砂漠の蜃気楼



砂漠の中にぽつんと現れた摩天楼は、さんぜんと輝くネオンに支配されていた。
華やかな街並みやスリル溢れる賭け事の雰囲気に飲み込まれ、一息つきたくてホテルの屋上に逃げてくる。
 熱気を帯びた風が額の汗をかすめた。屋上から街を見下ろせば、ここ数日の喧騒から離れられる。

「…はあ。すこしだけ」
楽しいけれど、疲れた。
ラスベガスの日々は胸躍る。でも南極に閉ざされたカルデアでの単調な毎日も穏やかで良い。立香の性格上の問題かもしれなかった。

目を閉じて、しばらく1人の世界にひたる。
風が心地よい――・・・。


「ホテルは気に入らないか、雑種。」
「っ…王様!」

目をひらいて姿勢をただす。声の主はキャスターのギルガメッシュ王だ。
今回の特異点では何故かリゾートホテルの経営者をしており、立香たちが滞在しているホテルのオーナーでもあった。
「そんなことありませんっ!ホテルに滞在させていただき有難うございます!」
「良い。我もそれなりに楽しんでいる」
ギルガメッシュは平伏しそうになっている立香に言葉をかけた。「それとも何だ。滞在の礼でもするというのか?」
「そ、それは……」
特異点に来た時よりQPの手持ちは増えた。クエストで使う分を引いて少しは余裕がある。
「僅かですが少しだけでも…」
「それは結構だ。貴様の懐など知れている。ならばこちらで――・・・」

彼の手が伸びてくる。その動きがじつに優雅で、立香は見惚れてしまっていた。
気がつくと唇に柔らかいものが触れ、王の精悍な顔立ちが目の前にあった。

「少しだがこれなら足しになる」
 魔力供給。でも唇が触れただけの、ささやかなものだ。「これを繰り返せばいつかは足りるだろう。さて、何日何回になるのだろうな。」
「っ……」

もっと手早い方法もあるが?とからかいを含んだ彼の言葉を、真っ赤になった立香は首を振って否定する。単純にギルガメッシュは立香をからかっているだけだ。

――でも本当なら、このやり取りはあと何日何回続くのだろう。

ただの戯れだ、と必死になって冷静さを取り戻そうとする立香に、背を向けて去っていくギルガメッシュははっきりと言った。
「明日も同じ時間に来い。来なければ後悔するぞ。」


1人残された立香は頬に手を添えた。
熱い。何もかもが浮ついて、胸が高鳴っている。間近にあった顔と囁かれた言葉が頭から離れない。

――これはきっと、熱気を帯びた風のせい。

今宵の王の戯れは、ラスベガスの特異点が観せた蜃気楼のようなものだ。





/

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -