fate. | ナノ




カルトside





飛行船の中、イル兄様の様子がおかしい。
ずっとぼーっとしている。





どうしたんだろう。
これから仕事なのにこんな兄様を見るのははじめてだ。

確かに今回の仕事は僕がメインで動いて、兄様は万が一僕が危ないときのためについてきてくださっただけだ。
だからあまり警戒心がなくても仕方ないのかもしれないけど、いくらなんでも無さすぎる。



今だったら僕でも兄様に一撃ぐらい……。



気配を殺して近づく。





「カル」
「っ、は、はい!」




振りかぶった手を後ろに隠す。
し、心臓が破裂しそうだ。





「女って何をもらうと嬉しいのかな」
「えっ、お、女ですか」
「うん」




なんでそれを男のボクに聞くのだろう。
まだ十歳になり立てのボクに女が何をもらって嬉しいなんかわかるわけないのに。





「できれば寂しくなくなるようなものがいいな」

「な、なら、ぬいぐるみでしょうか」






咄嗟に出たのはそれだった。



女、って言うからには多分大人だ。
そんな大人にぬいぐるみは幼稚すぎるだろうか。



けど、ボクにはそれが精一杯だ。


こういうことは父様やおじい様に聞いたほうが絶対にいい気がする。






「ぬいぐるみ、そうか。うん。いいね」





お気に召したらしい。
よかった。

何が良かったかはわからないけど。

















――――仕事後






「ただいま」
「兄様! 一体どちらに!」




仕事が終わっていきなり、ちょっと出かけてくるから先に飛行船戻ってて。と言ったのが一時間前。






「その手の物は……」
「ぬいぐるみ、買ってきたよ」




うさぎの大きなぬいぐるみを片手に飛行船内に入ってくる兄様。
僕がさっき提案したものをもう買ってくるなんて。
行動が早い。




すると兄様がどこからか針を出した。

兄様が暗殺にいつも使ってる針とは違う。





「どうする気ですか?」
「これを、こうするの」





ぐさり、とうさぎの脳天に突き刺した。
思わずうわ、と声が出そうになる。
シュールすぎる。




「カル、このうさぎどう思う?」
「え?」




目の前にうさぎを差し出される。
このなんの変哲もないうさぎに、どう思うと聞かれても……。





けど、兄様がわざわざ聞いてくるのだから何か意味があるんだろうと目を凝らして見てみる。










……あれ。



なんだか。





「兄様に、雰囲気が……って、ご、ごめんなさい!」



ボクは一体何を言ってるんだろう。
こんなうさぎを兄様に似てるなんて。





「そう。それでいいよカル」
「え?」
「そういう風にしたから」
「どっ、どうやって」
「カルにはあと一、二年で教えてあげるよ」
「そ、そうですか」





兄様は今教えてくれる気はないんだろう。
気になるけど我慢だ。






このぬいぐるみ、どうする気なんだろう。










「これでなまえも寂しくないね」









「え」








このぬいぐるみ、あの女に渡すの。
兄様が?
わざわざ買いに行って。


あの忌々しい女に渡すの。




キル兄様だけでなくイル兄様までボクから盗っていくあの女。
二年前に一度会っただけだけど、鮮明に覚えてる。




強く拳を握った。




あの女のせいで。



イル兄様は家を出ることが極端に増えた。
キル兄様も家を出たそうにする。
おじい様もあいつの故郷にさらに興味を持ち始めた。
お母様もよくあの女のせいでよく嘆いて、悲しんでいる。





あの女のせいで家族はめちゃくちゃだ。
あの女のせいで!







「兄様、家に帰ったらボクと……」
「ごめんカル。今日は外で泊まるからまた今度ね」




今日もあの女の家に……。








強く拳を握ったせいで手のひらに爪が食い込む。





うさぎの手を動かして遊ぶ兄様。






あの女のせいで……!



(いつか絶対殺してやる!)
[ 19/45 ]
[*←] [→#]
[戻る]
×