■ ■ ■
=テスカトリポカ=
「テスカトリポカ、チョコレートどうぞ」
「おう」
煙草をふかしている長髪の男に、立香は近寄っていって菓子を差し出した。
男は口に入れる直前に、チョコの表面に描かれたモチーフを見て、思わず声をあげた。
「ドクロ?」
「うん。本当は1人ずつ手作りで違うものあげたいんだけど、そういうわけにもいかないから」
チョコペンでその人に合いそうな絵を1人ずつ描いてるんだ。立香はいつもより小さな声で説明した。本人は、「うまく描けてるかな」とか「嫌いなモチーフじゃないかな」とかそんなことを心配しているのだろう。
「それでドクロか」
テスカトリポカはじいっとチョコの表面を眺めて言った。「神に髑髏(ドクロ)の絵を描いて渡すとは、恐れを知らない女だな」
「えっ、そんな深い意味があるの?」
立香はおどろいて声をあげた。
テスカトリポカはただ好奇心で言っただけだった(もうすこし可愛いものを描いて欲しかった気持ちはあったかもしれない)。だがそれに対し、あわてふためき出したマスターを見て、テスカトリポカは、はぁーんと目を細めた。
「そうだな……ドクロには死≠フイメージがある。神によっちゃ、あなたに私の命を捧げますとか、死後はあなたの忠実な僕です、とかそう取られてもおかしくないよな」
「どうしよう……もう何人かのサーヴァントに渡しちゃった……。ドクロ以外にも、深い意味に取られるモチーフを描いてたら……」
良くないことが起きるかもしれない。立香は常にサーヴァントたちとの関係に気を配っているようだ。小さいが手間のかかったこのチョコも、彼女なりにサーヴァントたちを喜ばせたくて苦心した行為なのだろう。
テスカトリポカは笑いを堪えながら、吹けば飛んでいってしまいそうなか弱い少女をからかうのはもう止めておこうと思った。そこで、不安そうな立香の肩をぐっと抱き寄せて言った。
「大丈夫だ、お前はいつか必ず俺のところにくるんだから。本当のことだろ?」
──何があっても俺が労わってやるよ。ま、そう気になさんな。
テスカトリポカに耳元で囁かれ、立香は顔を真っ赤にした。死後の世界で戦士を受け入れる彼なりの励まし方らしい。でも、ちょっと未成年の少女には刺激が強すぎた。強い煙草の匂いもくらりと脳天に響く。
少女を存分にからかって、南米の神は満足げな笑みを浮かべた。
そう、今年はチョコよりも彼女自身の方が美味しく頂かれちゃったみたいだ。
15粒目
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