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 =11粒目 メイヴ=

 あら、マスター。今日はめずらしく髪にリボンなんて結んでるのね。とメイヴに話しかけられたのが始まりだった。
「うん。今日はバレンタインだから」
 褒められたのが嬉しくて笑ったのに、メイヴは『信じらんない』という表情に変わっていた。
「貴方……まさかその戦闘服で、好きな人にチョコを渡しに行くの?」
「でも、いつ呼び出されるか分からないから――」
「今日ぐらい境界線を引きなさいよ」
 メイヴの声は呆れ返っているというよりも心配している感じがした。
「好きな人に会いに行くときぐらい、戦闘を忘れて女の子らしい格好をしなさいよ。そうじゃないと本当の自分のすがたを忘れてしまうわよ」
「っ……」
 不意の言葉に気持ちが揺れる。そんな私の手を引いて、いらっしゃい、と彼女にマイルームに連れ戻された。
「座りなさい」
 適当にむすんだリボンを解いて、彼女は私の髪をブラッシングした。ほら、この服の方がマシよ。とクローゼットから女の子らしい服を選んで渡される。
「メイヴちゃん…私…」
「そんな格好じゃ戦えないって? バレンタインぐらい遅刻したって誰も貴方を責めないわよ。むしろ貴方に女の子らしいところがあったって喜ぶんじゃない?」
「………」
 大人しくされるがままになる。髪も肌もカサカサだわ、と彼女はいろんなところに文句をつけた。服を脱ぐと、身体の傷跡に目をやってため息をつかれた。
「――身体は傷だらけで、髪も肌もボロボロ。名誉の負傷って言うのかもしれないけれど、私はそうは思わないわ。
 レイシフト先でも手入れぐらいしなさいよ。あんたは英霊じゃない、生身の人間よ。心も体も、すり減らしたら治さないといけないの」

 着替えが終わると、彼女は歩み寄って、私の頬に手を添えた。
「唇もガサガサね。せめてリップクリームぐらい塗りなさいよ。…ほら、じっとして。私がぬってあげるから」
 小さなクリームをとって、私の唇をなぞるのは薄紅色の指先だった。言葉とは裏腹に、繊細なやさしい手つきでくすぐったかった。
「言い損ねたけど、これは私からのバレンタインの贈り物よ。チョコレートみたいな甘い香りだからって、舐めとったりしちゃダメだからね」

 メイヴは私に小さな贈り物をにぎらせた。それは彼女の手の熱で、ほんのり温かかった。


11粒目


 マスターはチョコを渡しに行きました。あなたは誰にロックオンチョコを渡しましたか?

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