くそっ…じれったいですわね…、私ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!(短編)



 世の中にはよごれ役を買ってでる人がいる。正確に言うと、別にやりたいわけではないが、そうしないと話が展開しない場合に。
 主人公(メインヒロイン)の姉という役柄に転生してしまった私は、まさにこの世界でのよごれ役>氛汕ォ役令嬢なのだ!


 12歳のとき前世の記憶をとり戻し、ここが転生前にハマっていたゲームの世界だと気づいた。
 原作のゲームだと、主人公の姉カチュアは、妹ティアに初恋の相手をうばわれた悔しさから数々の嫌がらせをする。そして断罪され、辺境の地に嫁がされるのだ。
 最初はゲームのシナリオ通りに生きるもんかと思ったけど、そうしないと主人公のティアが聖女の力に目覚めなくてこの世界を救えない。だが断罪されるのは絶対に嫌だった。
 だから私は地道な努力を重ねた。来るべき断罪イベントに備えて、妹のティアと友好関係は保ちつつ、初恋の相手をうばわれて嫉妬する姉を演じた。
 私がいないと主人公とヒーローの関係が発展しない(嫌がらせを受けて二人は恋を自覚する)ので、心のなかで「ごめんね」と謝りながらも嫌がらせをくりかえした。
 結果──…断罪イベントは迎えたけれど、妹のティアがかばってくれて、辺境の地には嫁がされなかったし。良かった。悪役の汚名は背負ってしまったけれど、生きていくのに十分な財産もあるし、ゲームシナリオも無事クリア!
 そう思っていたけど、また新たな問題に直面していたのだ。


「ティア……あのね」
「はい、お姉さま」
 満面の笑みでこたえるティアに、私は言いづらい言葉を放った。
「あなた、赤ちゃんってどうやってできるか知ってる?」
「はい。愛しあう二人にコウノトリが赤ちゃんを運んでくる≠です」

 笑顔を保つためにこめかみに力が入って痛い。私は震える手をティアの肩に添え、おそるおそる話を続けた。
「愛しあうっていうのは、具体的にいうとどうすること?」
「ええっと……ハグをしたりキスをしたり、ベッドの上で……」
 恥ずかしくて言いにくそうなティア。いいぞ。最後まで言え。
「一緒に眠ることです」

 私は深呼吸して続きをまった。だが続きは聞こえなかった。
「要するに、ハグして、キスして、一緒に眠れば、コウノトリが赤ちゃんを運んでくるのね?」
「ええ」
 なんの間違いが?とキレイな空色の瞳で尋ねられ、私は困り果てた。どこから話していいんだろう。どこから間違ったんだろう。
 そして、思い出した──。


 断罪イベントのあと、主人公は自分のせいで姉が辺境に嫁がされてしまったと罪悪感に苦しむ。そこへヒーローが現れ、「彼女の分も幸せにならなければ」と一気に恋が燃え上がる。
 そして二人があらわな姿でベッドの上に横たわるスチルが流れる……。


 今思い返すとなんてクソゲー。前世でプレイしたときは「ついに結ばれるのね!」とワクワクしたが、悪役令嬢の立場になって考えるとひどいもんである。
 ところで、その一気に恋が燃え上がる¥o来事は、姉である私とティアが和解したことで消えた。つまり主人公とヒーローはまだ結ばれていないのである。
 時間の問題ならべつに今じゃなくてもいい。だがこのゲームには2期があって、それは1期の主人公とヒーローの間に生まれた子どもの話なのだ。
 子どもが成長するまでに魔王が復活してしまったら、この世界は滅亡する。ゲームシナリオ通りに産まれてくれないと困るのだ……!

 私はまた、よごれ役を買ってでることになってしまった。なにしろ私が転生したせいで、ゲームの流れが変わってしまったのだ。世界滅亡の責任なんて負いたくないし。
 ここはひとつ。

「くそっ…じれったいですわね…、私ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!」


■□■□■


 さて、後回しになってしまったけどヒーローについて説明しよう。
 私の初恋の相手であり、ゲームのヒーローであるグランディア様は英雄である。主人公(ティア)とは8つ年上で、戦場で華々しく活躍していた彼。ゲームでは私がグランディア様に激しい片思いをして、聖女の力に目覚めた妹ティアと仲良くなっていくことに嫉妬するのだ。
 グランディア様はけっこうなイケメンである。さぞかし女性にモテるんだろうなと思ったが、魔王を倒すまで恋にうつつを抜かすまいと誓っている。つまり童貞。もう少しティアと結ばれるのが遅ければ、魔法使いにジョブチェンジしていた。

