G short | ナノ






「なまえ、何してんだ?」
「お、トシ良いところにいた。これからどんな髪型が良いかって、みんなに投票してもらってんの」

 
ぽんぽんと目の前にある投票箱を叩いた。


「へぇ、なんでまた?」
「いや、夏だし」
「そんな当たり前だろ? 的な顔されても意味わかんねぇよ」

「まぁ、要するにイメチェンしようと思ってさ」
「超私的だな。投票してもらってどんな髪型が一番人気か学校新聞に載せんじゃねぇの?」


怪訝な顔をして質問したトシだけど、私の性格をもっと理解してほしい。

「新聞委員でもない私がそんなことすると思う?」
「しねぇな」
「でしょ?」


わかってんじゃん。
私が動く時は自分に利益があるときだけ。
それを自ら進んで人のために動くなんて、天地がひっくり返ってもありえないし。




「まあ、そのことは置いといて。トシも投票してよ」
「ああ、いいぜ」


そう言うと、投票箱の隣にあった用紙とペンを取ってさらさらと書きはじめた。
 
うわ、きれいな字。
嫌味じゃん。

見てないようにしながらもそっと覗き込んだ。 

 
トシはショートが良いのか。
ま、そんなところだろうと思ってたけど。


そんな事を思っているうちに、トシは投票箱に用紙を入れた。


「コレで良いんだろ?」
「ご協力ありがとうございました〜」


形だけお礼を言うとトシは心がこもってねぇな。なんて悪態つかれたけど、お礼を言ってもらっただけありがたく思いやがれ!

背を向けて去っていくトシに向かって中指を立ててやった。









「結構集まったなぁ」


投票箱を上下に振ると紙と紙の擦れる音がした。
ざっと40人くらいは集まったかな。

これくらいで良いか。
あんまり集めすぎると開票するの面倒くさいし。

つかこの時点で面倒くさい。


やっぱ、1人ずつアンケートする方が良かったなぁ。
失敗した。


後悔が残っても、開票するしかないから蓋を開けようと投票箱に触れると、上から声がした。


「何やってんだァ? なまえ」

「あ、高杉。これね、どんな髪型がいいかっていう選挙」
「ほう。一番人気の髪型に##NAME1##がすんのか?」
「まぁね。けど気に入らなかったら、2位の奴に変えることもあるけど」


「……それじゃ選挙の意味ねェだろ」
「いいの」


結局、誰も何に何票入ったかわかんないんだからさ。
自分で気に入ったやつにしたいし。


民主政治に見せかけた独裁政治だなこりゃ。


「ねえ、高杉も投票する?」
「別に」


その後に続く言葉は『したくない』じゃなくて『やってもいい』という風に取るぞ。


「じゃぁ、この紙に好きな髪型書いて」

 はい。と高杉にペンと用紙を渡すと私に見えないようにか、離れた壁で書きはじめた。


「ここの机に書いたら良いのに」
「そこで書いたらお前、見るだろうが」
「別に良いじゃん」

「選挙だろうが。人の投票用紙に何書いてるか覗くんじゃねェよ」


高杉って変なとこで真面目なんだねぇ。
結局、形だけの選挙なのにさぁ。

 
隠されたら余計に気になるよね。
高杉はやっぱりロングかなぁ?

何か、長いさらさらの髪に自分の指絡めて口付けしながら誘惑してそう。


うわ……本当にやってそうなんだけど。
それで、女の子はころっと落ちちゃうんだろうなぁ。


なんか、卑猥だ。 
特に高杉だと。

 


「つか、何やってんの?」

髪型書くだけなのになんでこんなに時間掛かる?
 
高杉の方を見ると、何やらせっせと折っていた。


「鶴」
「はぁ?」


コイツ、鶴折ってんの?
 
なんでそんな面倒くさい事するわけ?
嫌がらせ? そうか、嫌がらせか。


開票する私に向かっての嫌がらせかコラァ!

鶴って、元に戻すの私出来ないんだけど。
いつも途中でああ〜!! ってなって破っちゃうんだよ、そこんとこ考えてよ高杉くん。


開票する時に、鶴見つけて高杉の奴め! って思うんだろうな。



…………ん?


「ねぇねぇ、高杉くん」
「んだよ」


「せっせと折ってるところ申し訳ないけど、鶴折ったらあんたが何に投票したか分かるよ?」
「あァ? それがどうした」

「あんた、自分が何に投票したか見られたくないんじゃないの?」
「誰がいつ、んなこと言った」
「良いんだ、みられても」
「別に良い」



なんじゃそりゃ。

見られて良いんだったら別に離れて書かなくても良いのに。
高杉の行動はほんと理解不能だよ。



 
「おらよ」

高杉の声がしたと思ったら、投票箱の中に紙が入れられた。

「どうも」


トシの時よりもより形だけのあいさつをした。

「明日、なまえの髪型楽しみだなァ」


喉を鳴らして去っていった高杉の背中を消えるまで見続けた。
ああ、何か高杉ってやっぱり卑猥。


そんな事を思いながら私は開票するべく投票箱の蓋を開けた。




+++++



「ふー……」



今までで一番人気はショートで二番目がポニーテール、三番目がお団子かぁ。
まぁまぁ、予想通り。


で、最後は高杉の嫌がらせとも取れる鶴だけ。
まずは綺麗に、開けるかが問題なんだけど。


無理だったら破いて、パズルみたいに繋ぎ合わせて見よう。

そんな事を思いながら、かさかさと開けていく。


「ここを、こーして……んでここを……って、ん? あれ、こっちか?」


鶴の構造を脳内で必死で思い出しながら開いたり、閉じたりを繰り返す。


「開いて、ここで戻して……おっ!?」


できた! 出来たよ!!

破れることも多々あったけど、パズルをするほどには破れなかった!!


「自分って天才」

キャッホォイ! なんて喜びながら裏に書いてある高杉の選んだ髪形を見た。


なになに?



…………え?


ちゃんと開けたことに喜んで上がっていたテンションが一気に下がった。

何書いちゃってんの、高杉。




『今まで通りが一番可愛い』


なにそれ。
あいつが、可愛いとか……柄じゃない。

しかも一番とかありえない。


いつもブスとか言うくせに。
なにさ、なにさ。

あんたがブスとか言うから、髪型変えようと思ったのに。

 
……ばっかじゃないの。


 
そう心の中では思っていても頬の内側から筋肉が押し上げられる。

くっそーむかつく、むかつく。


「うーあー……」



 
…………別に髪型はどうでも良いか。

高杉の投票のせいじゃなくて、ショートは切りに良くの面倒くさいし。ポニーテールとお団子は自分で上手く出来なさそうだし。

だからいつもと一緒で行くだけだから。



くそー明日、高杉の顔が容易に予想できて腹立つ。
 

モヤモヤしながらも衝撃的な投票用紙をポケットの中に忍ばせた。



一票の重み
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