違和感の塊だ。 気持ちわるいよ、それは。 「けど、キルが弟ならこういう家族構成じゃないとおかしいのに」 「うん、そうだね」 キルアが弟っていうのはしっくりくる。 キルアは私の弟ポジションしか当てはまらない。 イルもそれは同感のようだ。 なのになんでだろう。 「こういうのって、慣れなのかな」 「そうかもね」 結局解決できないままこの話は終わった。 (キルアを弟にできるもうひとつの方法とは) [戻る] ×
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