「なにしてるの」 「だっ、誰だ!」 「いつの間に!」 「聞いてるのはオレなんだけど」 「黙れ! 見られたならお前も殺す!!」 なんだか軽い音が聞こえた。 「う、うわああああ!」 「折りやがった……!」 「ねえ、聞いてるのは俺なんだけど」 また、軽い金属を叩いたような音が聞こえたあと、汚い叫び声が聞こえた。 「ねえ、なにしてるの」 「ひっ……! コノヤロー!!」 「下手くそな纏。念能力者みたいだけどさ、まだ覚えて間もないでしょ」 「なっ、なん……! グがっ……ごッオオお……!」 「俺の質問に答える気がないなら黙っててよ」 「うわああああ! あっ、悪魔だー!」 慌ただしい足音が聞こえる。 けど直ぐに何かが刺さったような音の後、倒れ込んだ音が聞こえた。 「悪魔? 俺が使ってるのはお前たちと同じ念だよ」 「ね、念でそんなこと……!」 「できるよ。とりあえずここは大切な畑だからさ、どっか近くの森で苦しんで死んで」 「なっ、なんっ! 体が、勝手に……!」 「たっ、助けてくれ……! 頼む!」 「いてえ、いてえよぉ……!」 「あ、足の骨折ったんだったね。しばらくは痛覚がなくなるツボに針刺しておくよ。その代わり後でその倍の痛みが襲うだろうけど」 男の叫び声とゾロゾロどこかへ向かって行くような引きずった音が聞こえた。 「大丈夫」 「っ……!」 「ああ、いいから。答えようとしないで」 ものすごくひどい怪我だから。という声が聞こえたあと浮遊感を感じた。 「この顔だし、直接部屋に運ぶね」 驚く程の安心感に目を瞑る。 どうしよう。 安心したらものすごく頬が痛い。 「っう……」 「もう着くから、頑張って」 「ふっ……っうう」 「痛いよね。今は泣いてていいから」 「っく、うう」 窓を開けた音が聞こえたから部屋についたんだとわかった。 ベッドに寝かされる。 「強化系は得意じゃないんだけどな」 「……? っ!」 「反応したら傷に響くから大人しくして、力抜いて」 イルの手が頬に添えられて温かくなった。 気持ちいい。 イルに任せて体の力を抜く。 「はい。どう? まだ痛い?」 「え……って、あれ? い、痛くない」 「そ、よかった」 「なっ、なんで?」 「念っていうんだけど、まあ、知らなくていいよ」 「……そっか」 そう言われると、もう何も言えなくなる。 「大丈夫?」 「え……」 「怖かったんじゃないの?」 泣き痕がついていたのか、親指で拭われる。 そのままさっき殴られた頬に手を添えられた。 どうしよう、折角傷がいきなり治ったことで恐怖が収まったのに。 「っ、ううっ……こ、怖かった」 「うん」 頬に添えられたイルの手を上から包み込む。 「ひ、酷いことされて、殺されるのかと、おもったっ……!」 「うん」 「殴られたとき、何が何だかわからなくて……」 「うん」 「それに、何かわからない力で上から押さえつけられたみたいになって、」 「うん」 「怖かった……!」 涙が止まらない。 本当にイルが来てくれてよかった。 来てくれなかったら、今頃一体どうなっていたことか。 想像するのも憚られる。 「イル、イル……!」 「うん」 「ほんとうに、ありがと、うっ……!」 「うん」 「ありがと、ありがとう」 「もういいよ。ありがとうよりも、泣き止んで」 「っ、うん、っうう」 止めろと言われても止まらなくて、動揺する。 なんで、なんで止められないの。 止めようと頑張れば頑張ろうとするほど余計に涙があふれる。 「止まらない?」 「っ、ご、ごめんっ……」 今止めるから、と目をこするけど止まらない。 すると、イルに前髪をかきあげられた。 「え」 そのまま額にキスを落とされた。 えっ、えっ、なにそれ。 なんで、いきなり。 そしてそのままあぐらの上に乗せられて抱きしめられた。 何が何だかわからない。 なに、この状況。 「ミルがさ、泣いた時は額にキスして背中ぽんぽんしたら泣き止んだんだよね」 「え……」 「ま、その話はさ、ミルがまだ2歳か3歳のときの話なんだけど」 どう? 泣き止む? と聞かれる。 「ううっ」 「あれ、余計にひどくなった」 イルの体温と背中をポンポンと叩かれる心地よさに安心感が倍増した。 理由はわからないけど、余計に涙腺が緩んだ。 「やめたほうがいい?」 そう聞かれて、首を振る。 イルの肩に顔をうずめる。 「……やめないで」 「そう」 短く答えたイル。 それから特に会話はなくただひたすらイルにあやされていた。 心地よいまどろみに身を任せて目を閉じた。 「おやすみ、なまえ……」 (初めて呼ばれた名前が酷く嬉しかった) [戻る] ×
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