「はあ……」
 ちゃんと魔王を倒したあと二人は結婚したので、次の関係に進むことに問題はない。
 なんかこう、こじらせて来ちゃったぶん手を出せないんだろうな。
 グランディア様は筋金入りの奥手だ。なぜって、悪役令嬢である私が嫌がらせをしないとティアとの関係が発展しなかったし。聖女と英雄の結婚だって、周りからのプレッシャーがすごそうだ。男性ってストレスがあると出来ないらしいし。
 ちょっぴり同情した。まあ、ほんの少しのきっかけがあれば結ばれるだろう。問題はどうやってほんの少しのきっかけ≠作るかだ。
 だから彼よりも妹のティアを動かした方がてっとり早いと判断した。そこで赤ちゃんの作りかた≠ティアに教え込んでいたのである。


「えっ……そんな破廉恥なことを?」
「そう。ティアのおしっこや〇〇こが出るあいだの穴に、グランディア様のアレを入れるのよ」
「でも、あんな汚いところを彼に触れられるなんて……」
「大丈夫。世の中の恋人たちはみんなやってるわ。私たちだってお母様とお父様がそうしたから生まれたんでしょ」

 ティアは真っ赤になって声にならない悲鳴をあげていた。まあ、分かる。聖女としての才能を発揮したときから世俗と離されて成長したものね。グランディア様とのキスだって何年かかったかな。
 そんな二人を助けるため、私、悪役令嬢カチュアは初めての冒険(近くの市街地)に出たのだ!


■□■□■


 侍女からもらった情報を頼りに、私は必要なものを手に入れるため市街地を回った。
 工房を訪ねて「こんなものを作って欲しい」と設計図を見せる。はじめは和やかに対応してくれた親方たちも、若い女性に見せられたものに、ぎょっとして叫んだ。
「こんなもの、おれは作らないよっ」
「そう言わずに──…」
「他を当たってくれ!」

 どこの工房でも断られ、やはりこの世界では難しいか、と諦めかけていた時だった。
 とある工房の敷地へ足を踏み入れたとき、まるで映画のワンシーンみたいに、若い男の人が中から転がり出てきた。さらに荷物がぽいぽいっと放り出される。
 それだけで驚きだったが、放り出された荷物に目をうばわれる。──ディ○ドーだった。
 形もさることながら卑猥な物体はウィンウィンと魔動力で動いていた。

「……ねえ」
「うう……また追い返された……僕の発明はだれからも理解されないんだ…」
「ねえってば!」

 デ○ルドーを抱きしめて涙する分厚いメガネの青年に私は呼びかけた。
「それ、あなたが作ったの?」
「っ…あ、これは……!」
 昼間から目をはばかれる物、しかも若い女性に目撃されて青年は狼狽える。だが私はただの令嬢ではない!
「作ったのかって聞いてるのよ」
「は、はいぃ〜」
 青年は首を吊る寸前みたいな真っ青な顔で頷いた。侮蔑されると思っているのだろうか。ぎゅっと目をつぶっていた青年は、優しく手を両手でつつまれる感触に驚いて目を丸くした。

「すばらしいわ」
「…えっ!」
「すばらしい。あなたのような人を探していたの」

 思わず駆け寄ってのぞき込んでしまったせいか、青年は耳まで真っ赤になる。聞き間違いか?という表情でこちらを見返していた。
 縦ロールをなびかせ、私は高らかに宣言した。

「あなた、私の仕事を引き受けてくださらない? お礼は弾むわよ!」
「え、え、でも僕のこんなものを……あなたが僕を雇ったと噂になったら……」
「すでに私は悪役令嬢≠ニして名高いわ。あなたを雇うぐらい大丈夫。
 この道具の質感といい、性能といい、私が求めていたもの以上よ。あなたでないとやれないの。すばらしい才能よ」

 だから、と手をひっぱって青年を立たせる。彼はぼうっとした顔でこちらを見つめながら、私のなすがままになった。
「さあ立つの。あなたを追い出した人達を、見返してやりましょうよ!」


