悪役の末路



 ロビンフッドとは人物ではなく、ある役割の名称だということには気づいていた。おれの村にはそんな名前の悪者が登場する昔話がある。そいつが村人の悩みを代行し、身分の高いヤツをこらしめるのだ。
『ロビンフッドは首に縄をかけられ、捕まってしまいました』
 昔話ならその後で逃げ出すだろう。だが実際のロビンフッドたちは処罰されてしまったに違いない。罪人の名を口にすることは許されないから、悪者ロビンフッドに名をかえて語り継がれてきたのだ。

「すまない。お前にしか頼めないんだ」
「分かってるよ。この村で妻子が居なくて、動けるヤツなんておれしか居ないからな」
 妻は子どもができる前に流行病で死んだ。独り身の男。うってつけの存在だ。
「決行は明日の夜だ。皆で準備をととのえておく」
「あいさ」

 しけた顔で最後の夜を迎えたくないと思った。となり村にいる姉夫婦のところに顔を出した。
「おじさん、久しぶり!」
「おおきくなったなあ」
 家に入るなり抱きついてきた少女に驚いた。久しぶりに会う姪は背丈が胸まで伸び、娘らしい体つきになって誰か分からなかった。
「めずらしいじゃないか。盗っ人かと思ったよ」
「そうなるかもな」
 含みのあるおれの言葉に、姉貴ははっと口をおさえた。あんた、と弟を心配する姉を見ていられなくて、抱きつく少女の頭をなでた。
「しばらくここにいるの?」
「いいや、顔を見にきただけさ」
 ふうん、と少女は笑う。めったに姿を見せない半端者だったおじを彼女は忘れてしまうだろう。
「あたし、ぬい物ができるようになったのよ。おじさんの服もつくろってあげる」
「そいつはありがてえな」
 悪者は小さくわらって、もう思い残すことはないと思った。

                                                                 〈おわり〉



うたかた聖杯戦争




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