お弁当シリーズ

第1話

お弁当には、きんぴら、おひたし、プチトマト、ゆかりごはん。
「あっ卵焼き――…」
忘れていたお弁当のおかずに、塩辛いものがまじる。甘い中に、しょっぱい味。
「…もう、半年も経つのにね。」


私は今年から社会人になった新米OLです。
特技は無いし趣味らしいこともないけれど、高校生の頃からずっとお弁当作りは続けています。
お弁当といえば……
高校生の頃、好きな人の家庭で不幸があって、お昼休みにコンビニのパンをまずそうに食べる彼を見たんです。だから私は勇気を出してお弁当を作りました。お母さんに「二人分作って欲しい」っていうのは恥ずかしかったので、彼に食べてもらうために作ったのが初めての“お弁当”でした。
彼とは同じクラスなだけ。地味な私に急にお弁当を渡されて、怪しさ満点、重さマックスだったと思うんですけど彼は「サンキュ」と短く言って、食べてくれました。次の日、お弁当箱が綺麗に洗われて戻ってきました。
中には小さい紙。『卵焼きはおいしかった』。
それ以外は…美味しくなかったのかな?初めてだったから仕方ありません。でも私は嬉しくて、それから彼との関係が始まったんです。

といっても彼と付き合い始めたのは、大学を卒業する前でした。私は奥手だったし彼は部活人間で、ずっと健全な友達関係でした。彼が最後の試合で引退した夜、私に「ずっと好きだったから付き合って欲しい」と言ってくれました。
…ええ。最高に、しあわせでした。それから3ヶ月後。
彼は、あの冬木で起きた大災害に巻き込まれて亡くなったんです。彼の実家がそこにあって、家ごと跡形もありませんでした。


ひらひら、と桜が舞っている。
季節は4月末。今年は暖かくなるのが遅くて桜の花がまだ木に残っている。すでに葉桜だが……目の前を花びらが流れていった。
私は大学を卒業し、地元の会社で働き始めた。でも先輩から怒られてばかりで年齢の近い新入社員はいない。ひとりぼっちのぼっち飯だ。せっかくなら外の空気でも吸おうと思って、公園のベンチに座ってお弁当をひろげている。

( でも…ちょっと早すぎたみたい。 )

元気が出るかもしれないと思ってここに来た。
半年前の寒かったときも。彼とふたりでこのベンチに座っていた。彼が『寒くないか』って体をくっつけてきて――…。
やだ、やめよう。目を赤くして会社に戻って、『仕事で怒られて泣いたんじゃないか』って思われるのは嫌だ。ハンカチも置いてきてしまった。

「…だいじょうぶですか、お姉さん?」

ふとかけられた声に顔を上げる。このあたりでは珍しい外人の男の子だった。金色の髪に赤い目。端正な顔つきで、育ち良いのオーラを漂わせている。
私はメソメソ泣いているところを男の子に見られたのが恥ずかしくて、乱暴に服の袖で涙を拭った。
「あ、ありがとう。大丈夫だよ。」
にこりと形だけでも笑おうと思う。すると男の子はベンチに来て、空いていた私の隣に座る。
「ぜんぜん大丈夫そうじゃないですけど。何かありましたか?」
「ううん、何でもないの。ちょっと思い出しただけ…」

これだけ言えば、分かったらしい。ここは半年前に大災害があった冬木市。泣く理由なんていくらでも転がっている。
彼は少し気まずそうにして、違う話題を探した。私のお弁当に目を止める。
「それ、お姉さんが作ったんですか?」
「うん。」
何の変哲もない一般的な中身だったが、初めて見るお弁当だったらしい。
「へぇ、これが手作りの弁当なんですね」
「そう。作ってもらったことないの?」
流暢に喋るので日本に住んで長いのかもしれないが、小学生なら給食がメインで弁当を食べないのかもしれない。
「…食べてみる?」
私はなんとなく老婆心でお弁当をすすめてしまった。彼は断るのを失礼だと思ったのか、「じゃあ」と無難そうな卵焼きを選んだ。
爪楊枝で刺して、口にいれてあげる。彼はもぐもぐと咀嚼して、少し意外そうな顔をした。
「単純な味付けですけど、卵の甘みを少しのしょっぱさが引き立てていて、いくらでもいけますね。」
まるで食レポのようにスラスラと喋る。その様子が幼い男の子にそぐわなくて私は微笑んだ。
「お粗末様です。卵に砂糖と醤油を少し入れて焼いただけですが。」
「いいえ、割と気に入りました。」
彼はちらりとお弁当に目をやる。まだ一切れ残っていた。
そのとき私は自分が思っていた以上に寂しかったのかもしれない。何とも言えない空気感に差し出がましいことを言った。
「もしよければ、今度お弁当を作ってこようか?」
「…いいんですか?」
男の子はちょっと驚いていたけれど、この申し出は嫌なものではなかったらしい。
「でも、タダっていうのは…」
「別に一人でも二人でも変わらないよ。来る日を言ってくれたら、そのときに。」

私自身、押し付けがましい自分に驚きながら、その子の笑顔がとても可愛いと思った。
じゃあせっかくなので来週の同じ時間に。そんな口約束をして、彼がベンチから立ち上がる。

「無断で出てきちゃったので、そろそろ帰ります。お姉さん、ご馳走さまでした!」
「待って、君の名前は――…」
男の子はまるでどこかの王子様のように、胸に手を当てて名乗った。

「僕のことはギル。ギルくんと気軽に呼んでください。」


午後のひと時が、動き出す。



<つづく>

暇を持て余した神々の遊び、ならぬギルの遊び。
お弁当を通して、ZERO後のキャラクターが関わっていきます。


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