■□■□■


 青年の名前はマシューと言った。いくつもの新しい呪文や魔道具を発明し、魔法学校での成績は首席だったという。だが発明したものが問題で、新作を売り込むたびにどの工房でも追い返された。
 発明品はどれも彼の脳内でひらめいたものばかり。つまり妄想がすごいむっつりスケベだ。エロ方面にしか発想を活かせない残念な天才である。
 だが私にとっては最高の天才だった。

「す、すごいよカチュア……ボタンで3段階に振動を変えられるようにするなんて……」
「ありがとう。じゃあ、次はこれを作ってね」

 前世の記憶で(いい年をした大人だったので)見たことのある大人のおもちゃを提案すると、マシューは目をかがやかせて「天才だ」と呟いた。
 他にも、好きな人が触れると横リボンがほどける下着とか、すけすけのベビードールとか、マシューは電撃を受けたような表情で私に祈りをささげるほどだった。彼と昼夜問わず夢中で作業小屋にこもった。


 そして計画を実行する日がやってきた。
 就寝前、いつものようにベッドでちょこんと座っているティア。グランディア様が額にキスをして眠ろうとすると、とつぜんティアの寝巻きがすけすけになる。
 唖然とする彼の手をつかんで、ティアが「えい」と胸に押し当てた。手にしっとりと柔らかい肌の感触が伝わった。灯りも暗くなって、いい香りがただよってくる。
 極めつけは部屋のドアを開かないようにして、上にでかでかと『〇ックスしないと出られない部屋』と垂れ幕をかかげておいた。
 しだいにささやき声は甘みを帯び、みじかい途切れとぎれの会話だけが聞こえてくるようになる──……。


■□■□■


「ふう、ここまで見守れば大丈夫よね」
 となりの部屋で私とマシューは盗聴魔術をかけて様子をうかがっていた。もう大丈夫、と判断してマシューに声をかける。
「ありがとう。マシューのおかげで二人は幸せになれたわ」
「ううん、カチュアのおかげだよ」
 マシューは涙ぐみながら言った。おそらく想像はしても、自分の発明がどう他人に使われるか、ましてや感謝されたことなど初めてだっただろう。

「僕の使い道のない発明を生かしてくれてありがとう。きみは馬鹿にされてばかりだった僕に光を与えてくれた」
「違うわ。世の中には子どもができなくて苦しんでいる夫婦もいる。愛が深まるように手助けするのだって、すばらしい人助けよ」
「………」

 マシューが無言になったと思うと、大泣きしていた。彼は眼鏡をはずして涙をぬぐう。分厚いレンズがない顔はびっくりするほどイケメンで、私は思わず魅入ってしまった。

「ねえカチュア……きみは僕にたくさんの閃きと喜びを教えてくれた。僕の女神だ。きみのいない世界なんて考えられない。
 愛している。どうか、僕の思いを受け入れてくれないか?」
「えっ!…え、ええ……」

 マシューの顔があまりにもドタイプの顔過ぎて、私は頷いてしまった。まあ、才能もあって将来有望だし。繊細で優しすぎるけど熱い一面もあるし……。




 あれよあれよという間に話が進んで(両親は「汚名を背負ったおまえと結婚してくれるんだ! 天才魔術師を逃すんじゃない!」と非情だった。ひどくない?)、私とマシューは結婚初夜を迎えていた。

「カチュア……夢みたいだ。一生大事にするよ」
「それはどうもありがとう」
 披露宴を終えてお姫様抱っこされながら寝室に運ばれる。とすん、とベッドの上に降ろされた。すると手にコツンと硬いものが当たった。

「………?」
「カチュアがたくさん気持ちよくなれるように、僕の才能のすべてを注ぎ込んだから」

 卑猥な形をしたピンクの物体とか、卵型のおもちゃとか、小さな穴の空いた吸引機とか……そういうものが山盛りになってベッドにあった。
「説明が必要だよね。これはカチュアの乳首に装着して──」
「わかるから! 言わなくて良いから!」

 だからやめて、と必死に泣き叫ぶ私に、うっとりした表情で「説明しなくても分かるなんて。やっぱりきみは僕の女神だ」とマシューは言った。



 魔王が倒されて世界に平和がおとずれた。戦場の英雄と結婚した妹のティアは聖女としてあがめられている。
 天才魔術師と結婚した姉のカチュアが『夜に悩む人々』を救う性女≠ニして感謝されるのは、そう遠くない未来である。

 ──人間の世界に光あれ。



<おわり>

ひどい話ですみません。これが流行りの悪役令嬢であってますか…?
お二方とも、お幸せに!



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