番外編:豊葦原瑞穂国


「しばらく雨が続いてるね」
「今年はイネが育たないかな…」
「でもわたしたちには巫女さまがいるもん。大丈夫だよ」

小さな子供たちが会話をしている。
その声が扉の隙間から入ってきて、巫女は目を細めた。

――だいじょうぶだよ。

邪馬台国の真ん中には立派な館があり、一人の巫女が住んでいた。仕えているのは女のみで、男は弟しか会わない。
それゆえほとんどの人は、巫女がどんな姿をしているか知らなかった。
それでも民は希望を持って巫女を称えた。
彼女の存在はその時代に生きた人々の希望になり、邪馬台国を中心に諸国が連合し、戦のない平和な時代が築かれた。

――だいじょうぶ。私たちには巫女様がいるから。

彼女は未来を視ることができた。それでも正直に伝えるのは良いことだけ。悪いことは言わない。あるいは、こんな風に言った。

『武器が足りなくて奴国に負ける』
――武器を買っておいたおかげで奴国に勝つ。
『疫病がはやって大勢が死ぬ』
――薬師や呪い師になる子どもが増えると村が豊かになる。

彼女はこの国の未来が明るくなるように考えた。
人々が平和に暮らし長生きするクニを作ること。一方で、巫女は誰よりも現実を直視し、どうすれば理想を叶えられるか悩んだ。

人は未来を知らなくても生きていけるのだ。ほとんどの人は苦しい未来を知れば絶望してしまう。人間は希望を持てるから尊い。希望があれば辛くても良い未来をつくり出せるのだ。
そう信じて巫女は人々に予言を与え続けた。ときに避けられなかった不幸が起きて責められても耐えた。
嘘。希望。願い。――それらが彼女の伝説を作った。


時代を築いた彼女は満足して一生を終えた。そして約1800年後、大きく様変わりした故国でルーラーとして召喚された。

(私を喚んだ子には救いたい人がいるのね)

願いを知った巫女は、彼女に予言の力を与えなかった。人間は人以上の力を持つと、他の人と同じ扱いをされなくなってしまう。


――それは、苦しい未来を知らずに希望を持って行動するために。
――それは、愛する人と離れなくていい未来を手に入れるために。


巫女は人としてあつかわれず、生涯を孤独に過ごした。
貴方はどうか私のように苦しまないで。そして、愛する人と幸せになって。

女性から離れるとき、巫女は幸せな想いと共に去っていった。


<おわり>

主人公の身に宿った英霊を主人公にした番外編でした。







×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -