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=6粒目 クー・フーリン=
「バレンタインだあ?」
商売のにおいがぷんぷんするというように、彼は顔をしかめた。
「そんなあからさまな反応しないでよ」
それだけ彼が現世に馴染んでしまったということだろうか。せちがらい時の流れは胸にくるものがあった。
「どうせ1日経ったら半額で売られちまうものだろ。そんなもの必死にもらいたがる奴の気が知れねえな」
「………」
そんなことを言っていたので、もし渡したらどんな表情をするかと思い、スーパーで売っていた1個100円の安っぽいチョコを渡したのだ。
「お、おう」
彼はやけにすなおな表情でチョコを受けとった。それっきり、何も言ってこない。
「………?」
面白くない。――室内にながれる神妙な雰囲気。まるで、私が彼に好意をこめてチョコを贈ったみたいじゃないか。
商店街の気の抜けた音楽が聞こえてくる。彼は私に背を向けた。いつもと雰囲気が違うせいか、斜め後ろから見た彼は少しカッコ良かった。
6粒目
後日、彼からお誘いがありました。