■ ■ ■
=1粒目 エドモン・ダンテス=
「センパイ。そのチョコレートは誰にあげるのですか?」
マシュは残った小さな包みに目を留めた。いつもお世話になっているサーヴァントにチョコを配り終え、自室に戻るところだった。
「うーん…お世話になってるから渡したいんだけど。どうやったら会えるかわからないの」
「カルデアにはいらっしゃらないのですか?」
「どこにもいるようで、居ないというか…」
一日じゅうマスターの視線が誰かを探していたのを、マシュは知っている。口には出さないけれど絶対に渡したい相手なのだろう。マシュは渡せると良いですね、とほほ笑んだ。
真夜中。眠っているマスターの枕元には小さな包みがあった。『夢の中しか会いにきてくれないなら、強く念じればとりに来てくれるんじゃない?』と開き直った結果だ。
「だからってな……サンタクロースじゃないんだぞ」
その人物は安らかな寝音をたてて目を閉じる少女の傍に立った。起こさないよう静かに包みを手にとる。面倒だが持っていかなければ哀しむだろう。
まったく楽天的思考だ、と黒衣の男は愚痴った。
「…“待て、しかして希望せよ”とは俺の言葉だったか。しかし本人が眠ってしまっていたらどうやって礼を伝えたものか」
バレンタイデーの夜は本人たちのあずかり知らないところで静かな奇跡がおこる。
黒衣の男はふんと鼻を鳴らした。そのあと、少女の柔らかな肌に何かが触れた。
1粒目
後日、マスターにお返しが届きました。